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復讐魔王  作者: takAC
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第六話





 一度フローレンフェルトの街からは出たが、中の騒ぎの様子を伺いつつまた侵入する。

 今度の目的地はハインツの邸宅より北にある隠れ家だ。そこにアメリアを匿っているという話らしい。

 闇に身を隠し、裏路地を走った。

 騒ぎはハインツ邸で起こっているのでなんとか誰にも見つからずに市街地まで来れた。

 造りが違うといっていた一軒はすぐに見つかった。

 使用人が居るらしいので、それに対して警戒しつつ中に入る。

 鍵がかかっているため、力任せにその扉を開く。

 音こそ鳴りはしたものの、辺りが騒がしくなることはなかったので、形だけでもドアを元のように収め、中に進むことにした。

 

 一般的な造りの家屋だ。

 台所とリビング、それに一部屋あり2階へと続く階段がある。

 おそらくアメリアは二階だろう。

 俺は静かに二階に登った。

 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。

 部屋には椅子に腰掛け、こちらを見る一人の女声の姿があった。

 アメリアだ。


「アメリア……」


 ようやく会えた…… 

 人間を見ると湧いてくる憎悪も、アメリアに対してはまったくと言っていいほどない。

 

「ケイン……」


 何度も聞いたアメリアの声、ずっと聞きたかった声だ。


「あなたは…… あなたは一度死んだのでは……」


 今の俺の姿を、アメリアが見るのは初めてだ。

 一度死んだ人間が蘇るなど信じられなかったのだろう。

 ハンスや領民たちから話こそ聞いていたのだろうが、実感がわかず、今の今まで過ごしてきたはずだ。


「あぁ、俺はたしかに四年前、バルムンクで死んだ。しかし俺は、アメリアへの愛とハンスへの復讐心によってもう一度戻ってきたんだ」


 ゆっくりとアメリアに歩み寄る。

 もちろん剣は手放しているし、敵意がないことを示すため、アメリアに掌を見せながらゆっくり進む。


「アメリア、本当に無事で良かった。森の中で意識を取り戻したときからお前の安否を聞くまでずっと心配だったのだ。

 俺の死後、ハンスに殺されたのではないだろうか。

 そうでなかったとしても、ひどい拷問を受けていたのではないか。

 ハンスはお前を無理やり妻にしたのではないか。

 考えれば考えるほど、気が狂いそうだった。

 しかし今こうやって無事再開できて本当によかった。

 魔物となり、姿こそこんなふうになってしまった。

 人間に対して無条件に憎悪が湧いてくる今の体たが、お前に対してはまったくそれがないんだ。

 俺達はまた一緒にいられる。

 ハンスへの復讐を果たしたあと、領地も立場も捨て、また一から二人でやり直さないか?」


 アメリアは俯く、その表情は読み取れない。


「あなたはハンスに復讐を果たす、とおっしゃいますが、代官として運営に携わっているハンスを殺し、領民をどうしたいのですか?」


 アメリアの返答に俺自身が含まれていないことにすこし苛立つ。


「ハンスは領民と結託し、俺を暗殺したのだ。ハンスの死後、どうなろうが俺の知ったことではないし、当然の報いであろう?」


 アメリアは顔を上げこちらを睨むように見る。


「報い?それは何に対しての報いでしょうか?」


「無論、俺を殺したことに対するだ」


 怒気を込めて言い放つ。


 アメリアは一呼吸置くと、すこし呆れの混じったような声色でいう。


「ほんとうにあなたは、自分のこと以外見えていないのですね」


 ため息混じりにいい、さらに告げる。


「わかりました、あなたが領主になってから死に至るまでの行い。ハンスの行い。私の行い。領民の苦しみ。全てをお話しましょう」


 状況がおかしい。

 アメリアを救出し、ハンスを殺し、それで終わりではなかったのか。

 いったいなぜアメリアは素直に俺の帰還を喜ばない。

 この身体か?スケルトンのこの身体が彼女に俺を拒絶させるというのか?


「俺は領地をを正しく導いてきたはずだ。そこにハンスやアメリアの想いがあれど、その事実はかわらないはずだ。

 領民の苦しみと言ってもそうだろう?改革には時間を要する。

 たとえすぐに結果は出ずとも、俺が行ってきたことは実を結び領民を豊かにするはずだったのだ。

 今のバルムンク領を見てみろ。

 俺の生前より豊かになり、人々の生活には豊かさが見えるようになっていただろう?

 あれこそ俺が行った改革の結果ではないか。

 ハンスはそれが結果となるその機を狙い、俺を暗殺し功績を奪ったのだ。

 それが真実であり変えようがない事実だ」


 アメリアは俺の話を黙って聞いていたが、俺が話し終えると俺の話に異を唱えるでもなく話し出す。


「当初、バルムンク領はその土地柄ゆえ、貧しい、とまでは言えなくともけして豊かな地とは言えませんでした。

 その現状を目の当たりにし、私たちはそれぞれ案を持ち寄り、領地を豊かにする方法を考えましたよね」


 アメリアの話だした内容は、俺達がバルムンク領の運営に携わった当初の領地の状況だ。


「あぁ、そうだ。覚えている。俺はこれまでの農業を捨て、新たな政策を取り入れようとした。実入りのいい農作物を取り入れることで、他領との貿易をさらに活発にしようとしたのだ」


 アメリアは話を聞くとまた続ける。


「私とハンスはその政策に反対しました。理由はあの時にも告げましたが、沼地や湿地帯が多いバルムンクで他の土地と同じようなことをしても、同じだけの収穫があるとは限らないと。

 そしてあの時に沼地を利用した農業や近辺で取れる植物から作られる染料などに力を入れることでバルムンクは貿易において、他の領にない特色を出せる、と」


 たしかにその話はした気がする。

 しかし当時の俺は、自身の政策が正しいと、アメリアやハンスの考えを却下としたはずだ。

 

「しかし今は結果として豊かになったではないか。俺の行いは間違いではなかったのだ!」


「えぇ、あなたは止める私とハンスを殴りつけ、無理やり自分の考えを領民に押し付けました」


 押し付けただと?何たる言い草だ。

 全ては民のためを思い、考え、やってきたことだと言うのに。


「なんなんだその言い草は。お前はどっちの味方なのだ!!」


 声を荒げる。なぜ俺がアメリアに責められなければいけない。


「だから私とハンスは、間違いを行い続けるあなたの行いを、あなたにバレないように正していたのです。

 領民には従来の農業を行うこと。子供や老人でも収穫を行える染料のもととなる植物の採取を行うように。

 そしてあなたがよく見回る場所でのみ、あなたの考えた、新しい農業を始めさせました」


 信じられない、アメリアとハンスはあの頃から俺に隠れてコソコソとそのようなことをしていたのか。


「それがなんだというのだ!そのようなことで俺は殺されなければいけなかったのか!?」


 アメリアに詰め寄るが彼女の態度は変わらない。

 毅然とした態度で俺に話す。


「領民兵に関してもそうです。無計画に領民を徴収し、苛烈な訓練を行う。

 領民が怪我をし、農作業が行えなくなっても気にもとめない。

 兵とはそういうものだ。というだけ。

 傭兵ならばそれで良いかもしれません。

 しかし彼らは民なのです。

 領地に暮らし、そして税を収める者たち。

 領地を統治するものが、その民を傷つけてどうするのです」


「黙れ!!軟弱な兵では魔物の侵攻を防げない!

 それに敵は魔物だけではない!野盗だってそうだ!!俺は民に己を守る力を与えていただけだ!!」


 兵というものは生半可な訓練で戦いに送っては簡単に数を減らすだけだ。俺の考えは間違っていない。


「ならばあなたは怪我をさせた領民に対して、その生活が守れるように、金銭の保証は行ったのですか?怪我をしてもそのまま。

 軟弱者と吐き捨てまた別のものを傷つけるの繰り返しではありませんか。

 私とハンスは怪我をした領民に対してその生活を守れるよう、金銭を渡していたとも知らずに」


 いつか領地の会計の際、不透明な支出が多くハンスを殴りつけた事があったがあれはそのためだったのか。


「それだけならまだいい、私たちがあなたの尻拭いをしていればなんとか領地は成り立っていた。

 でもあなたは訓練の際、一人の若い兵を殺してしまった。

 その責任を負うでもなく、子供のように言い逃れをするばかり。

 領主が民を傷つけるなどあってはなりません。

 あの時より私たちは、やはりなんとしてでもあなたのことを止めねばならないと考えました」


 たしかに訓練中に領民兵が死んだことはあった。

 しかし俺だって殺意をもって訓練をしていたわけではないし、兵が強くなればそれだけで領地は強くなると考えていたのだ。

 

「なぜ俺だけが責められなければならん!

 おまえやハンスも、領民の苦しみを知りつつ俺を野放しにしてきたのだろう!」


「武勇に優れる元傭兵団の団長。

 話を聞かず、思い通りにいかないとすぐ手が出る。

 そのようなあなたをどうやって止めることができるのでしょうか?

 私とハンスはあなたを理解したうえで、領民のためになることをしたまでです」


 全て俺が悪いというのか。

 戦で功を挙げ、領地まで賜った。

 与えられた領地を良い地にしようと考え、動いてきた。

 しかし俺がやってきたことは正しくないと言われ、うまくいかないことは暴力で解決してきたと言われている。


「ならばどうすればよかったのだ……」


 たまらず膝をつき、うなだれる。

 正しいと思っていた。民が喜んでくれると思っていた。

 それなのに俺はただ、いたずらに民を苦しめ、ハンスやアメリアにその尻拭いをさせていたのか……

 殺されたことも、そうすることでしか俺が止まらなかったゆえの話だ。

 ならばおれはこれからどうすればいい……

 復讐心も逆恨みと告げられ、その身の心配をしたアメリアからは冷たい事実を告げられる。

 彼女はもう、俺を愛していないのだろうか。


「アメリア…… 聞かせてくれ……」


「なんでしょうか……」


 突き放すような、冷たく感じる言い方であった。


「もう…… もう俺のことは愛していないのか……?」


 縋るように、言った。


「いいえ、私はあなたのことを愛しています」


「それなら!」


 言いかけた俺の言葉を遮るようにアメリアは続けた。


「しかし私はそれ以上に愛しています。

 もちろんそれにはハンスも含まれています」


 ハンス……?

 やつのことを愛していると言ったのか……?


「あなたはすでに死んだ人、私はこれからバルムンクの民のため、その運営に携わろうと考えています。

 そのためにはハンス、あの人と一緒になろうと考えています」


 ハンス……


 ハンス……!!


 ハンス!!!


 言葉を飲み込む前に、怒りが、憎悪が感情を支配した。


「貴様!!」


 咄嗟に剣を持ち、アメリアの腹を裂いた。

 血は辺りに広がり、アメリアの顔は驚愕に染まる。

 その瞬間、我に返る。


「アメリア!!」


 急ぎ、アメリアを抱きかかえる。

 口からも血が流れている。傷は内蔵にまで達しているのか?

 手で傷口を抑えるが、血はどくどくと流れ続けていた。


「変わらず…… 短気な方……」


 そう言うと、アメリアは眼から一筋の涙をこぼし、死んだ……

 なぜだ…… なぜアメリアは俺を挑発するような言い方をしたのだ。


 ガチャリとドアが開く音がした。

 

「ケイン……」


 ハンスの声だ。

 今すぐにでも殺してやりたい男が、すぐ後ろに経っているのに、俺は動けなかった。

 アメリアを殺してしまった後悔、自分の未熟さ、ハンスへの憎しみ。

 色々な感情が自分の中でぐちゃぐちゃに混ざり合い、全てを投げ出したくなる気分にさえなった。


「アメリアを殺したのか…… ケイン……」


 かすれるような声で「あぁ……」と返すことしかできない。

 背後に立つハンスの表情はわからない。

 声色からも感情は読み取れない。

 

「フローレンフェルト領主のハインツ殿が殺された。それもお前の仕業だな、ケイン」


 その問いにも力なく「あぁ……」とだけ答える。

 

「よく聞けケイン」


 ハンスが俺に語りかけだした。


「ハインツ殿がお前に殺され、街のものは血眼になってお前のことを探している。

 見つかれば戦闘になり、お前は殺されるだろう。

 俺はアメリアの安否のためと現場を離れたが、フローレンフェルトの人間も冷静さを取り戻すと責任として俺を断頭台に送ろうとするだろう」


 ハンスが……?なぜ殺される……?

 俺は振り返り、ハンスを見た。

 ハンスもまた、様々な感情の混ざりあったような、複雑な表情をしていた。


「なぜお前が死ぬ?討たれるべきは俺だけのはずだろ?」


「俺もお前も、バルムンクの人間だからだ。

 お前を止めきれなかった責任で俺は殺される可能性が濃い。

 だから俺はお前と決着をつけ、お前の首を持ち、無実を証明せねばならん。

 ケイン、時間がない。

 今すぐにでもここではないどこかで俺と立ち会え」


 ハンスも連座により殺されてしまう可能性があるのか……

 しかしこれは俺が始めた復讐、他の誰かにハンスを殺させるわけにはいかない。

 俺はふと手に抱いたアメリアの遺体を見る。


「ハンス…… アメリアを弔わせてくれ。……頼む」


 復讐相手に頼みごととは自分でも可笑しいと感じる話だ。

 ただアメリアの遺体をそのままにしておくのは俺の中で許されることではなかった。


「三日だ、三日のうちに弔いを終わらせろ。

 そしてその3日後の晩、リヴ山にてお前を待つ。

 バルムンクを一望できる場所、といえばお前にもわかるだろう?」


 おそらくハンスにもアメリアを弔いたい気持ちはあったのだろう。

 決着に急いでいるのであろうがそれは良しとしたようだ。


「あぁ、アメリアを弔ったら必ずいく」


 アメリアから真実を聞き、蘇ったばかりの頃のハンスへの強烈な殺意や復讐心は少し鳴りを潜めてはいるが、ハンスとの決着は必ずつけねばならない。

 それは俺にまだ残っているたった一つの目的であるからだ。

 


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