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183cmの甘い境界線 ― 僕らは、糖分不足。 ―  作者: kobato.


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4/20

第4話:183cmの残光

第4話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、ついに二人の「境界線」が大きく揺らぐターニングポイント。 自分が必死に隠してきた姿を、一番見られたくない相手に見られてしまったかもしれない日高。 そして、思いがけない形で日高の「真実」を知ってしまった墨染。


圧倒的な格差を前にした墨染の決断と、すれ違う二人の温度感に注目していただければ幸いです。

1. 予感と焦燥



放課後の保健室。

俺は窓際の椅子で、分厚い専門書に目を落としていた。


静寂を破ったのは、聞き慣れた快活な声だ。

「日高、いるか?」 墨染が、少しだけ疲れたような笑顔で入ってきた。


「……何。また倒れに来たのか」 俺は内心の動揺を隠すように、淡々と返した。

けれど、墨染の口から出た言葉に、俺の心臓は一瞬跳ね上がった。


「今日は報告。今度、撮影スタジオの裏方のバイトに入ることになってさ。かなりきついらしいけど、日給がいいんだよ」

「……撮影スタジオ?」 思わず本を閉じた。


視線が泳ぐ。

(……まずいな。もしあいつの行く先が俺の現場だったら……。いや、都内のスタジオなんて山ほどある。大丈夫だろ)


自分に言い聞かせ、喉の奥で言葉を飲み込むように前髪を直した。


「……無理すんなよ。用意する飴の量が増えるだろ」

「あはは、サンキュ。日高って、本当に隠れイケメンのわりに優しいよな」

「……隠してんだから、余計なこと言うな。だるいから」


俺が吐き捨てるように言うと、墨染は嬉しそうに笑った。

その笑顔を守りたいと思う反面、俺の正体がバレることへの恐怖が、胸の奥で渦を巻いていた。



2. 怪しい電話



墨染は忘れ物を取りに教室へ戻る途中、廊下で立ち止まった。

誰もいないはずの教室から、日高の切羽詰まったような声が漏れていたからだ。


「……だから、あのコピー、何とかなりませんか。『いつでも俺を食べて』なんて……いや、恥ずいです。……はい、画像撮影は明日ですね。了解しました」


ドアの隙間から見える日高の横顔は、いつもの無機質な表情とは違い、困惑と羞恥に染まっている。


(いつでも俺を食べて……?) 墨染は息を呑んだ。

(日高、まさか変な宗教か、怪しいバイトに勧誘されてるんじゃ……)


あの整った素顔が、誰かに利用されているのではないか。

そんな予感が墨染を不安にさせた。



3. 絶望的な格差



深夜。都内の撮影スタジオは、冷たい機材の金属音とスタッフの怒号に包まれていた。

俺は重い鉄製のアームを担ぎ、指示された場所へ運ぶ。


「次、その巨大パネル設置して! 明日の目玉だから慎重にな!」


数人の作業員と共に運び込んだ、巨大な広告パネル。

そこにスポットライトが当たった瞬間、俺の思考は真っ白になった。


漆黒の衣装を纏い、髪を大胆にかき上げたその少年は、圧倒的な存在感を放っていた。

冷たく、けれど残酷なほど美しく微笑むその目は、間違いなく、一粒の飴をくれるあの男のものだ。


キャッチコピーは、『いつでも俺を食べて。 ― 至高の糖分補給、始まる』


「今回の『ガク』、新人なのに頭一つ抜けてるよな。やっぱり持ってる奴は違うわ」

周囲の感嘆の声が、遠くで鳴るノイズのように聞こえる。


「……なんだよ、これ」 俺の口から、乾いた笑みが漏れた。

自分は、家族のために、明日の生活のために、こうして泥臭く汗を流している。

けれどあいつは、自分と同じ183cmの視線を持ちながら、こんなにも遠い、光の届かない場所に立っている。


「……俺……ただの貧乏学生じゃん。……あいつと並んでたのが、馬鹿みたいだ」

自分の惨めさに耐えきれず、俺は逃げるようにその場を去った。



4. 拒絶



翌日。教室で俺はいつも通り、銀色の袋の飴を墨染に差し出した。

「……おい」 だが、墨染は俺の目を一度も見ることなく、その手を冷たく払った。


「……それ、もういいよ。この飴、自分で買えるようになったから。いらない」

「……は?」 差し出した手のまま、固まる。


(売ってるわけないだろ。撮影は今日からだ。……そんなに、嘘をついてまで俺を避けたいのか?)


「……もういいって言ってるだろ。……じゃあな」 去っていく墨染の背中。


俺は言いようのない苛立ちと、名付けようのない「もやつき」を感じていた。

「……なんだよ。自分から仲良くしたいとか言っておいて、……勝手なやつ」


俺の手の中で、渡せなかった飴がじわりと体温で温まっていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。


パネルの中にいたのは、一粒の飴をくれる不器用なクラスメイトではなく、誰もが羨む「光」の中に立つ存在でした。 「俺……ただの貧乏学生じゃん」という墨染の独白が、書いていてとても切なかったです。


日高も日高で、「嘘をついてまで避けられた」と勘違いしてイライラしていますが……このすれ違いがどう解けていくのか。


続きが気になる!応援したい!と思ってくださった方は、 ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマークをいただけると、執筆の励みになります!


次回第5話、ついにあの「いつでも俺を食べて」の飴が、二人を再び繋ぐことになります。 またすぐにお会いしましょう!

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