第20話:忍び寄る包囲網
第19話をお読みいただきありがとうございます。
ついに繋がった、墨染との連絡先。 文字を通して交わされる他愛ないやり取りが、二人の距離を少しずつ変えていきます。
宿泊学習を目前に、期待に胸を膨らませる二人ですが……。
1. 熱い指先
宿泊学習を二日後に控えた放課後。
日高はベッドの上で、墨染との終わらないトーク画面を読み返していた。
文字なら、対面では言えない些細なことも、不思議と送ることができた。
日高: 『モデルの仕事が終わった。……今すぐ墨染に飴を渡しに行きたい』
墨染: 『お疲れ。飴? バイト終わるまで待てねーのかよ(笑)。一個預かっといてくれ』
日高: 『預かっとく。……ねえ、今度の宿泊学習、楽しみ。部屋、一緒で本当によかった』
墨染: 『そうだな。お前、寝坊して俺に迷惑かけんなよ』
日高: 『しないよ。……明日から、ずっと隣にいてくれるの?』
墨染: 『当たり前だろ。何言ってんだよ』
日高: 『……うん。おやすみ、墨染』
墨染: 『おう。……お前、文だとずいぶん素直なんだな。ちょっと照れるわ』
「照れる」という一言を反芻し、日高はシーツに顔を埋めた。
翌日の学校でも、墨染はいつもと変わらず無愛想で、けれど誰よりも近くにいてくれた。
そんな「普通」の毎日が、ずっと続くのだと信じていた。
2. 水面下での拡散
日高が幸せな余韻に浸っている間にも、ネットの暗部では「衝撃のスクープ」が静かに共有されていた。
文化祭のランウェイで、日高が歩いたあの動画。
それは表立ってトレンドに入ることはなかったが、コアなファンたちのコミュニティでは瞬く間に拡散されていた。
「ガク、実は現役高校生だったの?」
「あのメガネ姿、ドラマの時よりさらにオーラ増してない?」
圧倒的なビジュアルは、それを知る者たちの執着を加速させる。
一部の裏掲示板では、動画の背景や制服の細部から、当事者たちの知らないところで場所の特定が着実に進んでいた。
3. 宿泊学習前夜
そして、いよいよ宿泊学習の前夜。
パッキングを終え、忘れ物がないか確認しているところに、マネージャーから電話が入った。
「ガク、明日からの宿泊学習だけど。ちょうど今撮ってるドラマの監督から、
急ぎで確認事項が入るかもしれないって連絡があったの。
もしもの時にすぐ対応できるように、私もキャンプ場の近くに控えておくことにしたわ。
校長先生には話を通しておいたから、何かあったら私に連絡して」
「……分かった。でも、多分そんなに急な仕事は入らないと思うけど」
マネージャーの慎重さを「仕事熱心だな」としか思わず、日高は穏やかな気持ちで電話を切った。
そして、眠りにつく前。
彼は少しの勇気を出して、自分から墨染へ電話をかけた。
「……墨染? 明日、楽しみだね。荷物、準備できた?」
『おう。お前こそ、いつまでも起きてて寝坊すんなよ』
電話越しに聞こえる、少し呆れたような墨染の声。
でも、その奥に優しさが滲んでいるのを日高は知っている。
「ふふ、大丈夫。……明日から三日間、ずっと一緒。楽しみで、なかなか寝られないかも」
『ガキかよ。早く寝ろ。……じゃあ、明日な、日高』
電話ができた喜びと、明日の朝には隣に墨染がいるという確信。
二人はまだ、自分たちの知らない場所で動き出した「熱狂」が、明日の朝をどう変えてしまうのかを知る由もなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
文面だと大胆になる日高くん、「ずっと隣にいてくれるの?」という精一杯のわがままが本当に健気でしたね。
それを受け止める墨染くんも、不器用ながらに「当たり前だろ」と返すあたり、二人の絆の深さを感じます。
寝る前の電話で明日を誓い合い、誰もが「普通に笑い合える」と信じて疑わない夜。
ですが、裏掲示板での特定という、彼らの関知しない場所で進行する不穏な動き……。
楽しみで仕方ないはずの明日の朝、バス停で彼らを待ち受けているものとは。 二人の宿泊学習はどうなってしまうのでしょうか。
次回、いよいよ宿泊学習当日編。 嵐の予感とともに、物語が大きく動き出します! ぜひ評価や感想で二人を応援してください!




