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もう片方の靴下は (短編集)  作者: 三澤いづみ


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箱の中に猫を入れるのは残酷なので

 お許しくださいシュレーディンガー先生!

 


 二人の冒険者が、小さなダンジョンの前で立ち尽くしている。

 ダンジョンの扉には不思議な古代語が刻み込まれているが、読むことは出来なかった。

 現在においては古代語を解読することは困難とされている。

 冒険者のうち、美少女の方はシーラ。十四歳のメイジである。

 もう一人の男はナフティ。十六歳になったばかりの少年剣士だ。二人は酒場で聞きつけた珍しいダンジョンの噂に導かれて、この場所に来たばかりだった。

 すでに先行してダンジョンを発見した熟練冒険者のパーティーは、どういうわけかこの中に入ることは出来なかった。

 だから、シーラとナフティも物見遊山のつもりで足を運んだのだ。


 しかし、閉ざされているはずの扉は大口を開け、二人を歓迎するように開かれていた。

 何かの条件を満たした場合に入れるのではないかとする推測があったのだが、どうやらシーラとナフティであれば条件に合致するようだ。

 普通、何の情報もないダンジョンに潜ることなど、二人には考えられない。なにしろまだ新米冒険者と言って良い経験と年齢だからだ。

 二人は幼なじみで、ようやく念願の冒険者になったばかりだ。

 ここは未踏破どころか、誰も足を踏み入れていないダンジョンだ。つまり、様々な財貨が手つかずで眠っている可能性が高い。

 一度でも困難な冒険を経験していれば、二人はそんな迂闊な真似をしようとは思わなかっただろう。誰も足を踏み入れたことのない場所とは、どんな危険が待ち構えているか分からないことも意味するのだから。

 だが、二人はそんな恐れなど微塵も抱かず、ただ栄光を夢見てダンジョンへと入った。食料はきちんと持っているし、腕にも武器にも自信がある。

 多少のモンスターならなんとでもなる。

 もしここですごい財宝を手に入れたなら、それはどんなに凄いことだろう。


 シーラはお転婆娘で、ナフティはそんなシーラにいつも振り回されていた。冒険者になろう、と言い出したのもシーラからだった。

 シーラには魔法の才能があった。だけど、冒険者の仕事には危険なものがいっぱいある。ナフティはシーラが飛び出していくのを止める代わりに、自分も鍛えるから少しだけ待ってくれとお願いしたのだ。一緒に冒険者になって、有名になって、世界中で面白いものをたくさん見ようと。

 街の外に出ることを今か今かと待ち望んでいたシーラは、いつも言いなりで、恐がりで泣き虫だったナフティの言葉を真剣に聞き届けた。彼の本気を知って、二年待った。

 その最初の冒険だった。こんなにワクワクすることが他にあるだろうか。

 手つかずのダンジョンに、自分たちが初めて挑む。

 まさしく冒険譚だ。ここからあたしたちの伝説が始まるのだ。

 シーラは、ナフティと足並みを揃えて、ダンジョンの奥へと進んでいった。


 二人がしばらく進んだあとで、ダンジョンの扉が閉まることなど考えもせずに……。





 このダンジョンには名前があった。人呼んで『シュレーディンガーの乙女』洞窟。

 また、扉に記載されている古代語は、以下の内容であった。


 1、まず、ダンジョン内に男と女(処女)ワンセットを用意します。

 2、ダンジョンに魔法物質フニウムを入れます。

 3、魔法物質は完全にランダムにエーテリウル崩壊します。その際放出した特殊マナを検出する魔法装置エロールカウンターと発情ガス発生装置を入れます。

 4、検出装置は発情ガス発生装置と繋がっており、もし魔法物質がエーテリウル崩壊した場合、発情ガスが発生し、男女の理性が飛びます。

 5、ダンジョンに男女を入れ、扉を閉め、中を観測できないようにします。

 6、この仕掛けの場合、男女の発情は魔法物質のミクロな振る舞い(エーテリウル崩壊)にのみ影響されると仮定します。

 7、さて、一定時間したらその女の処女は奪われているか残っているかどっち?


 やがて、この古代語が解読された結果、研究者たちの議論が盛んになった。


 このダンジョンのなかの冒険者は、魔法物質のエーテリウル崩壊という神秘力学的な振る舞いにのみ発情の有無が決定するため、観測者がダンジョンの扉を開けて中を観測しない限り、冒険者は神秘力学のセクサスらが唱えた確率的解釈により一昼夜腰を振っている冒険者と、真面目にダンジョン攻略に励んでいる冒険者が50:50で重ね合わせで存在している事になる。

 つまりダンジョン内の冒険者の処女は、扉を開けて観測されるまで、残っているし失ってもいるのである。

 扉を開けた場合は、観測した瞬間に冒険者の処女は残存か喪失か、どちらか一方に収束する。


 だが。

 果たして、本当にそうだろうか?



 新人冒険者の二人は、翌日から行方不明として扱われていた。酒場であのダンジョンを見てくると言い残しての失踪だ、まさかと誰もが思っただろうが、他の場所に向かった形跡はない。

 ダンジョンの扉は閉まったままだったが、足跡は二人がここまで来たことを示していた。

 三日後、あまり期待せず再びダンジョンの前まで二人を探しに来たパーティーは、ちょうど開いた扉から出てきたシーラとナフティを発見した。

 二人は自分の足で脱出してきたのだ。その吉報はすでに諦めかけていた救援部隊を喜ばせた。

 激闘の結果であろうか、二人の服は乱れており、魔物とも人間のものともつかない体液の匂いがこびり付いていた。

 また、ダンジョン内で日頃とは異なる経験を重ねたのだろう。幼い子供でしかなかったシーラの表情には大人びた色気が混じり、ナフティの顔にも男らしい自信が覗けた。

 疲労は隠しきれないほどに溜まっていたが、その一方で、二人は何かを成し遂げた喜びに満ちあふれていた。

 危機や苦難が二人の結びつきを強めたのかもしれない。

 そして以前より少しだけ落ち着きを得たシーラは他の冒険者たちに深々と頭を下げ、ナフティと寄り添って、どこかへと去っていった。

 彼女たちの後ろ姿を見つめ、救援部隊のリーダーは、ただ小さく嘆息した。


 

 ダンジョンの中では、果たしてナニがあったんでしょうか?

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