“Prologue”
誰が殺した、駒鳥を?
それは。
「カナリア、カナリア!」
名前を呼ばれて意識が戻った。
呼吸を忘れていて、息を吸う。肺が焼けるようだ。
そう感じた。
「ミセス・ロビン…」
「ああよかった、まだ生きてるわね?」
ミセス・ロビンは安堵したように息を吐いて、抱えていたカナリアをもう一度強く抱きしめた。目の前では、炎が踊っている。それはまるで、ミセス・ロビンの髪の一部になったかのように渦を巻き、彼女の背中を焦がしていた。
「ミセス…背中…」
「カナリア、おまえは自分の事だけを心配するのよ」
よおく聞いて、カナリア。彼女は少し腕の力を抜いた。目には涙が浮かんでいる気がする。
「もう私たちは力になれない。おまえは1人で生きていくことになるかもしれない。それでも強く、心を強く生きて」
カナリアはミセス・ロビンが何を言っているのかさっぱり分からなかった。それほどにカナリアはまだ幼かった。
混乱するカナリアをミセス・ロビンは突き放した。
「まっすぐ、出口だけを見て走るの。まだおまえなら間に合う。いいね、まっすぐ、何も考えないで走って…!」
ミセス・ロビンは前のめりに倒れた。カナリアの足元に彼女の頭がある。背面が赤黒く焼けただれ、よく見ると彼女の両足は焼け焦げた柱の下敷きになっていた。
「ミ…セス?」
問いかけには答えず、彼女は苦しそうに呻いていた。もう言葉を発する力もないようだった。不安になって彼女に手を伸ばすが、唐突にカナリアは怖くなった。
目の前にいるよく見知った女性は、黒くただれた見知らぬ化け物に見えた。
そこからの記憶はない。