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183cmの甘い境界線 ― 僕らは、糖分不足。 ―  作者: kobato.


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第14話:平行線の夜、孤独な指先

第14話をお読みいただきありがとうございます。


守ると誓ったはずの約束と、家族を救うための切実な金。


墨染が選んだ苦渋の決断が、二人の間に深い溝を作ってしまいます。


平行線を辿る二人の心が、どこへ向かうのか見守ってください。

1.双子の悲痛


その日の夜、日高にどうやって「モデルの件は断っておくから安心しろ」と伝えようか迷っていた墨染のスマホが震えた。

画面には、アメリカにいる双子の弟たちからの着信。



『にいに、突然ごめん……。今度のピアノのコンクールで着る真珠しんじゅの衣装が破れちゃって…。

……でも、お金ないよね。』


そう話したのは弟の海馬かいまだった。


『にいに、ごめんなさい。無理にとは言わないけど…。お母さんも10万円はさすがに払い直せないって…』


泣きそうな声をこらえて真珠もわけを話してくれた。


自分を気遣う弟たち。

墨染の目の前が真っ暗になる。


今月のバイト代は、すべて光熱費と食費に消える予定だ。

どこをどうひっくり返しても、数万円の予備費なんてない。


(……俺が、日高を守るって決めたのに。……でも、このままじゃ、あいつらの夢は?……)


「分かった。俺が半分くらい…なんとか出すって母さんに伝えてくれ」


自分の無力さに血が出るほど唇を噛み締め、墨染は震える手でスマホをしまった。

(そうだ…。モデルウォークで優勝したら賞金が出ると担任が言っていた…)


「……日高、ごめん」


守ると誓った言葉よりも先に、生きるための「打算」が心を支配していく。


墨染は、親友の信頼という何よりも尊いものを、たった十二万円の賞金で売り飛ばすための「非情な自分」へと姿を変えた。


翌日の 放課後の教室。


夕闇の中で、彼は震える唇を無理やり動かした。



2. 本当の衝突



「日高、頼む! 優勝すればクラス全員に高級焼肉の食事券が出るんだ。


それだけじゃなくて、優勝ペアには一人六万円……二人で十二万円の賞金が出る。


……これがあれば、今月の支払いが本当に助かる!頼む、協力してくれ!」


生活のために必死な墨染の、切実な叫びだった。

だが、窓際の席で日高が向けた瞳は、氷のように冷ややかだった。


「……墨染なら、わかってくれると思ってた。俺が、人前でモデルウォークなんてしたらどうなるか……本当にわからないの?」


「それは……」


「……俺のこと、賞金のための道具だと思ってるんだね。墨染にとっては、俺の気持ちよりお金の方が大事なんだ」


日高は墨染の差し出した手を拒絶するように、カバンを掴んで教室を後にした。



3. 空白の一週間



それから一週間、二人の会話は途絶えた。


日高は自分から突き放したくせに、墨染が追いかけてこないことに耐えがたい寂しさを感じていた。


墨染が悪気なく、ただ生活のために必死なのは、誰よりも近くで彼を支えてきた自分が一番よく知っている。


それでも、自分という存在が「お金」という天秤にかけられたことが、どうしても寂しくてたまらなかった。


一方の墨染も、自分の配慮のなさに打ちのめされていた。


日高が「ガク」であることを隠し、どれだけ息を潜めて生きてきたか。


あいつにとっての「一番の理解者」でありたいと思っていたのに、自分の生活への焦りが、日高の抱える恐怖を置き去りにしてしまった。



4. そばにいるのはぬいぐるみだけ



その夜、日高は自室で、墨染が取ってくれたぬいぐるみを抱きしめていた。


「……墨染のばか。お金なら、俺がいくらでもあげられるのに」


暗い部屋で、日高はスマートフォンの画面を見る。


そこには、高校生のものとは思えない桁の残高。


モデル「ガク」として稼いだ金だ。


けれど、そんな金に価値なんてない。


「ガク」としてではなく、「日高」として、ただの友達として接してくれるのは墨染だけだった。


(……こんなに話せないのが辛いなら、もうバレてもいいのに)


意地を張って離れているくらいなら、一緒にステージに立ったほうがマシだ。


ぬいぐるみの頭に頬を寄せながら、日高の心は「拒絶」から「後悔」へと、静かに傾き始めていた。



5. 孤独な自主練



同じ頃、墨染は公園の街灯の下で一人、モデルウォークの真似事をしていた。


日高に拒絶された以上、彼を無理に出演させるわけにはいかない。


けれど委員長として、妹の夢のため、自分一人の力でクラスを優勝させ、日高に迷惑をかけない形にしようと躍起になっていた。


しかし、疲労困憊の体は思うように動かず、冷たい夜風が体に堪える。


「……日高だったら、ここでなんて言うかな……」


不意にこぼれた言葉。


日高の前では、いつだって弱音を吐けた。


頼られる委員長ではなく、ただの「墨染」でいられた。

その温もりが消えた公園は、あまりに寒かった。



6. 交差しない視線と、崩れる境界線



翌朝、登校した墨染は、勇気を出して窓際の日高に近づいた。


「……日高、あのさ」


だが、日高は墨染の声を聞くなり、バッと視線を逸らして席を立ってしまう。


墨染は寂しそうに笑って、自分の席に戻った。


一方の日高は、トイレの鏡の前で荒い呼吸を整えていた。


(……顔を見たら、すぐに許して……縋りついちゃいそうだった。


あんなにショックだったのに、声を聞いただけで全部どうでもよくなる……)


墨染のいない日常なんて、もう耐えられない。


正体がバレる恐怖よりも、墨染との仲直りを望んでしまう。


一週間の沈黙が、二人の心を限界まで追い詰めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


今回は墨染くんの「事情」が本当に切なかったですね……。

アメリカでピアニストになるために頑張る弟と妹の夢を守るために、一番大切な日高くんを傷つけるような頼みごとをしなければならなかった彼。


どちらの気持ちもわかるだけに、読んでいて胸が締め付けられました。


日高くんも、お金で解決できる問題だと分かっていながら、それを口にできない。


それは彼が「モデルのガク」としてではなく、ただの「親友の日高」として墨染と対等でいたいと願っているからこそですよね。


お互いを想っているのに、すれ違ってしまう一週間。

この沈黙が、二人の関係をどう変えていくのか。 そして、このピンチをどう乗り越えるのか……。


次回、二人の心が再び重なる瞬間をぜひお楽しみに! よろしければ評価や感想をいただけると、執筆の励みになります!

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