現実主義者と人類の敵
「あ、ちょっと」
とか私が言う前に、キースが扉を開ける。
はぁ、心の準備ができていません。
これから何が始まるのか、ちょっと不安だ。
だけど、そんな不安を上回る人類の敵がやって来た。
というか、すでに囲まれている事に今気付いた。
美形は滅ぶといいよ!
思わず叫んだ私は悪くない。
――――――――――――――――――――――
扉が開くと、1人の男が入ってきた。
こちらを品定めするような、そんな目でこちらを見る。
昨日からこの視線に晒された事、幾数回。
正直飽きた。
とりあえず、じっとその視線に対抗するように見つめ返してみる。
相手が驚いた様な顔をした。
だけど、すぐに無表情をつくった。
お~、表情筋鍛えられてるなぁ。
そしてその男は、どことなく優雅な足取りでこちらに向かってくる。
貴族かな?
貴族なんだろうな。
オーラがセレブだ。
本物は違う。
それにしても、と思う。
この国は、美男美女が多い気がするのは、私の気のせいか?
現に目の前のこの男は、30代前半の怜悧なタイプの男前だ。
そして隊長は、30代の渋みが出てきた、落ち着くタイプの男前。
キースに至っては、20代独特の青さの残った美形。
この3人を前にすると、男も女も溜息をつきたくなるだろう。
男は嫉妬で、女も嫉妬で。
ともかく、この二日間で出会った人物全てが、整った顔立ちをしているのは確かだ。
これは凄い確率なんではないだろうか?
と言っても3人だけだが。
待てよ?
あの、ロンドン兵よろしく扉の前に立っている2人も、なかなか顔が整っていた。様な気がする。
いやいや、それを言うなら、馬車に乗る前に私をじろじろ見ていた奴らも、美形度高くなかったか?
女の子もやたら可愛いし、美人とかもちらほら見えた。
え?もしかして、私の様な顔って、ここではマイノリティーなのか?
友人曰く私は、数日経つと思い出せなくなるんだそうだ。
いつも「~さんってどんな人?」と聞かれて困るんだそうだ。
ひでぇ。
これでも印象に残るように、ダサい伊達眼鏡して、特徴をつけて努力してるって言うのに。(友人曰く、流行りのファッションとかしていると、逆効果なんだと。)
ともかく出会って数秒で脳内消去されてしまう私は、外回りには向かず内勤だ。
だが名刺の減りは半端ない。
営業でも何でもないのに。
減るわ減るわ私の名刺。
多分、2度渡し3度渡しがしょっちゅうだからだろうな。
そろそろ名刺代を請求されるんじゃないかと、懸念してみたり。
さて、何故顔の話をしているかというと、実は2人組の顔をじっくり見たのはこれが初めてだったからだ。
隊長は、顔を見ようと思ってもどうしても逆光になる位置に立っているか、背後に回っているため見る事が出来なかった。
キースも同じく逆光で、一度正面からまともに見たけどすぐに顔を反らされた。
なので、じっくり見る機会がなかったのだ。
はぁ、改めてこの3人を並べて見ると思わずにはいられない。
「この世の美形は滅ぶといいよ!」
3人が一斉にこっちを見て、私はギョッとなる。
え?なに?
あっ。
どうやら、声に出てたらしい。
3人の視線が痛い。
非常に痛い。
この2日間の中で、最もいたたまれない。
穴があれば入りたい。
穴がないのでとりあえず俯いておく。
「そろそろいいだろうか?」
アークオーエンという人物が口を開いた。
とっさに顔をあげたら、ひっ、睨まれた。
怒ってらっしゃる?
あーくそ、美人が怒ると本当に怖いなぁ。
しかも他の二人も、なんだか無表情で怖いし。
はぁ、もう何とでもすればいいよ。
腹をくくった。
恐る恐るそろーっと、上目遣い気味に相手の様子を見た。
目があった。
その途端、アークオーエンという人物が、片手で顔を隠し目を瞑って何やら考え込んで動かなくなった。
動かなくなった男の姿を見て、不安が戻ってきた。
どんな質問が飛んでくるんだろう?
お前はどこの間者だ?
とか、どこの国の人間だ?
とか、どうやって入国した?
とか、仲間はどこだ?
とか、いきなりワイン出されて、そのままズドン。
とか。
うわー嫌な展開しか思い浮かばないぞ。
背中に嫌な汗をかきながら、表情筋を総動員して無表情を保つ。
とりあえず話を聞く時は目を合わせるのが、私のモットーだ。
姿勢を正し、聞く体制に入った。
もちろん目を合わせる事も忘れない。
アークオーエンという人物が再起動し、空いている椅子に腰かけた。
「私はファイン=クェイネル=デラ=アークオーエンです。まず貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
あれ?自己紹介?
しかも言葉遣いが丁寧。
囚人に対する態度ではないような気がする。
ここに入ってから、手枷も外されているし。
もしかして、この人は私が囚人だという事を知らない?
考え込んでいると、小突かれた。
「あ、私はレイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンです」
ま、間違ってなかったよな?
ちょっとドキドキした。
「まず、ジャポンさん、貴方に確かめてもらいたいものがあります」
うあっちゃ、そう来たか。
ジャポンさんか、ジャポンさんね。
思わず遠い目をする。
アークオーエンさんが突如人を呼ぶと、部屋の中に誰かが入ってきた。
何やら物体を抱えて。
あれは…
私のバックだった。




