第2話:前髪の向こう側
第2話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、タイトルにもある「183cm」という二人の共通点が交差する身体測定のお話。 そして、日高が墨染の「笑顔の裏側」にある壮絶な秘密に触れる回です。
教室では決して見せない二人の素顔が、少しずつ溢れ出します。 最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!
1. 183cmのシンクロ
「次、墨染。……日高、測ってやれ」 体育館に漂う、埃とワックスが混じったような独特の匂い。
学級委員として身体測定の補助をしていた俺は、保健委員として測定器の横に立つ日高の前に進み出た。
日高は相変わらず前髪で視線を隠したまま、淡々と、かつ正確にクラスメイトの身長を測り続けている。
俺が測定器の台に上がると、日高の手がスッと伸びてきて、頭の上のバーを慎重に下ろした。
至近距離で、日高の静かな呼吸が聞こえる。
「……183.0」 日高の低い声が、俺の耳元をかすめた。
「お、ぴったりじゃん。……サンキュ。じゃあ最後、日高の分は俺が測るわ」 交代して俺がペンを持ち、日高の目盛りを読み上げる。
「日高、お前も俺と同じ183cmだぞ」 「あ……そ。」
短く、興味なさげな返事。
けれど、同じ高さの視線で一瞬だけ目が合った気がして、俺はペンを握る手に少しだけ力が入った。
2. 昼休みの異変
昼休み。日高が身体測定のデータを保健室へ届けに行った後の教室。
俺は、机に顔を伏せて震えている有岡世那の横に屈み込んだ。
「有岡さん。俺、保健室からカイロとブランケット取ってくるよ」 小声でそう話しかけると、彼女がすがるように顔を上げた。
自分の胃が、空腹でキリキリと鳴る。朝からのバイト、そして昼休みもデータの整理。
視界が少しチカチカするけれど、俺は「いつもの笑顔」で保健室に向かった。
3. 保健室での崩落
保健室のドアを開けると、中にはまだ日高がいた。
「日高、悪い……有岡さんのために、カイロとブランケット借りたくて……」 言いかけた瞬間、急に足元から力が抜けた。
(あ、やべ……)
視界がぐにゃりと歪み、膝から崩れ落ちそうになったその時。
「……おい!」 強い力で、誰かに腕を掴み上げられた。
日高だ。
彼は俺を支えるというより、半ば引きずるようにして近くのベッドへ寝かせた。
「俺が行かないと……」 「……寝てろ。俺が代わりに行くよ」
日高は俺の言葉を遮るようにして、棚からカイロとブランケットを掴む。
あいつ、意外と優しいんだな……。
遠のいていく意識の中で、俺は日高の背中をぼんやりと見送った。
4. メロンパンと墨染の告白
どのくらい経っただろう。
チャイムの音で目が覚めると、日高がいつの間にか戻っていた。
「……有岡さん、どうだった?」
「渡した。墨染からだって言っておいた」
日高はそう言うと、カバンから無造作に紙袋を取り出した。
「……それ、あげるよ。もらったものだけど、お前低血糖だろ」
中を覗いて、俺は絶句した。予約が取れない2000円の高級メロンパン。
俺はそれを頬張りながら、ベッドの縁に腰掛ける日高の問いに答えた。
「……お前、なんで低血糖なんてなるんだ? こんなに筋肉質なのに。なんで?」
不意に触れられた指先の熱。俺は動揺を隠すように、ポツポツと話し始めた。
「俺さ、中学生の双子の弟と妹がいるんだよ。二人ともちょうどピアノの発表会で海外遠征があるんだ。その夢を叶えてやりたくて、一人暮らしして、バイト代を全部実家に仕送りしててさ。父さんも死んじゃってるし、母さんを支えたいから……。あ、ごめん。話しすぎたな」
日高の表情が、前髪の隙間で一瞬だけ強張った。
「……別に、いいけど」
5.日高の「もやり」
そこへ、保健室のドアが開いた。
「墨染くん……! 本当にありがとう、助かったよ」
有岡世那が、顔を赤らめてお礼を言いに来た。
日高は無言でベッドの側を彼女に譲り、窓際の椅子に移動した。
日高の視線が、墨染を熱心に見つめる有岡さんの顔を捉える。
【日高視点】
(……あ、こいつ、墨染のこと好きなんだな)
日高は、胸の奥にざらりとした「もやり」を感じた。
墨染…お前、そんな過酷な生活で恋愛なんてしてる余裕ないだろ……という呆れ。
けれど、それだけではない何かが、胃の奥に重く居座っている。
6. 前髪の向こう側
【墨染視点】
有岡世那が去り、また二人の静寂が戻る。
「じゃあな。俺も帰るわ」 日高が帰る挨拶をしようと、ベッドに寝ている俺の元へ近づいた瞬間。
足元にあった救急箱に足を取られ、日高が俺の方へ倒れ込んできた。
「危ない!」 俺はベッドから身を乗り出し、咄嗟に日高の腕を掴んで抱き止める。
その勢いで、日高の長い前髪がさらりと左右に分かれた。
そこに隠されていたのは、息を呑むほど整った、圧倒的な「素顔」だった。
至近距離で見つめ合う。
俺の心臓は、さっきよりもっと激しく鳴り響いていた。
「……お前、めちゃくちゃイケメンなんだな」
俺の言葉に、日高の瞳が大きく揺れた。
7. 日高の逃亡
【日高視点】
俺は、耳まで熱くなるのを感じながら、墨染の腕を振り払って保健室を飛び出した。
怖い。 あいつの笑い声も、俺を呼ぶ声も、全部が春の嵐みたいに俺にまとわりついてくる。
このままじゃ、どこか遠くに飛ばされちゃうみたいだ。
俺が、俺じゃなくなっちゃうみたい。
俺はただ、夢中で逃げた。 あいつから。
墨染海星から。
第2話、いかがでしたでしょうか。
183cmの視線が重なり、ついに前髪の向こう側に隠されていた「素顔」を見てしまった墨染。 日高の胸に芽生えた「もやり」の正体は、まだ彼自身も気づいていないようです。
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次回は、二人の距離をさらに縮める「甘い備品(飴)」のお話です。 またすぐにお会いしましょう!




