第22話:境界線が解ける時
第22話をお読みいただきありがとうございます。
全力で駆け抜けた墨染が辿り着いたのは、独りきりで泣いていた日高の元でした。 二人きりの部屋。日高を救ったのは、墨染の不器用で温かい一言でした。
二人だけの特別な夜。 湯気と暗闇の中で、墨染がついに「自覚」した自分の本当の気持ちとは。
1. 玄関先での再会
「……墨染……っ」
自宅の玄関を開けると、そこには肩で息を切らし、僅かに汗で髪を濡らした墨染が立っていた。
信じられない光景に、日高は思わず声を漏らす。
「……なんで? バス、行っちゃったのに……っ」
驚きと、同時に押し寄せる罪悪感。
自分のせいで、墨染まで楽しいはずの行事に行けなくさせてしまった。
そう考えると、日高の目頭がまた熱くなる。
墨染は、そんな日高の顔を見て、いつもよりずっと柔らかく、穏やかに微笑んだ。
「……また俺が低血糖で倒れたらどうすんだよ。お前が隣にいないと、困るんだ」
その言葉は、日高の凍り付いた心をじんわりと溶かしていく。
自分は、墨染にとって「必要とされている」のだと張り詰めていた心が、少しだけ緩んだ。
2. 罪悪感からの救い
リビングに入っても、日高はまだリュックを背負ったままの墨染に声をかけられずにいた。
「俺のせいで、クラスのみんなに迷惑かけちゃって……。墨染も、楽しみにしていたのに……」
せっかくの宿泊学習を台無しにしてしまったという罪悪感が、日高の喉の奥に鉛のように詰まって、また涙が溢れそうになる。
墨染は、そんな日高の震える肩を掴んで、まっすぐ瞳を見つめた。
「おい。そんな顔すんな。……一人でいられると、俺が落ち着かねえんだよ。……今日、ここにいてもいいか? 泊まらせてくれよ」
日高ははっとしたように顔を上げた。
「……え? 墨染、いいの? 本当に、いいの……?」
墨染からの真っ直ぐな提案。
日高は縋るように頷き、ようやく止まりかけていた涙を拭った。
3. 「嫌なこと」を上書きする二人だけの時間
墨染の荷物がリビングの隅に置かれ、二人の間に漂っていた緊張が少しだけ和らぐ。
「今日はあっちのことは忘れろ。俺とお前で、一番楽しいことしようぜ」
そう言って墨染は、日高の手を引いて近所のコンビニへと向かった。
大量のカップ麺とお菓子を買い込んで、帰ってからはひたすらゲームに興じた。
くだらないことで笑い合い、競い合ううちに、日高の心から昼間のパニックの恐怖が少しずつ消えていく。
墨染の隣にいることが、何よりも心を落ち着かせた。
4. 初めての「自覚」
夜も更け、二人はお風呂へ向かう。
「一緒に入るか」という墨染の言葉に、日高は心臓が飛び出しそうになった。
狭い浴室。
立ち込める湯気。
日高は、もう墨染の裸を直視することなんてできなかった。
好きだという自覚があるからこそ、その視界に墨染の肌が入るだけで火傷しそうなほど顔が熱くなる。
日高は必死に床を見つめて、自分の鼓動を落ち着かせようとした。
一方の墨染も、自分のリュックから取り出した着替えを準備しながら、不意に日高の細い肩や、濡れて肌に張り付いた髪に目を奪われた。
(……なんだこれ。今まで何度も練習につき合って、こいつの体なんて散々見てきたはずなのに……)
モデルウォークの練習をしていた時、日高の体はあくまで「素材」であり、それをどう美しく見せるかという対象でしかなかった。
その時は、指一本触れても、肌を露わにしても、こんなに動揺することなんて一度もなかったのに。
(……なんで今さら、こんなに見られねえんだよ。心臓、うるさすぎだろ)
モデルとしての「ガク」ではなく、ただの一人の男の子として、日高の存在が強烈な熱を帯びて墨染に迫ってくる。
守りたい。触れたい。独り占めしたい。
今まで「友情」という箱に押し込めていた熱い塊が、ついに「恋」という名前を伴って溢れ出した。
5. 暗闇の吐露
自分のリュックから出したジャージに着替え、部屋の電気を消す。
並べた布団に入ると、外の雨音だけが小さく響いていた。
昼間の恐怖がふとフラッシュバックして、日高の体が微かに震える。
墨染は、そんな日高の気配を察して、背後から静かに彼を引き寄せ、力強く抱きしめた。
「……大丈夫だ。俺がずっとここにいる」
墨染の腕の中で、日高は彼の体温と鼓動を感じながら、この瞬間が永遠であってほしいと願った。
胸の奥に秘めていた想いが、もう溢れて止まらない。
「……墨染。あのね……俺……」
日高が言葉を紡ぎ出す、その瞬間。
墨染の腕が、さらに強く日高を抱きしめた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
モデルの練習の時はあんなに冷静だった墨染くんが、今、隣にいる日高くんを直視できずに戸惑う姿……。そのギャップに、恋の始まりを強く感じますね!
日高くんも、ずっと伝えたかった想いをようやく口にしようとしています。 次回、二人の関係が決定的に変わる瞬間を、どうぞお見逃しなく!
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