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黄金物語  作者: ちゆき
第一章 襲撃編
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第6話 はっけん

〜あらすじ〜

「天津ノ神ノ巫女」ことまつは、書斎にて手がかりを掴んだ。

仮説を確信に変えるべく、男の記憶を辿る。

そこで知った、少年の名前は───

「安倍⋯彰人⋯。」

「なんでも好きに呼んでくれていいぞ。

彰人でもあべっちでもあきくんでも。」

わたしは驚愕した。

こんな事があるのか。

ニコニコと不快な提案をしてくる男の事は置いておくとして。

こいつは⋯もしかしなくてもあの物語に出てきた安倍晴明の末裔ではないのか。

だとすると恨みを持った鬼が、自分を封印した安倍晴明の子孫、その一族の人間を襲うというのも頷ける。

一連の事件の辻褄は合う。


ただ⋯ひとつ気がかりなのはどうやって封印を解いたのかという事だ。

安倍晴明の名は私も知っていた。

有名な陰陽師であり強大な呪術力を持ち、妖怪やその類からだけではなく飢饉や干ばつからも人間を守っていたようだ。

そんな人間のかけた封印が相手が鬼とはいえ解かれてしまうものなのか。

「なあ、おい。どうしたんだよ急に黙り込んで。」

腑に落ちない事を考え込んでいたら、不意に男が話しかけてきた。

「⋯いや⋯何でも⋯。」

「何でもねえって事はねえだろ。急に俺の事を聞いてきたり考え込んだり、おかしいのは俺でも分かるぞ。」

流石に分かりやす過ぎたか⋯。

でもこんな事実、今こいつに伝えるのはまだ早い気がする。

少なくともわたしの中で考えをまとめた後でなければ、話したところで理解も出来ないだろうし⋯。

「⋯⋯⋯。」

何も言えず、黙り込んでしまうわたし。

そんなわたしを気にせず、男は続けてくる。

「俺の事で色々考えてくれてんだろ?だったら共有しようぜ。俺もおま⋯じゃなかった。まつの考えを聞くことで新しく発見があるかも知れねぇだろ?」

「まて、その呼び方は定着させるのか⋯?」

不快以外の何者でもないのだが。

「せっかくお互い名前を知ったのに呼ばないのは勿体ねえだろ。まつも俺の事お前って呼ぶなよ?」

「嫌だ。お前の名など呼ばん。」

「耳引っこ抜くぞ。」

「ひっ⋯!?」

まさかの脅迫。

しかしこの男なら本当にやりかねない。

1回痛い目を見ている分、わたしにはかなり有効な脅し文句と言えた。

咄嗟に耳を折りたたんで両手で守る。

その姿を見て男はクックッと笑っていた。

「そのいつもの感じがまつらしくていいよ。」

⋯わたしらしいとは何だろうか。

怪訝な顔を浮かべるわたしに男がまた問いかける。

「で、何が引っかかってんだ?

その様子だと分かってることもあんだろ?」

「⋯話しても良いが⋯お前が受け止め切れるかどうか⋯。」

「話してみなきゃ分かんねえだろ?そんなの。

そもそも俺の問題をまつ1人に背負わせたくねえんだよ。

どんな事でもいいから、話してみてくれよ。」

真っ直ぐとわたしを見つめる目に嘘はなかった。

わたしの事を想って言っている言葉。

これもまた、初めて向けられた言葉だった。

妙に暖かくて、安心してしまう自分がいる。

今まではこんな事、1度もなかったのに。

「⋯分かった。話す。」

「うし!それでいいんだよ!ありがとな!」

「礼を言われるような事じゃない。

⋯今から話すことは分かっている事というよりは、わたしのただの憶測に過ぎぬ。それを念頭に置いて聞いてくれ。」

「ああ、分かった。」

男が頷くのを見て、わたしは自分の中の仮説を話した。

男を攫ったのは、過去に封印されていた人攫鬼であるかもしれないこと。

その鬼を封印していた安倍晴明が男の先祖かもしれない事。

そして⋯もし仮説が正しいとするならば、鬼がまた、男を狙ってくる可能性が高い事。

人間には理解し難く受け止め難い話のはずなのに、

男は真剣な表情でただ静かにわたしの話を聞いてくれた。

「なるほどなぁ⋯。まあ、まつの考えた通り俺の先祖が安倍晴明っていうのは当たってるな。」

「⋯やはりそうか⋯。」

「ばあちゃん家で耳が痛くなるくらい聞かされてたんだよ。私たちの先祖はすごい人だったんだよ。沢山の人間を救ったんだよってな。」

「あの文献の内容が作り話でない限り、わたしの仮説が正しいと見るのが賢明だな⋯。」

「にしても人攫鬼ねぇ⋯。物騒な名前だな。」

眉間に皺を寄せ、男が呟く。

「で、どうすんだ。戦うのか?その鬼と。」

「馬鹿を言え。人間のお前がまともに戦って勝てるはずが無かろう。」

「俺じゃなくて!あー⋯ほら、まつは神様なんだろ?俺の事をその⋯神様パワーみたいなので守ってくれたりしねぇの?」

「神様ぱわーとは何だ⋯。生憎だが、わたしに戦闘能力など無い。神とはいえ使い神だ。本物の神達と比べたらわたしの力など無いに等しい⋯。神術も神器を通さねば使えぬ程だ。」

「つまり弱いんだなまつは⋯。」

「⋯弱くても神器を通せばお前1人くらいあの世に送ってやれる力はあるぞ?試してみるか?」

「顔怖ぇよ冗談だよ⋯。あー⋯どうすっかなぁ⋯。」

仰向けになり、境内へ寝転ぶ男。

軽く話し合ってはいるが事態は深刻だ。

先ず、鬼がいつこの場所を見つけるかが分からない。

そして、わたし達には鬼に抵抗する力がない。

最後に、ここからこいつを逃がせたとしても、どこかでまた捕まってしまうということだ。

「⋯鬼を何とかしない限りは、お前は助かるまいな。」

「あ〜⋯絶望するから言わないでおいたのに⋯。」

「ただの現実逃避だろうそれは⋯。目を背けたとて事実は変わらぬ。」

「んー⋯。あっ。」

男が何かを閃いたように飛び起きた。

そのままこっちに先程とは違うキラキラした目でわたしの方を見る。

「俺に陰陽師の力が残ってるとかねえか!?

仮にも安倍晴明の子孫だぜ!?」

「ないな。少しでも力が残ってるならば今頃ここから出て外の世界⋯に⋯?」

話しながら、1つ引っかかる事があった。

⋯何故、人攫鬼はピンポイントでこいつを見つけた?

名前など、名乗らなければ分かるものでは無い。

名前が分かるものも身につけてない。

それならば、もしかすると⋯。

ある仮説が浮かび、男に居直る。

「⋯あるかも知れない。お前に陰陽師の力が。」

「さっきねえって言ってたのに!?」

「茶化すな。⋯おかしいとは思わないか。

これだけ人間が住み着く世界で、ピンポイントで安倍晴明の子孫のお前を攫ったのだぞ。」

「あー⋯確かににな⋯。面影があったとか?」

「それに近しいだろうな。わたしが考えるに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでは無いか?」

「⋯なるほどな!!そういう事か!

つまり俺の中に陰陽師の力が!」

「微弱なるも、まだ少し残ってる可能性は高い。」

「⋯っしゃあ!希望が見えた!」

ガッツポーズをしてはしゃぐ男。

希望が見えたと言っても、それは木漏れ日よりも細く、暗く、小さい希望の光だと言うのに。

相反して、まるで解決したとばかりにはしゃぐ男を見て不覚にも可笑しいと思ってしまった。

クスッと笑ってしまったわたしの声を、男は聞き逃さなかった。

「⋯ん?まつ今笑った?」

「わ、笑ってなどおらぬ!」

「いや、笑ったね。絶対。もっかい笑ってみ。俺ここ来てからまつの笑顔見てねえぞ。」

「誰がお前なんかに見せるか!そもそもわたしはあまり笑わぬのだ!」

「なんだそれ⋯てかいつまでお前呼びなんだよ。

いい加減名前で呼んでくれよ。」

「またそれか⋯⋯お前では駄目なのか?」

「なんか、心の距離感じるから嫌だな。」

「わたしとしては距離を感じていたいのだがな?」

ああ言えばこう言うで収拾がつきそうもない。

⋯むしろこれ以上嫌がるのはムキになってると思わせて相手の思うつぼだろうか?

名前などただの呼び名だし、お前でも名前でもこいつを呼ぶという行為には変わりないし⋯。

「⋯⋯⋯⋯⋯あきと。」

「⋯んっ!?」

「⋯⋯だから、お前の事を、これから、あきとって、呼ぶように、すると⋯言っtゴニョゴニョ⋯。」

⋯いざ名前を呼ぶと何故かとても恥ずかしかった。

第一、他の者の名前を呼ぶという行為自体何百年振りの事だ。久しく慣れてない事に顔が熱くなる。

わたしの消え入るような声に、あきとは目を煌めかせ、歯を見せて笑って応えた。

「⋯後半聞き取れなかったけどまあいいか!

改めて、これから宜しくな!まつ!」

「あ、ああ⋯宜しく⋯?」

わたしが宜しくというのは間違えてる気がするなと思いながらも、わたしは火照った顔を隠しながら返答するのが精一杯だった。

たった1日にも満たない時間なのに、この人間に少しだけでも心を許してしまいそうになっている自分が居る。

それだけ今まで出会ってきた人間と、あきとは違っていた。

「⋯少し、くらいなら。良いのかな⋯。」

ぽつり、と声に出したかどうかも定かでは無いわたしの独り言は、幸いにもあきとには聞こえること無く、風に揺れる木々の音にかき消された。

太陽は傾き、木漏れ日が夕焼けの赤に変わっていた。

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