見てるだけなんて
僕の名前は積んど君。僕の伴侶は困った人なんだ。
いつもいろんな子に目がいってばかりで相手を絞れないんだから。
ふう、それにしても自分が見向きもされないなんて凄くつらいね。
まあ、仕方が無いか。
僕と君とではいるべき場所が違うんだから。
それに、僕は君が振り向いてくれるまで、待ち続けるしかないんだしね。
けど、あまり他の子に目をむけてばかりだと君がいつか困ることになるよ。
そのときのことを思うと面倒だけど僕にはどうにも出来ないしね。
君が僕の始末に困って苦労するのを見ているさ。
◇
俺はいつもあいつに愛されている。
あいつが家にいるときは俺が相手をしてやらないとダメなんだよな。
まあ、俺もあいつが楽しそうな顔をしてるのを見るのは気分がいいし付き合うのも悪くないけどな。
今日もあいつが帰ってきた。
やれやれ、仕方が無いからまた、相手をしてやるか。
なんでだよ。
なんでお前はそんなのと楽しそうにしてるんだよ。
いやだ、やめてくれ。
そんなところを俺に見せないでくれ。
ほんとは俺の方がお前と一緒じゃないとダメなんだよ。
お前にすこし辛くあたったことは悪かったから。
お前と一緒にいたいんだ。お前が他の奴を見てても良い。
だから、俺のことも見てくれよ。
頼む、頼むよ。
「やあ」
「あんたは……」
「僕は積んど君。君のことはずっと見ていたよ。僕はいつもここにいたからね。」
「あんたもあいつに捨てられたのか?」
「僕はあの子と部屋にきてから一度も一緒に遊んだことがないから捨てられたというのは少し違うかもしれないけどね」
「あんたはなんでそんなふうに微笑んでられるんだよ。辛くねえのか?」
「辛くはあるけど、僕はあの子のことを見ているぐらいしか出来ないからね。」
「それは俺への嫌みかよ!」
「いいや。僕は、君があの子と一緒にいてどれだけ楽しそうにしていたかは知っていたからね。そんな風に悲しんでいるのを見てられなかったんだ。君が耐えられないのなら僕に今思っていることを言って少しでも気を晴らさないかい?」
「お、俺、あいつのことが本当に大切だったんだ。あいつが俺といるときに楽しそうにしてるのを見て、俺、本当に幸せだったんだよ」
「うん。」
「く、うわあああああああ」
◇
なんなの、こいつは。
私と遊ぼうと家に誘ってきたのに、文句ばっかり。
一緒に遊ぶのを楽しみにしてたのに。
いいわよ。そんなに言うなら私だって容赦なんてしてやらないんだから。
いやあああああ、もうやめてええええ!!!!!!
私が悪かったわ。だから、もうそれはやめてっ!
それをされちゃうと私が私じゃなくなっちゃうの!
お願い、お願いだから。
もういやああああ!!!!!!
……
あ、ううう。
やっと、終わったの?
やっと、これで解放されるのね。
え、ちょっと待ってよ。
何やってるの?
これで終わりなんでしょ?
私のことを解放してくれるんじゃないの?
やだ、やだやだ!
そんな汚いところに向かって今度は何するつもりなの?
そんな埃まみれの汚い場所に私を連れて行かないで!
謝るから!私が悪かったから!!!
いやああああ!!!!!!
汚い、汚いいいいい!!!!!!
あ、ああああああ。
また、またなの?もう許してよ。
う、ううううっ。
「だれか、だれか助けてっ」
「やあ」
「よお」
「あ、あなた達は?」
「僕たちは積んど君。君の仲間だよ」
「あんたは災難だったよな。おれら、何も出来ねえからよ。見てるしかなかったけど、あれはねえよ。あいつ、なんであんなひどいことが出来るんだよ。昔はあんなことはしなかったのに!」
「あなた達は、あいつに乱暴されなかったの?」
「僕はここにずっと放っておかれたんだ」
「俺はあいつに飽きられて見捨てられたんだよ」
「そう。私、私だけ、どうしてあんなことされなきゃいけなかったのかな?私の相手がしたくないなら放置してればよかったし、飽きたのなら捨てればよかったのに」
「あの子も最近は忙しいみたいだからね。なるべく、手軽な手段をとろうとしているみたいなんだ。それに、あの子は独占欲が凄く強いからね。僕らに飽きても手放したくないんだよ。けど、それでもあんな酷いことをするようになるなんて、人は変わっていくんだね」
「あんなふうに卑劣になって、もう昔のあいつには出会えねえかもしれねえな」
「ご、ごめんなさい。あなた達も苦しんでいたのに、私、まるで苦しいのは自分だけみたいなこといって」
「いや、仕方がないよ。君はとても苦しんでいたんだから。僕たちでよければ力になるよ」
「ああ、まあ、苦しいときは素直にそう言ってみろよ。俺もこの人に苦しいこと全部言って少しは楽になったんだしよ」
「うん、ありがとう」
◇
「なんか、最近、あいつに部屋に連れ込まれる奴が少なくなったな」
「それに、部屋が明るいときも少ないわ。何があったのかしら」
「もしかしたら、僕たちがここから解放されるときが近づいているのかもしれないよ」
「そ、それは本当なの?」
「なんで、そんなことが言えるんだよ」
「最近、あの子の家族に大変なことが起こっているみたいだからね。まあ、君たちもここから出て行くことになるかもしれないのを意識していた方がいいよ」
「ええ、その時が来るのを待っているわ」
「ああ、そのときのために俺たちも耐えてねえといけねえしな」
「そうそう、その意気だよ」
「けどさ、なんであんたはそんな辛そうなんだよ」
「ええ、あなただってあいつのことで苦しんでいたし最近のあいつのことはよく思ってなかったじゃない」
「なんかあるなら言ってくんねえか?あんたはずっと俺たちを励ましてくれた。俺もあんたが苦しんでるなら力になりてえんだよ」
「そうよ、いままで一緒にやってきたんじゃない!」
「ありがとう。君たちにそういってもらえて凄く嬉しいよ。けど、大丈夫だよ。結局、一度もあの子と遊ぶことが出来なかったなって思ってただけだから」
「そう、か」
「ごめんなさい」
「気にすることはないよ。君たちの気遣いが嬉しかったのは事実だからね」
◇
「やっと、ここから出られるんだな」
「ええ、いままで長かったけどこれで終わりなのね」
「ああ、苦しかったけどよお前らといられるのもこれで終わりかと思うと寂しくなるな」
「ふふ、そうね。けど、これからはきっといろんなことがあるはずよ。私たちと一緒にいたことが名残惜しいからって自分の中に閉じこもっちゃダメよ」
「分かってるよ。お前も言うようになったよな」
「ふふふ」
「ん?なんで俺たち、分けられてるんだ?」
「私たち、解放されるのよね?」
「うん、君たちはね」
「どういうこと?」
「僕は捨てられるんだよ」
「ッ、な、なんでだよ!」
「そうよ、あいつの家が大変だから私たち売られるんでしょう?だったら、あなたも売られるはずじゃない!」
「あの子は君たちを売ることは出来ても僕は売れないんだよ。だって、君たちはRPGと恋愛アドベンチャーで僕はエロゲだから」