第9話:スポットライトの裏側
第9話をお読みいただきありがとうございます。
バイト先の現場で、日高の「本気の仕事」と「いつもの素顔」のギャップに安心する墨染。 ですが、人気女優からの猛烈なアプローチを前に、墨染は日高への「チャラ男疑惑」を募らせます。
助けを求める日高と、それを「恋愛に疎いから」だと誤解して助ける墨染。 二人のすれ違う「疎さ」の攻防をお楽しみください!
1. 現場での再会
久しぶりにスタジオバイトのシフトが日高の撮影と重なった墨染。
本番、カメラが回る中、日高がヒロインに頬を叩かれるシリアスなシーンを目の当たりにする。
(……うわ、今の結構いい音したぞ。大丈夫かあいつ、あんなの何回も撮り直しして……)
心配して見守る墨染だったが、カットがかかった瞬間に「ガク」の鋭いオーラが消える。
いつもの猫背で前髪をいじる日高に戻る様子を見て、ふっと肩の力が抜けた。
(……あぁ、やっぱりこっちが日高だわ。……仕事してる時のあいつは別人だけど、今は安心する)
そんなことを思いながら日高を見ていると、メイクを直している彼のもとへ、共演者の上原りみが近づいていくのが見えた。
2. 上原りみの誘い
上原りみは、スタッフである墨染のことなど背景の一部としか思っていない様子で、甘い声を出す。
「ガクくん、お疲れ様。……ねえ、この後もし良かったら、二人きりでご飯行かない? 素敵なお店、予約しちゃった」
一世を風靡する美女からの、ストレートな誘い。
それを見ていた墨染は、昨日の保健室の感触が頭をよぎり、どろりとした感情が胸をかすめる。
(……おい、俺にキスしたくせに。結局ああいう綺麗な女とも仲良くすんのかよ。……インキャだと思ってたけど、男も見境ないチャラ男なのか、あいつ?)
3. 助け舟
撮影が一段落し、ようやく二人きりになれた通路。
墨染は、さっきの苛立ちを隠すように、わざと意地悪く声をかける。
「……頬、大丈夫かよ。……あと、おめでとな。美人な女優さんと二人きりで飯だって? 鼻の下伸ばしてんじゃねーぞ、チャラ男」
すると、日高は前髪の隙間から、ひどく面倒そうな視線を墨染に向けた。
「……全然、ちゃらくねーよ。恋愛、したことねえし。……だいたい、好きじゃないやつとご飯行くとか無理。……絶対行きたくない」
「はあ?」
結局、墨染は「しょうがねえな」と付き添い、再び声をかけてきた上原りみの前で盾になった。
「あ、すみません。日高、このあと俺の宿題見てもらうことになったんで。今日はご飯行けないみたいっす。すみません!」
墨染が明るく断りを入れる間、日高は後ろで「女、だる……」という空気を隠しもしない不機嫌な面持ちで立っていた。
4. 呆れと、すれ違う「疎さ」
上原りみが去った後、墨染は呆れたように首を振る。
(あんな露骨に好意向けられてんのに、嫌そうな顔して……。こいつ、マジで自分の恋愛には疎いんだな)
「……お前なあ。……自分の恋愛には、どんだけ疎いんだよ」
すると、日高は一瞬だけ足を止めて、墨染をじっと見つめ返した。
(お前の方こそ、俺がなんでこんなに不機嫌なのか、わかってないだろ……)
「……お前にだけは、言われたくない。……お前の方が、よっぽど疎いだろ」
「……あ? 俺は別に……」 言い返そうとした墨染を制するように、日高は話題を変えた。
5. 変わらない飴の味
「……今日はもう上がれ。低血糖、なるだろ。……明日の昼休み、学校で飯奢ってやるから。……さっさと帰れ」
日高は、バイトで疲れている上に糖分が足りていなさそうな墨染を心配して、促す。
日高はポケットから一粒の飴を取り出して、墨染の手のひらに押し付けた。
「……これ食って、帰れ」
(……結局、こいつはこいつなんだな)
ドラマの世界の「ガク」は遠いけれど、こうして俺の体調を気にかけて飴をくれる「日高」は、いつもの日高のままだ。
墨染は、呆れと少しの安心感が混ざった不思議な心地で、その飴を口に放り込んだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
カメラが回っていない時の、どんよりした日高を見て安心する墨染。 ですが、人気女優・上原りみさんからのアプローチを前に、「俺にキスしたくせにチャラ男かよ!」とモヤモヤを爆発させてしまいました。
日高からすれば「興味ないから断るのを手伝ってほしい」だけなのに、墨染はそれを「恋愛に疎くてアプローチに気づいていない」と解釈……。
そして最後、低血糖の墨染を心配してさっさと帰らせる日高。 口は悪いけれど、彼にとっての『特別』はやっぱり飴を渡す相手だけのようですね。
次回、約束の「学校でのランチおごり」。 どんなお昼休みになるのか、ぜひお楽しみに! 面白いと思ってくださったら、評価やブックマークをいただけると励みになります!




