第四話
「おのれ…… おのれハンスッ!!」
スケルトンとなった身体は火に弱く、痛みにのたうち回りながら水辺を探し回った。
浴びた油は燃え盛り、身体に張り付き剥がれない。
記憶を頼りに戦いの場からそう遠くはない沼地へと辿り着いた。
その沼地に迷うことなく飛び込む、身体中にまとう炎はジュウっと音を立て消えた。
俺はしばらく沼地の中に身を沈めていた。
肉体的な痛みはすぐに消え、
忘れてしまうが精神的な戸惑いを落ち着けるためだ。
頭の中を駆け巡るのはアメリアとハンスの関係だ。
アメリアの心がすでにおれの元にないと言った言葉がずっと引っかかる。
アメリアに会いたい。そして彼女の口から真実アを聞きたい。
やはり俺はハンスへの復讐、そしてアメリアのためにまだ死んでやることはできないのだ。
疲労や食欲が湧くことがないことは便利であったが、スケルトンの身体がここまで火を苦手としているというのは計算外であった。
知識としてはスケルトンの弱点が火、ということは知っていたが対策を行わねばこれから先、火を使われてはすぐに窮地に陥るだろう。
鎧は燃えないと言っても、さきほどの戦闘のように火炎瓶を使われてしまってはたまったものではない。
今現在で取れる対策は少ない。
しかし幸いなことにこの地は沼地だ、泥の類はいくらでも手に入る。
俺は沼地より泥を掬い、鎧で覆われてない箇所を重点的に泥を塗りたくった。
しかしこれだけでは心もとない。できれば燃え移るまで時間のかかる厚手のマントなどがほしい。それにも泥を染み込ませればとりあえずの対策としては十分だろう。
そしてハンスだ。火によって退却せざるを得なくなったが、今度こそ殺してやる。
とりあえずは村に戻ろう、そこでマントを手に入れ、炎対策を行ったうえで今度こそハンスとの決着をつける。
身体は十分休まった。動くことも問題ない。俺は身体を起こし村へと戻ることにした。
***
村につけば、領民の気配は一切なかった。
おそらくハンスが俺の襲撃を領内に知らせ、離れるように命令したのだろう。
まぁいい、とりあえずは炎の対策だ。
人気のない村の中をさまよい歩く。
厚手のマントを探し出し、それに泥を染み込ませることで、当面の対策とすることとしよう。
村内の納屋などを漁る。何件か回った後に、大きさ、厚み共に丁度いい生地が見つかったのでこれに泥を染み込ませ、とりあえずの対策は完成した。
もう一度ハンスと相対するべく、領主邸にまで向かったが、すでにハンスに逃げた後であった。
屋敷内を探索していると、どこからか人の気配がした。
おそらく逃げ遅れた人間が、まだ残っているのだろう。
邸宅内を探して回る。魔物の身体は人の気配に敏感なのですぐに見つかった。
「ヒッ……」
俺の顔を見て恐れの声を上げたこの使用人は知らない者だ。
逃げ道を塞ぎ、立ちはだかる。
「ハンスはどこへ逃げた……」
使用人が唾をゴクリと飲み鳴らす音が聞こえた。
「ハ、ハンス様はフローレンフェルト領へ行った……」
あのタヌキの元へか。
俺が領主になりたての頃、いろいろこちらにちょっかいをかけてきたやつだ。
領地運営や防衛費の援助という名目で、金を送ろうとしてきたり、それどころか上から目線に人材をこちらに寄越そうとしてきたのだ。
貸しを作ることで明確な上下関係を築こうとしたのだろう。
すべての援助や人材の派遣は突っぱねたものだが。
しかしハンスめ…… フローレンフェルトのタヌキと手まで組んでいたのか。確か名はハインツといったか。
恐らく、ハインツから私兵団を借り受けたり、傭兵を雇ったりして俺に対して襲撃を行うつもりだろう。
まぁ今のこの身体であるなら、少数であるなら問題ない。
ハインツもろとも死をもって償わせてやる。
そしてアメリアだ、アメリアもフローレンフェルトへと逃げたのか?
「ハンスはアメリアをどこへやった」
おそらくアメリアもフローレンフェルトだろう。それを確かめるために聞く。
「アメリア様もフローレンフェルトです…… あの…… すべて話しますので命だけはどうか……」
「いや大丈夫だ、聞きたいことは、もうない」
そう告げると俺は使用人を斬り殺した。
次の目的地は決まった。フローレンフェルトだ。そして俺を殺したハンス、邪魔してくるものを殺し、アメリアを救出する。




