第6話:再現と共犯者
第6話をお読みいただきありがとうございます。
前回の撮影現場での一件以来、どこか「夢」だったのではないかと自分に言い聞かせていた墨染。
そんな彼を待っていたのは、保健室での日高による、あまりにも強引で、あまりにも甘い「再現」でした。
ついに二人は、お互いの秘密を分かち合う「共犯者」になります。
日高が最後に見せる、余裕のない素顔に注目してください……!
1. 気まずい再会
放課後の保健室。墨染はドアの前で何度も深呼吸を繰り返した。
あの日、スタジオで自分を助けてくれた「ガク」。
あの眩しすぎる姿と、目の前にいるはずの「日高」がどうしても結びつかない。
意を決してドアを開けると、そこにはいつものように前髪で顔を隠し、メガネをかけた日高がいた。
「……日高。あの、一昨日……」 言葉が詰まる。
日高は本から目を離さず、けれど墨染が近づこうとした瞬間、低く呟いた。
「……『夢』だと思って、なかったことにしようとしてるだろ」
「っ、……」
2. スタジオの「再現」
日高が本を閉じ、無言で立ち上がる。
戸惑う墨染を椅子に座らせると、日高は迷いのない動きで墨染の前に膝をついた。
墨染の頭をそっと引き寄せ、自分の膝の上に乗せる。
スタジオで倒れた時と同じ、あの体勢だ。 「……っ、日高!? 何……」
日高はポケットから銀色の袋を取り出し、歯で噛み切って開封した。
あの時と同じ、甘い香りが狭い保健室に広がる。
「……これで、ちゃんと思い出せ。夢なんかじゃない」
日高は自分の指で墨染の唇を割り、ゆっくりと一粒の飴を押し込んだ。
至近距離で見つめ合う二人。
指先の熱と、現実世界の日高の強い視線に、墨染の心臓は爆発しそうな音を立てる。
3. 秘密の共有
日高は膝枕の姿勢を崩さないまま、真剣な眼差しを向ける。
「お前がバイトで必死に生活費を稼いでることや、体質のことを隠したがってること。……そして、俺がここで『ガク』を隠してること」
日高は、墨染にだけ聞こえる声で告げた。
「これで、お互いの秘密を共有し合ったな。……誰にも言うなよ。共犯者だ、墨染」
「……わかった。……約束する」
墨染は、日高の体温を感じながら、静かにその「共犯関係」を受け入れた。
4. 「なんでそんなに優しいの?」
口の中で飴を転がしながら、墨染はずっと胸につかえていた問いを口にした。
「……なぁ。なんで、そこまでして優しくしてくれるんだよ? お前はあんなすごいモデルで、俺はただの……」
その問いを聞いた瞬間、日高の身体が微かに強張った。
「……お前、自分の価値わかってなさすぎ。俺にとって、お前が『ただの学生』なわけないだろ」
「え……?」
「お前が俺のことを『日高』って呼ぶから、俺はここで保健委員でいられるんだ。あんな場所の『ガク』より、お前に飴を渡してる時の方が、よっぽど……」
そこまで一気に言うと、日高はたまらなくなったようにバッと立ち上がった。
墨染に背を向け、窓の方を向いて顔を隠す。
「……もういい。今の、忘れるか忘れないかはお前に任せる」
耳まで真っ赤になった日高の背中に、墨染は思わず息を呑んだ。
5. 新しい関係の始まり
日高の言葉が、じんわりと海星の胸を溶かしていく。
「モデルと裏方」でも「境遇の差」でもない。
ただの「日高」と「墨染」としての繋がりを、日高も同じように大切にしてくれていた。
「……そっか。……じゃあ、これからも『日高』って呼ぶわ。……あ、でもガクも、めちゃくちゃかっこよかったぞ」
「……うるさい。二度とその名前で呼ぶな」
日高は顔を見せないまま、いつものぶっきらぼうな声で返した。
けれど、二人の距離は、あの日一粒の飴を受け取った時よりも、ずっと近くなっていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
日高くん、ついにやりましたね……! 指先で飴を押し込むシーンから、最後は恥ずかしさの限界で背中を向けてしまうところまで、彼の不器用な愛しさが詰まった回になりました。
「日高」と呼んでくれる墨染が、彼にとってどれだけ救いになっているのか。 二人の新しい関係性がここから始まります。
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次回は、急展開。
日高がドラマ進出!?
二人の距離を試すような嵐が吹き荒れます。お楽しみに!




