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死に戻り悪役令嬢は気づいたら聖女になっていた

作者: 天野 恵

 冷たい風が頬を切りつけるように吹き荒れる中、セシリアは目の前に広がる炎を見つめていた。燃え盛る火柱が彼女を囲み、人々の怒号が彼女の耳に響く。


「裏切り者!」

「悪女め!」

「早く殺せ!!」

「お前のせいで!」


彼女の名を呪う声が広場を満たしていた。

セシリアは、すべてが終わるその瞬間をただ待っていた。目の前にいるのは、妹イベリスと、かつて婚約者だったヘンリー。彼らの冷たい視線を感じながら、セシリアは心の中で呟いた。


(これが、私の終わり……)


炎の熱が彼女を包み込もうとするその瞬間、セシリアの視界が真っ白になった。



ーーー



「ここは……」


次に目を覚ました時、セシリアは見覚えのある天井を見上げていた。ふと身体を起こし、周りを見回すと、そこは幼少期に過ごした自室だった。


「どういうこと……私は確か、処刑されたはずなのに……」


セシリアは混乱したまま、鏡を手に取り自分の顔を見つめた。そこに映るのは、まだ無垢な少女の姿自分。


「小さい時の私...?」


考えを巡らせ自分が過去に戻ったことを理解し、冷や汗が背中を伝った。


「これって、過去に戻ってる……?」


不思議な感覚に包まれながらも、セシリアはすぐに考え始めた。前世で犯した過ちを繰り返さないためには、どうすればいいのか。再び同じ結末を迎えることだけは絶対に避けたい。


「静かに生きるんだ……誰にも目をつけられないように、お淑やかに」


彼女は心に誓った。どんなに辛いことがあっても、今度こそお淑やかに、波風を立てずに生きると。


---


数年が過ぎ、セシリアは静かに、目立たないように暮らしていた。


婚約者ヘンリーとの関係も表面上は良好だ。前世ではいつもくっついて歩いていたが、私はヘンリーが浮気性なのを知っている。


「何度浮気されたことか...」


ヘンリーと適度な距離を保ち生活していた。しかし、妹イベリスは相変わらず周囲に媚びを売り、前世と同じように私を挑発してきた。



そんなある日、セシリアは宮廷で隣国の王子──アルベルトと出会った。これは国家間の和睦の為の交流だった。


食事をしながら腹の探り合い。


「政治の話はこのくらいにして。セシリア様は普段はどの様なことをしてお過ごしで?」


「私ですか?」


アルベルト王子の考えはわからない。いったい何を探っているのだろう。


趣味の話や好きな食べ物など、いろいろ質問しあった。


「セシリア様とはもう少しお話ししたいものです。」


「私もアルベルト王子とたくさんお話ししたいです」


王子の言葉にセシリアは動揺した。しかし前世で処刑されている身、簡単に信用は出来ない。



---



数ヶ月が経ち、セシリアの生活は次第に落ち着いていった。

前世の罪悪感から少しでも国の為にと、前世の知識を使って政治に貢献し働いた。


国民からの信用をされるようになり、街の子供たちから声を良くかけられる。


一番感謝されたことは、街の片隅にあるスラム街に誰でも通える学校を作ったり、病院の建設、仕事依頼、炊き出しなどの活動を行った。前世ではスラム街の事に関して見向きをせず、差別をしてしまったことで国民からの批判、疫病の拡大を招いてしまった。そのせいで多くの人が亡くなった。


もうあんな事にはしたくない。


スラム街に積極的に関与することは一部の貴族からはよく思われていないが、全ての人間から忌み嫌われる事に比べたら痛くも痒くもない。


「セシリア様だ!!」


「あらどうしたの?」


スラム街の子供達が集まってきた。


「これ、学校で作ったの!」


「綺麗なお花の冠ね。これ私にくれるの?大事にするわね。」


本当に前世の私は何をやっているのだろう、汚いと蔑み嫌うなんて………

こんなにも素敵な子供達が居るのに……



ーーー



隣国の王子アルベルトとのやり取りは増え、彼の紳士的な振る舞いにセシリアも少しずつ心を開き始めていたが、それでも過去の苦い記憶は彼女の心に重くのしかかっていた。


そんなある日、隣国の宮廷で舞踏会が開かれることになった。セシリアもその舞踏会に招かれ、アルベルトの隣で踊ることになった。


「今日は一段と美しいですね、セシリア」


アルベルトは、柔らかな微笑みを浮かべながら彼女に話しかけた。セシリアは慣れない褒め言葉に戸惑いながらも、微笑み返した。


「ありがとうございます。でも、私はただ……少しでもアルベルト様に迷惑がかからないように振る舞おうとしているだけですので」


彼女の言葉には、まだどこか距離感があった。アルベルトはそれを感じ取りながらも、彼女の手を握り、優しく舞踏のステップを導いた。


「そうやって自分を低く見積もらないでください。あなたは聡明で、優雅で……まるで聖女のようです」


その「聖女」という言葉に、セシリアはわずかに眉をひそめた。前世で「聖女」として称えられていたのは妹のイベリスだった。そして、彼女自身が「悪役令嬢」として処刑されたことを思い出す。だが、今の自分は違う。再び過ちを犯さないよう、静かに生きることを誓ったのだ。


「私は、そんな素晴らしい方とは全然違いますので」


セシリアは軽く笑い、話題を変えようとしたが、アルベルトはその笑顔にさらに魅了されたようだった。


「私はそうは思いません。もっと自信を持ってください。実は、街でスラム街の人に接している姿を見ました。セシリア。あなたには、自分で気づいていない力や魅力があります。それが、あなたを聖女と呼ばれる理由ですよ」


プライベート私を見られるなんて恥ずかしい。が、聖女と言う言葉に意識がいった。


「あの、アルベルト王子...今聖女と言いましたか?」


「はい いいましたよ?」


「私が聖女ですか?」


「国民の皆さんはあなたの事を聖女の様だと慕っていました」


聖女...何かの間違いだろうか。前世では妹が聖女になっていた。未来が少しずつ変わっているようだ。


これならきっと処刑を逃れられるのでは!?


ーーー



舞踏会から数日後、セシリアはある決意を固めた。


それは、婚約者であるヘンリーと別れることだ。


彼が妹イベリスに心を惹かれ、彼女と浮気しているのを知っているセシリアは、すでにヘンリーに対して何の感情も抱いていなかった。


「ヘンリー、少しお話ししたいことがあります」


セシリアは冷静な声でヘンリーに話しかけた。彼は不満そうにセシリアを見下ろしながら、「何だ?」と無愛想に返事をした。


「私たちの婚約……終わりにしましょう」


その一言に、ヘンリーは驚愕の表情を浮かべた。


「お前、何を言ってるんだ?お前が俺を捨てるだって?バカな!」


彼は激怒したが、セシリアは冷静に続けた。


「私はもう、あなたに愛情を感じていません。だから、これ以上この婚約を続けても意味がありません」


ヘンリーは怒りに震えながらも、何か言い返すことができなかった。彼は自分が浮気していたことを知っているセシリアが、どれだけ冷静にこの決断を下しているか理解していたからだ。


「……好きにしろ。その代わりこの国から出ていってもらうからな」


ヘンリーは吐き捨てるように言い、セシリアの元を去っていった。


セシリアはその背中を見送ると、心の中に少しの解放感を覚えた。ようやく、過去の呪縛から解き放たれたのだ。


だが、彼女の心は完全には軽くならなかった。妹イベリスが今度は隣国の王子アルベルトを狙い始めたことに、彼女は気付いていた。


アルベルト王子が「何かあった私を頼ってください」と言っていたのを思い出した。


「隣国に行くしかない……」


セシリアは自らの追放を決意した。元の国で暮らし続けることは、彼女にとって危険でしかなかった。隣国で新たな生活を始め、静かに過ごすことが彼女の願いだった。



ーーー



隣国にたどり着いたセシリアは、アルベルトの後押しもあり、宮廷内での生活を始めることになった。だが、彼女は元の国での過ちを繰り返さないため、できるだけ目立たないように、静かに日々を過ごしていた。


しかし、隣国の人々はすぐに彼女の知識や才能に気付き始めた。宮廷内での書類整理や経済に関する提案を出すと、それがたちまち評判になり、彼女は「聡明な貴婦人」としての評価を得た。


「セシリア、君の意見はとても役に立つ。もっと私のそばで助けてほしい」


アルベルトは何度もそう言って、彼女を宮廷の重要な役割に就かせようとしたが、セシリアはそれを避け続けた。彼女は過去に「偉くなりすぎた」ことで、悲劇的な結末を迎えたことを忘れていなかったからだ。


それでも、次第に彼女の存在感は宮廷内で大きくなっていき、聖女のような存在として認められていく。

 


ーーー



そんなある日、隣国に大きな事件が起こる。隣国の王子アルベルトが戦場で重傷を負い、瀕死の状態で戻ってきたのだ。


「王子が……王子が戻ってきました!」


その知らせを聞いたセシリアは、彼の元へ駆けつけた。血にまみれ、今にも命を落としそうなアルベルトの姿を目の当たりにした瞬間、彼女の心の奥底から強い感情が湧き上がった。


「助けたい……彼を……」


その願いは、前世では感じなかったほど強く、純粋なものだった。そして、セシリアが祈りの言葉を口にすると、彼女の手から柔らかな光が放たれた。


その光がアルベルトの身体を包み込むと、奇跡的に彼の傷が癒えていった。


「……セシリア……?」


彼は弱々しくも、目を開けて彼女を見つめた。セシリアは涙を流しながら、彼を抱きしめた。


「良かった……本当に……」


彼女は自分が「聖女」としての力を覚醒させたことを悟り、これが自分の使命であると確信した。



ーーー



セシリアが聖女としての力を覚醒させたという噂は瞬く間に広がり、隣国の人々は彼女を敬い、ますますその存在感を強めていった。そんな中、元の国での噂も隣国に届くようになった。妹イベリスやヘンリーの婚約が破綻し、国の経済は停滞しており、王や貴族たちは次第に彼女の不在が国の衰退に直結していることに気づき始めていた。


ある日、元の国から使者がセシリアのもとにやってきた。彼らは彼女に戻ってきてほしいと懇願し、今やセシリアの存在がどれほど重要だったかを痛感していたのだ。


「セシリア様、どうか我々の国に戻り、再びご助力をお願いできませんか?国は今、あなたの力を必要としています」


その言葉に、セシリアはかつて自分が処刑されかけたことを思い出した。そして、今この場に立っているのは過去を乗り越えた自分であり、再びその国に戻る理由はないと冷静に感じていた。


「戻るつもりはありません。私には、今の隣国で果たすべき役割があるのです」


セシリアは毅然とした態度でそう告げ、使者を送り返した。自分を貶め、処刑しようとした国に対しての「ざまぁ展開」が、ここに完成したのだ。元の国が凋落していく一方で、隣国はセシリアの力と知恵を借りて繁栄していた。



ーーー



一方、妹イベリスはヘンリーとの婚約が破棄されたことをきっかけに、セシリアの成功を妬み始めていた。イベリスは前世で聖女として称えられていたが、今世ではその力を覚醒させることができず、セシリアに対する嫉妬心が強まっていた。


「なんで……なんで私じゃなくて、姉さんが聖女なのよ……」


イベリスは隣国へと向かい、セシリアに直接対面を求めた。再会した妹は、かつての可愛らしい面影を残していたが、その瞳には深い嫉妬と怒りが宿っていた。


「姉さん、どうして私を置いてこんなところで幸せになっているの?」


その問いに対して、セシリアは冷静に答えた。


「イベリス、私はただ自分の過ちを償おうとしているだけよ。過去の罪を背負いながら、今を生きることを選んだの」


イベリスは顔を歪め、さらに問い詰めた。


「それでも私はあなたを許さない!私こそが聖女であるはずだったのに……姉さんさえいなければ……!」


セシリアはその言葉に静かに首を振った。


「それは間違っているわ。聖女としての力は、愛と祈りの心から目覚めるもの。強欲や嫉妬からは何も生まれないのよ」


その言葉がイベリスの胸に鋭く突き刺さった。彼女は自分の嫉妬が全ての原因であり、決してセシリアに勝つことはできないと悟り、悔し涙を流しながらその場を去った。



ーーー




妹との対決が終わり、セシリアはようやく自分の心に安らぎを取り戻すことができた。彼女は過去のトラウマと向き合い、そして乗り越えることができたのだ。


それから数日後、アルベルトがセシリアの元に訪れた。彼は彼女の手を握り、真剣な眼差しで彼女を見つめた。


「セシリア、君にはもう二度と苦しんでほしくない。私は君を愛している。どうか、私と共に生きてくれないか?」


セシリアはその言葉に心を震わせた。これまで、彼女は誰かを信じることが怖かった。しかし、アルベルトの誠実な心に触れ、彼の愛が真実であることを感じていた。


「……私も、あなたと共に生きたい。もう過去に縛られることはないわ」


そう告げたセシリアは、アルベルトの胸にそっと身を寄せた。彼は彼女を優しく抱きしめ、二人は静かに未来への一歩を踏み出した。



ーーー



セシリアとアルベルトの婚約はすぐに発表され、隣国中が祝福ムードに包まれた。セシリアは聖女として隣国でさらに尊敬される存在となり、彼女の影響力は国の発展にも寄与していった。


一方、元の国はセシリアが戻らないことを確信し、経済的にも政治的にもさらに衰退していった。イベリスやヘンリーも、自らの過ちと向き合わざるを得なくなり、セシリアの前にはもう二度と立ちはだかることはなかった。


そして、セシリアは静かな生活を望みながらも、隣国の王子アルベルトと共に新たな時代を切り開いていく。


「これからは、私たち二人で未来を築いていくのね」


アルベルトは微笑みながらセシリアに頷いた。


「そうだ、君がそばにいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられる」


二人の愛は強く、互いを支え合いながら新しい人生を歩み続けた。そして、セシリアはもう過去に縛られることなく、自らの力と知恵を隣国の繁栄に役立てていくことを誓った。

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