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183cmの甘い境界線 ― 僕らは、糖分不足。 ―  作者: kobato.


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12/22

第12話:独占のセットアップ

第12話をお読みいただきありがとうございます。


墨染の家で迎えた、お泊まり明けの朝。 セットアップを済ませた二人が向かったのは、とある映画館でした。


休日を共に過ごし、そのままバイト先へと向かう二人ですが、 そこで見せた日高の「ある態度」に、墨染は初めて抱くような違和感を覚えます。


変わっていく空気感と、墨染が自分なりに出した「答え」。 二人の距離が、いつもより少しだけ近く感じる回です。

1. 朝日



狭いシングル布団の中で目が覚める。

カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めた墨染は、至近距離に日高の顔があることに心臓を跳ねさせた。


「……おはよう」 寝起きの低い声。

日高は当然のような顔で、墨染の唇に自分のそれを重ねた。


「っ、……おい! せめて歯磨きしてからにしろ!」

突き放そうとする墨染の手を、日高は軽く受け流してふふっと喉を鳴らす。


「……じゃあ、歯磨きしたらいいの?」

「そういう問題じゃねーよ! 起きろ!」


不満そうにしながらも、日高はどこか楽しそうだ。

墨染は顔を赤くしながらも、これは日高なりの「距離の詰め方」なんだろうと、無理やり自分に言い聞かせた。



2. セットアップとトゲ



今日は土曜日。

学校は休みだが、夕方からは撮影のバイトがある。


日高はおもむろに鏡の前に座ると、器用に前髪をセットし始めた。

普段のどんよりしたオーラが霧散し、鏡の中には冷徹な美形「ガク」の片鱗が現れる。


「……おお。やっぱセットすると、すげーイケメンだな、お前」


墨染が素直に感心して声をかけると、日高は鏡越しに視線を絡めてきた。


「……惚れた?」

「……お前が女だったら、落ちてたかもな」


墨染が冗談っぽくいなすと、日高の動きが一瞬止まった。

前髪の隙間から見える瞳が、一瞬だけ沈んだように見えたが、彼はそれ以上何も言わなかった。


「……お前も貸せ。セットしてやる」

強引に椅子に座らされ、日高の指先が墨染の髪に触れる。


(あ、やっぱプロってすげーんだな……)

鏡の中の自分は、自分でも驚くほど垢抜けてかっこよくなっていた。


日高の腕前に素直に感動しながら、墨染は「このまま出かけようぜ」という誘いに二つ返事で乗った。



3. 映画館の手



日高の誘いで入ったのは、ガクがチョイ役で出演しているというホラー映画。


だが、映画が始まって数分で、墨染は自分の重大なミスに気づく。

(……う、わ……これ、無理だ……)


スクリーンに映る凄惨な映像に、墨染の体が強張る。

すると暗闇の中、隣から伸びてきた大きな手が、そっと墨染の手を包み込んだ。


「……わりぃ。俺、ホラー苦手だったみたいだ。自分でも初めて知った」

小声で謝る墨染に、日高は手を握る力を強めた。


「……いいよ。俺が横にいるから、見なくていい」

暗闇の中で、日高の手の温かさがじんわりと伝わってくる。


そのさりげない優しさに触れて、墨染は映画の恐怖とは別の、胸が締め付けられるような高鳴りを覚えていた。



4. どよめき



夕方、二人はそのまま撮影スタジオへと足を踏み入れる。

日高の手によって完璧にセットされた墨染が現場に現れると、スタッフたちの間で小さなどよめきが起きた。


「あれ? 墨染くん、今日めちゃくちゃかっこいいね!

髪型ひとつでモデルさんみたいじゃない」


いつもは裏方として背景に溶け込んでいる墨染に向けられる、賞賛の視線。

だが、その空気を一瞬で凍りつかせたのは、隣に立つ日高だった。



5. 冷徹なモードと「特別」の自覚



さっきまで映画館で優しく手を握っていた日高は、もうどこにもいなかった。

彼は氷のように冷たい「モデルモード」の瞳で周囲を威圧し、低く、拒絶の滲む声で言い放った。


「……こいつは俺の友人なんで、当たり前じゃないですか。……行こう、墨染」


日高は墨染の肩を強く抱き寄せ、自分の方へ引き寄せた。

そのあまりの豹変ぶりに、スタッフたちはビビって口を閉ざす。


(……あいつ、さっきまでの空気どこ行ったんだよ。……え、もしかして俺が褒められたのが、そんなに気に入らなかったのか?)


肩に回された腕の熱。

自分だけに向けられる、他の誰に対しても見せない異常なまでの独占欲。


その中心にいる墨染は、混乱する頭の隅で、ひとつの結論に辿り着く。


(……これ、俺……めちゃくちゃ特別扱いされてるな。

……まあ、あいつにとって俺は、唯一気を許せる特別な友達なんだろうな)


キスだって、きっと深い信頼の証だ。


そう自分に言い聞かせる墨染だったが、肩に触れる日高の指先の熱だけは、どうしても「ただの友達」という言葉では片付けられない気がしていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。


「歯磨きしたらいいの?」と笑う日高に、ホラー映画でそっと手を握ってくれる日高。 そして、墨染が褒められた瞬間に牙を剥く冷徹な「ガク」。


振り幅が激しすぎる日高の行動に、墨染もようやく「これはただの友達じゃない」と自覚し始めました。 ですが、そこは墨染くん。彼なりの「特別な友達」という解釈で、必死に自分の心拍数を落ち着かせようとしているのがなんとも彼らしいですね。


現場を凍りつかせた日高の独占欲。


これから二人がどんな変化をもたらすのか……お楽しみに!


評価や感想で、二人のもどかしい距離感を応援していただけると嬉しいです。

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