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大して仲良くもない同僚に、数合わせで合コンに誘われた。
必死に懇願されたから仕方なく来たものの、全く興味がない。
きれいにしている彼女達とは反対に、私のメイクも服装も、悪い意味で浮いている。
こんなことなら、もう少しマシな格好をしてきたのに、と一瞬過ぎったが、わかっていても変わらない自分が想像でき、少しばかり落胆する。
道中、歳は同じ彼女達のテンションについていけず、夜空を仰ぐ。
そういえば、今日は七夕じゃないか。
ひしめき合った看板の光が、天の川のようだ。
しかし、本物は見えなかった。
そうこうしていると、着いたのは普通の居酒屋。
今日のお相手は大手企業の、これまたエリートらしいと、彼女達の会話から情報を得た。
エリートでも居酒屋で合コンなんてするんだ、と小馬鹿にしながら最後尾で中へ入る。
「お待たせー!」
どうやら相手方はすでに来ているよう。
靴を脱いで座敷にあがり、男性陣の顔を確認したところで、足が固まった。
「あ、」
あちらも気づいたようだ。背中に、変な汗が伝う。
「なに北條、知り合い?」
男性陣の1人がそいつに話しかける。
「高校の同級生なんだ。
久しぶりだね、佐々木さん。まさかこんな所で会うなんて。」
本当に懐かしそうに、北條は微笑む。心なしか、目が笑っていない気がする。
「あはは…久しぶり。」
頑張って笑顔をつくるが、どうしても顔が引き攣る。
大体、同級生なんて白々しい。
まあ確かに、こんなところで、“元カノ”だなんて、普通言わないだろうけれど。
北條樹とは、高校2年生から付き合い始め、2年前に自然消滅した。
社会人1年目でお互い忙しく、会う頻度が減り、連絡も減り…
私が、携帯を壊してデータが全部吹っ飛んだ&番号などを変えてしまったことで音信不通となり終了。
会いに行こうと思えばできたが、どちらともしなかったのだから、それが答えだろう。
長く付き合っていたのに、終わるときは呆気ないな、と嘆息したのを覚えている。
思えば、携帯が壊れたのも、これくらいの時期だったな。
一応 “同級生”ということで、一番奥の北條の向かいに座らされる。
気まずさが私の頭を押さえつけ、顔を上げられない。
私達が着席すると、男性幹事がテキパキと注文を済ませる。
ドリンクが届いて、まずは乾杯。
軽く自己紹介を終え、私以外の女性陣は、あらん限りのテクニックを駆使して、アプローチを開始する。
それを余所目にウーロン茶を飲んでいると、
「お酒、飲めないの?」
と、北條が聞いてきた。
知ってるくせに、と思ったが、
「ちょっと苦手で…。」
と、あくまで成人してからは会ってません、というスタンスで返す。
すると、
「そうなんだ。
もう社会人3年目なのにね。」
と、皆には聞こえるかどうかくらいの声で嫌味を言われた。
「それじゃあ、接待とか大変じゃない?
あ、でもそんな色気のない格好だと、接待なんて呼ばれないか。」
爽やかな笑顔で毒を吐く。
色気の有無は接待に関係ないし、そも接待なんてする職種じゃない、と否定しても良いが、面倒臭くなりそうなのでやめておく。
彼の口が悪いのは、昔からだ。本人曰く「心を許しているから」らしい。
しかし、笑顔で毒づくのは、怒っている時だ。
ただ、私には、彼に腹を立てられる覚えはない。
「なんなの?」
「ま、元気そうでよかったよ。」
不意に真顔で言われる。
変わらない口ぶり、表情。
何だかんだと言いながら、私を案じてくれる。そういう所が好きだった。
そう、 “だった”、過去形。
もしかしたら、自分が飲んでいるのはウーロンハイなのかもしれない。
でなければ、体が熱いのも、鼓動が速いのも、説明がつかないもの。