“I killed Cock Robin.” -2-
まずは、火元である。ウソは孤児院の裏手に回った。森に面している側である。ここにちょうど火元と考えられる物置小屋がある。
ウソはしゃがみこんだ。そして指で地面をそっとなぞる。
「なにしてるんだ」
トウテンコウはそう聞いた。
「いや、雰囲気でやってみたかっただけです」
「はあ?」
「見ただけでわかります。ここ、一番焼けた具合が大きい。カナリア、物置小屋の壁を、泥に書いてみてくれませんか」
カナリアは言われたとおりに、枝で物置小屋の壁があったと思われる場所に線を引いた。所々柱があるので、それを目安にすれば簡単だった。
ウソはその中心に立って、あたりを見渡した。そしてふむ、と頷く。
「何か我々は大きな勘違いをしているのかもしれないですね」
ウソは雨の中今度は庭へと出向いた。この庭も森に面しているが、物置小屋の裏とは違って見晴らしが良い。
そこにひとつ、ぽつんと寂しげにあるベンチに座る。フットが手作りした立派なベンチである。どうやらこれは火事を免れたらしい。まだ綺麗な木目が目に映える。
ウソはこれにも手を触れた。
「手作り、ですか?」
ウソがそう聞いた。カナリアは頷く。
「綺麗に塗装されています。どうやら雨粒も弾くようです」
ウソが空を見上げる。雨は相変わらず冷たく降っていた。
「ミスター・ロビンは、こういったものを作るのが好きだったようですね」
カナリアは頷く。火事を免れた手作りのブランコや、また他のベンチ、テーブルなどが庭に点在していた。
「これらの道具はさて、どこへ」
ウソがそう聞く。カナリアは少し考えた。
どこだっけ。いつもフットは危ないから、と何かを作るときは孤児たちを近づけなかった。だからみんな、完成品を見るのは本当に楽しみだった。
そうだ、あるときこっそりとカワセミとどうやって作っているのか見にいった。結局見つかったわけだが、あの時、どこからあの道具を取り出していただろう。
ここだ、この場所だ。
カナリアは物置小屋を指さした。トウテンコウは、それはまあそうだろうというような顔をしていたが、ウソは納得したような、しかし苦々しい顔をしていた。
「火事のあった日、この物置小屋に誰か入りませんでしたか?」
カナリアは首をかしげた。
実際、孤児たちもミセス・ロビンも自由に行動していたので誰がどうしていたのかはわからないのだ。
「ウソ、おまえ何かわかったのか?」
トウテンコウがそう聞く。ウソはただ頭を振るのみで、わかりませんとしか言わなかった。そしてウソは何かを思い立ったように立ち上がった。そして息を吐く。濡れた黒髪が、艶かしく光った。
「ここからは、私が情報を収集してきます。あなたたちは、帰って」
何かを決意したようにウソが言った。
「何言ってんだ、俺たちもついていく」
トウテンコウは引かなかった。
「そもそも、何の情報を収集するんだ。アオとシロが収集してるんじゃないのか」
「そうですが…しかし、それでも収集できない情報もあるのです」
「例えば」
トウテンコウの口調はきつくなっていくが、それに怯むことなくウソは一言言った。
「闇市」
トウテンコウの目が一瞬見開かれた。なんだそれ、とでも言いたげに。
「カナリア、君に聞くのは酷ですが…この孤児院はあまりお金が無かったのでは」
そうかもしれない。ミセス・ロビンの実家がいくら裕福とはいえ、目立った支援もなく子供8人を育てていたのだ。食べる物もあまり立派なものではなく、パンとスープがいつものメニューだった。
その考えを読み取ったかのように、ウソが頷く。
「ならば、闇市を利用しない手はありません。あそこは私の得意分野です。あなたたちは連れていけない」
そんな、というような縋るような目でカナリアはウソを見た。トウテンコウも息が荒く怒っているようであった。
すると、そっとウソはカナリアの頭を撫でた。
「大丈夫、必ず解決できます。待っていて」
ウソはそう言って足早に雨の中へ消えていった。
残された2人はウソを追うこともできず、とぼとぼと自分の家へ帰った。帰ると、トウテンコウの父であるミスター・コックが驚いた顔をした。そして風邪をひくだろうとこっぴどく怒られ、しばらくの自宅謹慎が命じられた。




