現実主義者が至った先は
気付いたらそこは異世界だった。
よくある小説のよくあるシチュエーションのワンフレーズ。
友人が好んで読んでいた小説の中にも、そういうフレーズの物があった。
そして今私が置かれている状況が、まさしくこのフレーズそのままだった。
わけが解らない。
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「あ~、しまったもうこんな時間かぁ」
定時なんか、遥か彼方に過ぎた。
あと少しだけと思いつつ、資料を作り続けてみれば21:00を過ぎていた。
昨日の仕事分を今日に持ち越したのも、残業の原因ではあるが。
まぁ、その割には早めに終わったので良しとする。
さてと、帰るか。
勢いつけて立ったら、前の席に誰かいた。
全然気付かなかった。
堂島だ。
「堂島、お先。」
「あぁ、お疲れ様っす。なんか雨やまないっすね。先輩気をつけて帰って下さいね?」
「ありがと。きりのいい所で上げないと、帰りそびれるぞ~」
「あはは~、1時間以内で終わらせますよこんなの」
「おお、頼もしい。んじゃ、お疲れ様」
堂島にそういって会社を出る。
さっきあいつが言っていた通り、外は雨だった。
しかも結構ひどい。
軽く鬱になった。
帰ったら21:30か~、何も作る気しないから冷凍物で済ませるか。
などと、今晩のメニューを考えつつ帰途につく。
遠くでは雷がなり、徐々に近づいていた。
その音に追われるようにして、車を走らせる。
時々フラッシュをたいたように、周りが明るくなる。
もちろん対向車のライトではない。
?????
なんか本当に雷が近づいているような気がする。
少しばかり焦った。
えーと、光って音が鳴るまでの秒数数えれば、大体の距離が判るんだっけ?
お?光った1・2
アーまだ大丈夫。こっちは55km出てるし。奴は1kmほど先だし余裕余裕。
また光ッたと思ったところで、焦げ臭い何かがフロントガラスを突き破り頭にぶつかってきた。
あー雷も追ってきてたんだっけ。
そりゃ追いつかれるよな。
あぁ、数学弱いの忘れてた。
そう考えた所で、意識が途切れた。
んで、気づいたら異世界だった。
何故ここが異世界であるいう考えに至ったのかは、割と簡単な答えが目の前にあったからだ。
ただ、どれだけ目の前のものが現実を訴えていても、私の気持が納得しなかった。
だから先程、現実逃避をしていたのだ。
例え頭を襲う痛みが現実を知らせ、目に映るものが本物であると知らせていたとしても。
気を失った以降、現実逃避を行う以前、目を開けると私は冷たい床に横たわっていた。
冷たい床は石畳になっていて、ひどく寝心地が悪い。
そっと体を起こすと、体中が痛みを訴える。
体を庇いながら周りを見渡すと、1か所明るい所があった。
窓だ。
30cm四方の小さな窓から光が漏れていて、この空間を照らし出す。
周りを見渡すには十分な光量である事に満足すると、ゆっくり首をめぐらした。
そして目を見張る。
そこは鉄格子(!!)が嵌めてある、まるで牢屋のような部屋だった。
というか、牢屋そのものだった。
鉄格子の向こう側には1m幅の通路があり、更にその向こうには扉がある。
それら以外にこの部屋には、見るべきものがなかった。
一通り部屋を見回した所で、窓の外が見たくなった。
あちこち痛む体に鞭打ちながら、窓に近づく。
高い所に鉄格子がはめられた窓があり、外の風景を見る事が出来なかった。
まぁ、当然の作りといえば作りなのだが、何だか悔しい。
まぁ、仕方がないかと諦める。
幸い、空だけは眺める事が出来たので、壁を背に座り空をぼんやりと眺めた。
その眺めた先には、月があった。
3つの月が。