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183cmの甘い境界線 ― 僕らは、糖分不足。 ―  作者: kobato.


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第17話:汚れた挨拶、崩壊の足音

第17話をお読みいただきありがとうございます。


優勝の代償として奪われた、二人だけの静かな時間。 孤立した日高に忍び寄る「自称ファン」との歪な取引。


二人の絆が試される、切ない放課後が始まります。

1. 奪われた聖域



文化祭での優勝以来、二人の日常はノイズに埋め尽くされた。

「墨染くん、これ、……好きです! 読んでください!」


廊下の角で、女子生徒に顔を真っ赤にして手紙を渡されている墨染。


「あ、ああ、ありがとう。でも、ごめん……」


いつものように優しく断る墨染の姿を遠目に見ながら、日高は一人、所在なげに中庭を歩いていた。


かつては二人だけの聖域だった保健室へ向かおうとしても、今の墨染はあまりに周囲に求められすぎていた。


(……あいつとゆっくり、飴を分ける暇もねえ)

二人の間に、少しずつ物理的な距離が生まれ始めていた。



2. 三年生の影と、悪魔の取引



一人で歩いていた日高の前に、ニヤついた表情の三年生男子が立ちはだかった。


「お前、ガクだろ。隠さなくてもいいよ、俺、ガクの大ファンなんだ」


日高の心臓が跳ね上がる。男はアンチを装うわけでもなく、親しげにスマホの画面を突きつけてきた。


そこには、文化祭の練習のために屋上で二人が「挨拶」を交わす決定的な瞬間が映っていた。


「ガクが男とキス……。これ、世間に出たら騒ぎになっちゃうよね?


俺、ファンだから君を守ってあげたいんだ。


……だから、取引しようよ。俺ともキスしてくれたら、


この動画は消してやるし、他の誰にも言わない。口止め料代わりにさ」


日高は頭が真っ白になった。自分のキャリアはどうでもいい。

けれど、墨染をスキャンダルに巻き込み、彼の優しい日常を壊すわけにはいかない。


(……墨染を守れるなら、これくらい)


震える唇を重ねたその瞬間、日高の中で何かが決定的に壊れる音がした。



3. 拒絶される挨拶


それ以来、日高は墨染の充電を避けるようになった。


「……日高、今日こそやるか? 挨拶」

放課後、隙を見て顔を寄せた墨染を、日高はバッと突き飛ばすように避けた。


「……今は、いい。……ごめん」

「日高……?」


あんなに欲しがっていたはずの唇。

それどころか、日高は墨染と視線を合わせることさえできなくなっていた。


墨染の胸に、正体不明の違和感と、親友を想うがゆえの不安が広がっていく。



4. 肯定的な波紋



ある朝、学校の掲示板に衝撃的なポスターが貼られた。

「徹底検証! 日高=ガク!?」という文字と、比較動画のQRコード。


動画内では、文化祭のランウェイと「ガク」の映像が緻密に比較されていた。

だが、それを見た生徒たちの反応は、日高が恐れていたものとは違っていた。


「やっぱり! だって、あの日高くん、かっこよすぎたもんね」


「そんな気がしてたよな。毎日顔隠してたのも、納得だわ」


「ガクが同じクラスにいるなんて、最高じゃん!」


男女問わず、校内には好意的なざわめきが広がっていた。


正体がバレたことは、学校中にとっては喜ばしい「事件」でしかなかった。



5. 崩れ落ちる心と、誓いのハグ



いつもの保健室。墨染はそこで日高を待っていた。

そこに、幽霊のようにふらふらとした足取りで日高が入ってくる。


その瞳には光がなく、絶望だけが張り付いていた。

「日高……!」

墨染はすぐさま駆け寄り、日高の細い肩を力強く抱き寄せた。


「どうした!? 大丈夫だ、ガクバレなんて俺がなんとかしてやる。学校のみんなも好意的だし、何も怖いことなんてないぞ。……な? 話してみろ。俺がいる」


墨染は、これまで以上に優しい声で、震える日高を包み込むように励ました。


「……ちがう。ちがうんだ、墨染……」

日高の目から、大粒の涙が溢れ出した。


(どうせ、こうやってみんなにバレるんだったら。……あんな奴と、キスなんてしなきゃよかった)


日高にとって、ガクである自分を見つけられたことなんて、実はどうでもよかったのだ。


それよりも、「一番の友達としかしない」と誓ったあの神聖な挨拶を、無意味な取引のために汚してしまったこと。


そして、結果的に何も守れなかった自分。


「……おれ、違うやつとキスしちゃった……。ガクだってバレたくなくて、……墨染との挨拶、汚れちゃった……ごめん、ごめん……っ」


腕の中で子供のように泣きじゃくる日高。


「……そうか。……そんなことがあったんだな。辛かったな」


墨染は驚きを隠し、ただひたすらに優しく、日高の背中をさすり続けた。


怒りよりも先に、墨染の胸を占めたのは、自分自身の不甲斐なさだった。


(俺がもっと、そばにいてやれたら。そんな奴に付け入られる隙なんて、作らせなかったのに……!)


一人で傷ついていた日高への、どうしようもない愛おしさと後悔。


墨染は、二度とこの手を離さないと誓うように、日高をより強く抱きしめた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


日高くんの告白があまりにも切なくて、墨染と一緒に抱きしめてあげたくなりました。 「一番の友達としかしない」という言葉を誰よりも大切にしていたのは、日高くん本人だったんですね。


墨染の優しさが、今回は「自分への悔しさ」に向かったのが印象的です。 他人を責める前に、まず「自分がそばにいてあげたかった」と思える墨染の愛情の深さに、二人の強い繋がりを感じました。


ですが、汚れてしまったと感じている日高の心を、どうすれば救えるのでしょうか。


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