現実主義者と2人組
これまで生きてきて、まさかこんなセリフを吐く時が来るなんて思いもしなかった。
「ここはどこですか?」
目的地を聞くでなし、目的地の道順を聞くでなし、国や地名その他諸々の情報を問うた超アバウトな質問。
「ここはどこですか?」
このセリフが有効なのは、誘拐された時と、拉致された時と、致命的な迷子になった時だけだと思ってた。
まさかこの自分が言うなんて、このうん十年考えたこともなかった。
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「キース、待たせたな」
あいた扉からもう一人出てきた。
「あ、隊長」
「どうだ、何か話したか」
後から出てきた隊長とやらが、キースという男に話しかける。
キースとは、現実逃避中だった私にずっと、何か話していた嫌な目の男だ。
「それが何も。妙なことを口走っては、妙な動作をしていました。かなり怪しいです」
んなっ。
ただ頭が痛くて呻いただけだし。
頭痛に耐えれなくて、頭抱えただけだし。
誤解だし。
怪しいって。
人が大人しくしていれば、言いたいこと言って。
まぁ、だからといって何ができるってわけでもないので、大人しくしている。
「そうか。少し気になる情報が入ってきている」
隊長が、声のトーンを落として話す。
何々、情報?
今はどんなことでも知りたいぞっと。
「情報ですか?」
そうそう、聞き出せキース。
人から話を引き出すのは、社会人としては必須スキルだぞ。
頑張れキース。
「一旦あっちに戻るぞ」
あちゃー、賢明な判断だ。
最低限心得てるわ、この人。
だけど、情報が入ってきた事を洩らすのは-1だ。
おしい。
って、おしくない。
敵を褒めて何とする。
「了解しました。」
キースがそう言い、この場を離れる二人。
あぁー、行ってしまった。
こういう状況の判らない時は、何でもいいから知りたかったんだけど、残念。
さて、これからどうなるのやら。
一抹の不安が、二人の歩き去る音と反比例して大きくなる。
「あれはどうしますか?」
最後に聞こえた、聞き捨てならないキースの言葉に反応する。
あれと呼ばれた私。
正直不快だ。
「明日戻……その……に……んする」
不明瞭な声だけを残して二人は去った。
遠く離れたこの場所でも、話声はかすかに聞こえる。
てことは、一本道とあたりをつけてみる。
3つの月に照らされた、牢屋と私。
浸っていたところで、私の腹の虫が大きく”めしー!!”と喚き散らした。
「…ぷッ」
物音一つしない空間の中で、遠くにいる二人の内のどちらかが吹き出した。
まだいたのか、失礼な奴らめ。
「明日こ……に来る……に、……くを持って……てやれ」
やった…って明日かぁ。
こういう時は、寝る。
寝るに限る。
そして、気づいた。
「あっ」
結局私の、ここはどこかという質問には答えてもらってなかった事に。
はぁ~
結局今日一日何回溜息ついてんだろね?ホントに。