“with my bow and arrow.” -1-
アオサギが部屋の隅の煙突管に取り付けられたボタンを押すと、カウベルが鳴り響き、そして続々と人が集まってきた。集まってきたのは全部で3人。誰よりも背の高い銀杏のような色の髪を持つ眼鏡男、そしてその傍らに寄り添うこれまた銀杏のような髪色の女性、そしてアオサギと同じ背丈の灰色の髪の青年。彼らはキッチンの奥からやってきたり、はたまた玄関から入ってきたりした。
どうしてこのように集まったのか不思議に思っていると、カナリアの傍にやってきた灰色の髪の青年がボタンを指さす。
「チビ、あれは俺が作った通信装置だ。今は電波を飛ばして、受信機を反応させることしかできないが、役に立つ」
あのボタンが、そんなにすごいものなのか。
カナリアは感嘆した。この時代、まだ夜にはガス灯が灯り、カンテラを吊り下げた馬車が道を行くことが多い。電波や電気という言葉そのものはなんとなく聞いたことがあるが、実際に目にしたことはなかった。よく見ると確かにボタンの周辺には大きな箱型の機械が置いてある。
「シロ、そないモンほっといて、さっさと本題に入らへんとあかん」
アオサギが声を上げた。そうだな、と全員が中央のテーブルの周りの椅子やソファに座る。
まず始めに自己紹介をした。
長身の男はツミという名前でこの探偵事務所の事務所長であり、弁護士をやっているという。あまり知名度はない、と眼鏡を拭きながら呆れ顔でそう言った。
次にその傍らにいた女性はツミの妻であるオナガという。小柄で素朴な印象を受けたが、実際彼女はハーブなどの薬草を扱った料理やお菓子作りが得意だという。
最後にシロと呼ばれた灰色の髪の青年は、シロサギというらしい。彼は機械を弄るのが得意で、最近は自分で電気を作ったり、はては自作の電話を作ったりといった技術の持ち主だった。
「さて、今回の依頼というわけだが。カナリア君、まず君から事の次第を聞かなくてはならない」
カナリアは頷いた。ウソは先ほどカワウに事実を述べた(感情入りで読みにくいが)羊皮紙をツミに差し出した。
「それは、先ほどカワウと私が聞いた内容です。これが全てだとカナリアは言っていました」
ツミは真剣にそれに目を通した。そしてそれをアオサギとシロサギに回す。オナガは一度キッチンに戻ってハーブティーを用意していた。そのハーブティーが完成する頃には3人は事件を把握するに至った。
「カナリアちゃん、どうぞ」とオナガに勧められて手に取ったティーカップには、薄緑色のお茶が入っていた。林檎の甘い香りがする。
「カモミールティー、リラックス効果があるの。苦難に耐え抜く、強い花なのよ」
にこやかにオナガは言った。一口含むと、爽やかな林檎の香りが口いっぱいに広がった。まるで心の錘がスッと軽くなったように感じる。オナガはそれからカナリアの隣に座った。
「では、次に地理上の確認をしよう」
ツミはそう言って本棚の上の方から、この地域の地図を取り出した。孤児院はミセス・ロビンの実家が持て余していた町外れの土地にある。森に面しており、あまり人は近づかない。
ツミが地形を把握していると、今度はシロサギがどこからか厚紙を取り出した。何をするのかと思えば、孤児院の簡易模型を作りたいのだという。カナリアは詳細までも詳しく彼に伝えた。
それが完成すると、カワウから感嘆の声が漏れる。
「すげ…」
「手先だけは起用でな。チビ、火元はこの物置小屋と考えていいのか」
シロサギは上から見ると少し出っ張っている物置小屋の部分を指さした。カナリアは頷く。それを見ていたツミが何かに気づいたように息を小さく吸った。
「死角」
「そうなんですよ、ツミさん。ここ、うまい具合にコの字型に凹んでる壁があって、そこに隠れれば森の方面にいない限り誰からも見られずに済む」
「しかも、町と森は反対方向におる。要は、ほとんど人に見られんと放火でけるちゅうわけか」
そないとなれば、とアオサギは立ち上がった。
「逆に森にいかはった人を探せばええ。そないすれば犯人を絞ることがでける! 人海戦術は任せてーな。絶対に情報を手に入れはる」
「待て、アオ。君は最重要人物を忘れてないか?」
ツミが一際大きな声を上げた。
「ミスター・ロビン、彼だよ」




