第五話
フローレンフェルトへ向かう途中、ケインは何度も襲撃を受けた。
小規模なものが殆どであったが、中には十名を越える襲撃者を相手にせねばならないこともあった。
襲撃者の集団、傭兵のリーダーを生け捕りにし、情報を聞き出す。
内容はハンスとハインツの関係性。幸いなことに、この傭兵のリーダーはそちらの情報にも明るいようで実のあることを聞き出せた。
ケインの死後、ハンスはフローレンフェルト領主ハインツの口添えで領主代行として封ぜられた。さらにハインツはハンスが領主代行になってからというもの、支援に金を惜しむことはなかったようだ。おそらく何らかの取引があったのだろうが、そこまではこの傭兵は知らなかった。
ケインは領主時代に事あるごとにバルムンクの運営に口出し、干渉をしてきたハインツにいい印象はない。おそらくはケインが領主ではバルムンク領を影で操れないと悟ったハインツが、ハンスを対象に変え、暗殺させたのであろう。
やはりハインツも殺さねばならない。俺の暗殺に関わり、アメリアをおれから引き剥がしている者なのだから。
フローレンフェルト領内の街につく頃には日は傾きかけていた。
石壁で作られた外には見張り台が設置され、門にも門番が配置されている。
どこか侵入できそうな、監視の目の薄い場所を探し、ぐるりと外壁を回る。
一箇所、薄暗く見張りとの距離がある場所をみつけたので、そこから街へと侵入した。
領内で姿を見られるのはまずい、おれは細心の注意を払い、街の中を中央の一際目立つ大きいな邸宅へと向かっていく。
ハインツ邸は俺の見立通り、1番大きな邸宅で合っていた。しかし見張り、というか武装した人間が多い。
気配を殺し、中の人間の会話を盗み聞く。
バルムンクにでたスケルトンの討伐の為に集められた傭兵、私兵らしい。
これで確信が持てた、ハインツとハンスは共謀し、俺を領主の座から降ろすため暗殺したのだ。
やはりハインツもこの場で殺す。
俺は邸宅に侵入し、ハインツの元へと向かうことにした。
邸宅を奥へと進むとハインツはすぐに見つかった。
ぎょっとした表情のハインツの周りには三人の戦士がいた。
「な、なんだ!!貴様がハンス殿の言っていたケインの亡霊か!?」
俺はハインツに剣を向け呟く。
「俺は亡霊ではない、貴様らを殺す復讐者だ!!」
声をきき、ハインツが「ヒッ」と声を上げ、周りにいた戦士に命じる。
「この魔物を討て!!殺したものには三倍の報酬を払う!」
三名の戦士は俺に対して身構える。
ハインツは必死に逃げ道を探していたが、出入り口は俺が背負っているためこの場からは抜け出せない。
戦士の一人が切りかかってきた。戦斧を振り下ろしてきたが、鈍すぎる。
俺は躱すと同時に腹を斬った。
「ぐぅうう!!」
大量の血が溢れ出る。おそらく傷は内臓まで達しているだろう。
膝をつき、上半身から倒れ込んだ戦士はすぐに動かなくなった。
「な、何をしている!!同時に掛かれ!!」
ハインツの号令で二人同時に来る。
一人は槍の突き、もう一人は剣だ。
先程殺した戦士の身体を蹴り上げ、槍の戦士を牽制する。
その間に切りかかってきた剣士を剣ごと切り裂く。
今度は上半身と下半身がきれいに別れ、上半身は勢いのままくるくると周り、天井や壁にぶつかりながら床に落ちた。
その光景を見たハインツは発狂したかのように叫ぶ。
「誰でもいい!!早く来い!!こいつを殺せ!!」
槍士がもう一度突きを放ってきたが、それを掴み取り、首を切り払った。
頭を失った胴はへたり込むとそれを見たハインツは失禁した。
俺は失禁し、へたり込むハインツの元へ行き問う。
「アメリアはどこだ……」
「言、言えば殺さぬか!?」
ハインツは震えながら聞いてくる。
「全てはお前次第だ。アメリアをどこに匿っている」
「約束しろ!アメリア殿の所在を言えば殺さぬと!」
「わかった。アメリアの所在を吐けば命だけは助けてやる」
ハインツは内心ホッとしたような表情をし、答えた。
「アメリア殿はこの邸宅より北にある隠れ家に匿っている。一軒だけ造りが違うのですぐわかるはずだ。当面の生活は使用人を一人つけているから問題ない。これでいいだろ?頼む、見逃してくれ」
「まだだ」
ハインツが絶望の表情をする。
「貴様はハンスと組み、俺から領地の簒奪を計ったのだろう?」
俺の声に震えながらもハインツは反論する。
「簒奪!?なんのことだ!私はただハンスどのとバルムンクをより良い地とするために……」
「ならばなぜ俺から奪う必要があった!!」
ハインツの顔の隣を殴りつけ恫喝する。
「し…… 知らん!!ハンス殿と交わしたのは協力と援助だ……! たしかに貴様が死んだ後、中央に口添えこそしたが貴様の死に私は関わっていない!!」
ハンス一人の計画ではないはずだ。
このたぬきの言ってることは信じられない。
「やけに事が円滑に進みすぎているだろう。関係がよくない領主である俺が死に、良好な関係だったハンスに口添えを行った。俺の死を知らなかった割にはトントン拍子で進んでいたとは思わないか?」
「たしかにハンス殿が領主であるならと望んでいた事は認めるが、暗殺になど関わっていない!!」
一貫して関与を否定する。
「最初から俺に対して援助や協力を申し出ていればよかっただろう」
「それはお前が話を理解しない野蛮人だからだ!!私が何度も話を持ちかけても貴様は聞こうともしなかっ……」
しなかっただろう、と言いかけたハインツに対して俺は剣を突き刺した。
ゴポリと口から血の泡が溢れ出し、目の色から輝きが失われていく。
ハインツと交わした約束ははじめから守るつもりなどなかった。
クソたぬきが……!こいつは結局ハンスに利用されていただけだ。
立ち上がり部屋から出るとすでに部屋は包囲されていた。
無数の兵が俺を取り囲む。
すでに包囲する集団は臨戦態勢だが関係ない。
俺は戦闘に立つ兵に踏み込み、切り下ろした。
天井と床に斬撃の後を残し、剣は兵の体を二つに分ける。
それをみた他の兵たちは驚愕と恐怖に目を見開いた。
突き、薙ぎ払い、斬り進む。雑兵など今の俺の相手にならない。
繋ぎ止めておくことさえ叶わない。
阿鼻叫喚の地獄絵図を俺は作り出した。
俺の勢いに恐れいののき、後ろに下がる前線の兵が、後ろの集団ともつれ崩れる。
通る道には血と肉しか残っていなかった。
屋敷中が血まみれにするほど斬り尽くした後、すでに俺の前に立つものはいなくなった。
屋敷を出ると遠くから屋敷に向かってくる無数の足音が聞こえてきた。
開けた地で多人数を相手にするのはまずい、俺は一度来た道から街の外へと身を隠すこととした。