第21話:走り出した守りたい気持ち
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学校のみんなとても理解力ある素敵なメンバー揃いだけど、
学校の外は…、現実はそううまくいかず普通の行事に参加できなくなってしまう日高。
そんな日高にできることってなんだろう?
墨染の気持ちになって読んでいただけたら嬉しいです。
1. 奪われた集合場所
宿泊学習の朝。
日高は、墨染とお揃いで買ったキーホルダーをリュックに揺らし、高鳴る胸を抑えて集合場所へと向かっていた。
けれど、視界に入ってきたのはクラスメイトの笑顔ではなく、異様な熱気を帯びた大人たちの群れだった。
「ガクくーん! こっち向いて!」
「高校生って本当だったんだ!」
容赦なく浴びせられるフラッシュの嵐。
裏掲示板の情報を聞きつけた野次馬たちが、制服の「ガク」を一目見ようと殺到していたのだ。
「……っ、」 一瞬で呼吸が浅くなる。
せっかく墨染に背中を押されて前髪を上げたのに、世界はそれを「隙」だと言わんばかりに踏みにじってくる。
日高は震える手で、墨染の服の裾を掴もうとした。
けれど、押し寄せる人波が二人の距離を無慈悲に引き離していく。
「日高! 下向いてろ!」
墨染の声が聞こえたけど、委員長としてクラスを守らなければならない彼は、
群衆を押し止める防波堤になるのが精一杯で、日高の隣へ行くことさえ叶わない。
2. 遠ざかる背中
「ガク、乗って!」 滑り込んできたマネージャーの車に、半ば無理やり押し込まれる。
「これ以上はパニックになるわ、今日は帰りなさい!」
ドアが閉まる直前、日高は振り返った。
人混みの向こう、必死にこちらを追おうとして、先生やファンに阻まれている墨染の姿が見えた。
(……ごめん、墨染。俺のせいで、全部めちゃくちゃだ……)
走り出した車の中、日高は膝の上で拳を握りしめた。
昨夜の電話であんなに楽しそうだった墨染の声が、リフレインする。
自分さえいなければ、彼は今頃、友達と笑いながらバスに乗り込んでいたはずなのに。
「……墨染、……墨染……っ」 心の中で何度もその名前を呼ぶ。
俺のせいで、彼の「普通の高校生活」を奪ってしまった。
スマホを取り出し、『俺のことは気にしないで、楽しんできて』と打とうとする。
けれど、涙で画面が滲んで、どうしても送信ボタンが押せなかった。
3. 衝撃の「ブッチ」
一方、バス停に残された墨染は、日高を乗せた車が角を曲がって見えなくなるのを、ただ呆然と見送っていた。
「……委員長、大変だったな。……あいつの分まで、俺たちで楽しもうぜ」
クラスメイトが気を遣って肩を叩く。
担任も「日高は欠席だ。全員バスに乗れ!」と号令をかけた。
墨染は、重い足取りでバスのステップに足をかける。
けれど、車内に一歩踏み出した瞬間、言いようのない嫌悪感が全身を駆け巡った。
あいつを一人、あの絶望の中に放り捨てて、自分だけ「楽しい行事」に行くのか?
(……一人にはしねえって、言っただろ……俺……!)
「……先生、悪い。俺、行けなくなった」
「はあ!? 墨染、お前委員長だぞ!」
背後で響く驚愕の声を無視して、墨染はバスを飛び降りた。
リュックを掴み直し、日高を追うように全力で走り出す。
学校の評価も、宿泊学習の欠席届も、今の墨染には埃と同等だった。
ただ、今この瞬間に泣いているであろうあいつの隣に、自分がいないこと。
それが何よりも許せなかった。
4. 届く光
日高は自宅の暗い部屋で、まだパッキングしたままのリュックを抱いてうずくまっていた。
「……もう、嫌だ。……モデルなんて、やらなきゃよかった……」
独り言が、冷たい空気の中に溶けていく。
墨染は今頃、バスに揺られて山へ向かっているだろう。
自分のことなんて、もう「迷惑な奴」だと思っているかもしれない。
その時、サイドテーブルの上のスマホが、激しく震えた。
涙を拭い、恐る恐る画面を見る。
墨染:『いま向かってる。鍵開けとけよ。』
「え……?」
絶望の底にいた日高の瞳に、一気に光が宿る。
彼は、学校を捨ててまで自分を選んでくれたのだ。
日高は震える足で立ち上がり、玄関へと走り出した。
彼を迎え入れるために。
第21話を最後までお読みいただきありがとうございます。
あんなに楽しみにしていた宿泊学習の朝。 予期せぬ狂騒によって、二人の手は無慈悲に引き離されてしまいます。
遠ざかる車内で、絶望に沈む日高。 しかし、墨染は「委員長」という立場も「行事」もすべて投げ打ち、本能のままに走り出します。 二人の絆が、ついに大きな転換点を迎えます。
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