第7話:帝国が刺客を送り込んできたので、敵討伐ついでに貴族制度もぶち壊しておきました
──帝国・西部戦線跡地。
月のない夜。空には黒煙と火花が上がっていた。
襲撃されたのは、帝国の西部監察支部──
「……“黒服の刺客”が来たか」
アメリアは倒れた仲間の肩を支えながら、剣を鞘から抜いた。
目の前に立つのは、全身黒尽くめの帝国刺客部隊《灰の処理人》。
「アメリア=セレフィーヌ、国家反逆罪により即時抹殺対象とする」
「ご丁寧にどうも。でも、“その罪”の内容、ちゃんと知ってる?」
「……?」
「──“帝国に逆らった”って、それだけよ。私が人を殺した? 民を裏切った? 財政を搾取した? 何もしてないわ。
それでも、わたしは殺されるの」
静かに剣を構えたアメリアの瞳は、夜闇より鋭く光っていた。
「だったら、あなたたちのほうが“罪人”ね」
戦闘は一瞬だった。
“影狼”の異名は伊達ではない。
一人目の刺客の喉を貫き、二人目の刃を手甲で受け流し、三人目の胸元を蹴り飛ばす。
まるで流れるような動き。
「……たった一人で、隊が……」
「数は意味を持たないのよ。少なくとも、わたしにとってはね」
刺客の最後の一人が、静かに倒れた。
周囲に残るのは、血と息遣いと、かすかに燃える瓦礫の音。
──その翌日、カルナス砦・広場。
「皆さん、よく聞いて」
アメリアは、集まった騎士たちと民衆を前に立った。
その瞳は、ただの軍人のものではなかった。
彼女は今、“思想を掲げる者”になろうとしていた。
「わたしは帝国の命令に背きました。だから“反逆者”として追われています」
「でも、それは正しかったと信じてる。
──なぜなら、帝国は、貴族のために民を切り捨て、戦争を引き起こし、命を数字としてしか見ないから」
人々の目が、アメリアに集まる。
「私は貴族の生まれ。でも、だからこそわかる。
“貴族”っていうのは、権利じゃなく、“責任”であるべきなのよ」
「剣を持つなら、人を守れ。地位を持つなら、民を助けろ。
それができない者に、権力を持つ資格なんてないわ!」
その叫びに、騎士団の兵士だけでなく、避難していた村の者たちまでもが拳を握った。
副官レオンが呟いた。
「……姐さん。もう“反逆者”じゃない。あんた、“旗”だよ。革命の」
「またそういうこと言って……」
「でも事実です。俺らはもう、ただの逃亡兵じゃない。
“帝国の腐敗を正す”、その旗印にみんなが集まってる」
アメリアは、沈黙のまま遠くを見つめた。
──それは、はじまりだった。
同日、王都・貴族会議。
「バカなっ……! 反逆者が民衆を味方につけただと!?」
「西部の砦が次々に掌握されている! 騎士団が寝返ったという報も!」
「……“あの女”、ただの令嬢じゃなかったのか……!」
貴族たちは、アメリアの拠点から発信された宣言書に青ざめていた。
【我ら、帝国の旧体制に異を唱える。
貴族制度の見直しと、民衆による自治権を。
剣と血ではなく、責任と信義で国をつくる。
我らの名は、“自由騎士団”。──アメリア=セレフィーヌ】
「……これはもう、内乱ではない。革命だ」
同日深夜、ヴァルトリア王国・王城。
「やはり、動いたな……アメリア=セレフィーヌ」
レオニス王子が窓の外を見つめながら、ひとり呟いた。
「彼女が、ここまでのことをするとは……いや、できる者だったのだ」
侍従が問う。
「殿下、お力をお貸しになるおつもりですか?」
「もちろん」
レオニスは、静かに書簡をしたため始める。
【自由騎士団アメリア=セレフィーヌ殿
ヴァルトリア王国は、貴殿の“理想”に一定の理解を示す用意があります。
一度、非公式に会談の場を設けられればと──】
「君が本気で世界を変えようとしているなら、僕も剣を抜こう。
“その光”が、今度こそ届くように」