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石燕先生、モノノケでござる!  作者: 玉水ひひな
第一話 春坊の縁談

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鳥山石燕が描く、妖怪画 (告知アリ)


 っとよく見れば――指を舐めて開けたと思われる、小さな覗き穴が開いていた。




 ♢ 〇 ♢




 病床の父の看病があるから、千代は外出もままならぬらしい。

 であれば、相当に心細いだろう。


 彼女の不運な身の上に深く同情しつつ、春坊は日下部のぼろ屋敷を辞した。


 通りに出て名残惜しく振り返ると、いつもの格子窓の向こうから、千代の結う島田髷だけが覗いていた。

 揺れる島田髷を見上げて黙礼し、ふと春坊は思った。


(しかし、やはり外出は滅多になさらぬとなると……)


 はたして――、あの画妖先生は、いつどこで千代の姿を目にしたのだろう?


 そう考えて川面に目をやれば、恋に思い悩む男の姿がある。

 春坊自身だ。


(……そうか。さては、あの変わり者の先生も)


 偶然この通りを歩いている折にでも千代を見かけて、心奪われてしまったのだろう。……春坊のように。


 気持ちはわかる。

 千代はどこか儚げで、けれど、美しい人だ。

 男ならば誰でも力になりたいと思ってしまうような、ふよふよとした魅力がある。


(では、画妖先生には悪いことをしたなあ)


 同じ女人を想う男として、春坊はモノノケ先生に同情した。


 逆の立場ならと思うと、つい自分まで悲しくなってしまう。

 勝手に許婚の絵姿を描かれたのは腹立たしいが、許そうと春坊は思った。


 だって、あの画の千代は――画妖先生が彼女に恋していると言われても得心してしまうほど、美しかった。

 まるで、夜空に浮き出す儚い桜がごとく。




 ♢ 〇 ♢




 父や兄の同輩達の住まう組屋敷の一角にある我が家に帰ると、さっそく春坊は母のおたまに和歌について聞こうと思った。


 しかし、肝心の彼女は不在で――手伝いに来てくれている下女に訊けば、折も折、彼女は長命寺に桜餅を食べに出かけたらしい。

 なら、帰りはきっと相応に遅いだろう。

 仕方なく、春坊は、いつも蓋が開きっ放しになっているおたまの長持ちの前に座った。


「確か、母上がここに……」


 和歌の師範から形見分けされた、古今の有名な歌を集めた木版印刷の版本を仕舞っていたはずだ。

 

 しかし、いざ乱雑な長持ちを眺めてみると、古めかしい和歌の版本なんぞはどこにも見当たらず、代わりに、当世流行の浮世草子や浮世絵ばかりが目についた。

 人気の歌舞伎役者が描かれた浮世絵の後ろに男女が絡み合う淫らな西川絵(春画)が急に現れて、うぶな春坊はぱっと目を覆った。


「……うっ、うわぁっ!」


 母と――ことによると父の秘密まで垣間見てしまった気がして、頬を赤らめてそれをさっと仕舞うと、その最後に、奇妙な浮世絵が現れる。



「……? ……これは……」



 春坊は、目を瞬いた。


 ――妖怪画だ。


 松の古木から、腰の折れた老夫婦が現れ出ている。


 老爺が妻に何某か声をかけ、老婆がそれに微笑んで答えているように見える。

〈画は無声の詩、形ありて声なし〉――などとは言うが、眺めていると、今にも老夫婦の喋り声が聞こえてきそうな一服だった。


 端に【木魅こだま】と味のある達筆で記され、〈百年の樹には神ありてかたちをあらわすと云う〉と続く。※




挿絵(By みてみん)




 おたまは巷の流行に敏いから、近頃江戸の町を賑わした品々が他にもいくつもあった。百物語が人気と聞いた時にでも、こんな妖怪画を買い入れたのだろうが……。


 裏を見返せば、絵のバケモノ老爺が指差した先に、隠し落款らっかんがある。

 春坊は、目をぱちぱちと瞬いて、その隠し落款を何度も眺めた。



「――鳥山、石燕……」




 ♢ 〇 ♢




「まあ。春さんはくだんのモノノケ先生に興味があるんですか?」


 目を丸くして、おたまが小首を傾げた。

 春坊は慌てて首を振った。


「いえ、興味というほどのことでは……。ただ、母上の長持ちで、先生の浮世絵を目にしたものですから」


 言ってしまってから、はたと春画のことを思い出す。

 まずかっただろうか――そう思って母を窺うと、彼女は春画を長持ちへしまい込んだことなどすっかり忘れているようで、ぽんと手を打った。


「ああ、そういえば、三軒隣のさよお嬢さんからもらったんでした。何でもあれを描いた画妖先生は、水も滴るような色男とのお噂で……。

 ふふふ、さよさんったら、先生の絵姿でもないあの妖怪画を見て、うっとりしているんですよ」


 おたまがおかしそうに笑うのに反して、春坊はつい顔をしかめた。


「……それはまあ、確かに美男と言えるお方でしょうが」


 こんな悋気りんきを抱くのは、はなはだ男らしくなくて自分でも嫌なのだが……。そんな美男が千代に懸想していると考えるのは、やはり面白くない。


 すると、おたまが驚いたように言った。


「おや? 春さんはそのモノノケ先生と会ったことがあるので? 何でも先生は変わり者で、ふらりと江戸の辻を歩いていたり、川辺でさらさら画を描いていたり、まるで妖怪のように神出鬼没らしいと噂に聞きましたが」


「左様でございます。噂通り、幽世から現れたような御仁でした」


「では、さよさんに先生とどこで会ったか教えてあげてくださいまし。きっと喜びます。一昨日なんぞは、さよさんは雑司ヶ谷の鬼子母神堂にわざわざお参りに行ったんですよ」


「雑司ヶ谷に?」



ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます!

更新頑張りますので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。



以下、引用画像出典です。


画像:鳥山石燕「木魅こだま」 © Public Domain(原典: Gazu Hyakki Yagyō)

出典:Wikimedia Commons – File:SekienKodama.jpg

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SekienKodama.jpg



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