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黄金物語  作者: ちゆき
第一章 襲撃編
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第5話 たんさく

〜あらすじ〜

ちょっと少年とイチャつきまし

「いちゃついてなどおらぬわ!!!!!!!!!」

久しぶりに書斎に来た。

本棚が四方を囲むようにそびえ立っていて元が6畳程と狭いせいもあるがとても窮屈に感じる。

そして本棚の中央には大きな鏡を置いてある。

この鏡は現世を写すための写鏡で、人の世をこの鏡を通して覗き見ることが出来る代物だ。

一種の神器、といったところだろうか。

人間嫌いのわたしには不要な物と思えるかもしれないが、

この鏡を通して見た知識を記録するのに役立てている。

わたしはこの部屋が少し苦手だ。

人間の事を詰め込んだ部屋だからというのもあるが、明かりがあまり入らなく少々不気味だからだ。

足早に本棚に向かい、過去の文献や自分が書き留めておいた記録を漁ってみる。

あの男が体験したのと同じような現象が過去に起きているかもしれない。

ぎっしりと敷き詰められた本の中からそれらしい題名の物を物色していく。

「神隠しについて」、「幽体離脱の体験」、「人間が行方不明になった記録」等⋯⋯色々と見てみたがそれらしい手がかりは見つからなかった。

体感で2、3時間ほど他の本や記録を漁ってみたけどそれらしい物も無い。

「無駄骨だったか⋯⋯ん⋯?」

ふと、正面にある本棚の上を見あげてみると1冊の本が埃を被って置かれてあるのを見つけた。

「こんなところに何故⋯?わたしが置いたのかな⋯。」

無駄に高い本棚の上へ、精一杯背伸びをして手を伸ばす。

幸いにも手前の方に置かれていた本はわたしの手の中に入ってくれた。

「⋯⋯「人攫鬼」⋯⋯?」

初めて聞く単語に首を傾げながら、中を開いて読んでみる。

不思議なことにその本は、わたしが今までに読んだことの無い本だった。

内容はこうである。


──昔、人攫鬼という鬼が地獄の門からやって来ました。

鬼は月に1人、村の人間を攫って肝を食らい、自らの力をどんどんと大きくしていきました。

鬼曰く、人間の肝は鬼にとっては良き栄養物で、若返りや身体能力の向上等と言った効果があるそうです。

村の人間がどんどんと攫われていく中で、ある1人の人間が人攫鬼に立ち向かいました。

凄腕の陰陽師でもある彼の名前は「安倍晴明」と言いました。

安倍晴明は自分が生贄となり、鬼を封じてくると言いました。

そして人間を攫いにくる日落ちの時刻。

安倍晴明は鬼に攫われて行きましたが、途中でその手から逃げる事に成功しました。

その後、力をつけていた鬼に苦戦しましたが、何とか呪術によって鬼を封じ込めることに成功しました。

こうして、人攫鬼の恐怖から解放され、村の平和はまた戻ってきたのでした。───


「⋯まるで御伽噺のような話だが⋯これは⋯。」

わたしは読み終わった本を地面に置き、次の調査へ行く事にした。

書斎を出て境内へと戻り、木に寄りかかって座り昼寝をしていた男を起こす。

「おい、起きろ。いくつかお前に聞きたいことがある。」

「んんぁ⋯?なんだよ急に⋯⋯。」

「いいから起きろ。お前をここから出すために必要な事なのだ。」

「分かった分かった⋯起きるから⋯あぁふ⋯⋯。」

大あくびをしながら男は立ち上がり、コキコキっと首を鳴らした。

「⋯で、何?聞きたいことって。」

「お前、ここに来る前の記憶はあるのか?」

「え?あ〜⋯無いことも無いけど、それが何?」

「教えろ。出来れば記憶が途切れる瞬間辺りのことだ。」

「何だよそんな怖い顔して⋯。えっと⋯そうだな⋯。」

男は少し考えてから、ぽつりぽつりと話し出した。

「直前って言うと⋯学校から帰ってたんだよ。確か。

部活終わりでちょっと暗くなって来てたかな⋯。」

「⋯いつもと何か変わったことはあったか?」

「変わった事?あ〜⋯特になんもなかったような⋯。」

「⋯⋯そうか。」

もしや、と思い期待したが特にあの本は関係がなかったようだ。また振り出しか⋯と落胆していると急に男が「あっ!!」と叫んだ。


「な、なんだ!驚かせるな!」

「いや⋯あったんだ。いつもと違う事が1個。」

「⋯何?」

「学校の裏の山で、爆発事故があったんだよ。たしか昼頃だ。工場みたいなものも入ってないし誰も入らねえ山で爆発事故だから妙だよなって話を友達としてたんだよ。」

「⋯その山は、なぜ誰も入らないのだ?」

「なんだったかなあ⋯なんか大昔に妖怪を封印した洞窟が中腹くらいにあるんだっけ。なんかめっちゃ危ねぇ奴。

ただの言い伝えだと思うけど皆不気味がって近寄らねえんだよ。⋯あれ?そういえば爆発事故の現場も中腹位だったっけ⋯?」



──────もしや、こいつは。

あの文献はある仮説を立てる道標になった。

仮説が正しければこいつは⋯「人攫鬼」に攫われてきたのか。

⋯しかし、なぜ封印が解けている?何故こいつを?

無差別に近くに居た人間を1人選んできたのか?

そしてなぜ、ここにこいつが来た?

攫ったのであれば自らの巣穴に戻るのでは無いのか⋯?

謎が謎を呼び、よく分からなくなってしまった。

だけれどこいつが攫われている最中にここに辿り着いた、という事実は分かった。

「⋯分かった。最後にひとつだけいいか。」

「なんの説明もねえのかお前⋯。」

「いいから答えろ。お前の名は何だ。」

「あ?名前?俺は⋯」

言いかけて、男がピタッと黙った。

「⋯なんだ?思い出せぬとでも言うのか?」


「⋯えねぇ。」

「は?」


「教えねぇ。」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」


何を言ってるんだこいつは、とわたしは上瞼を落としてじとっと睨む。

「何で名乗りもしねえお前に名前を教えなきゃなんねえんだ。不平等だろ。知りたきゃお前も名前を教えろ!」

「な⋯何を子供のような事を言っているのだ!

名前が分かれば分かる事があるかもしれないのだ!」

「のだのだうるせぇ!名前教えなきゃ俺がここから出られなくて一生住み着いてやるぜ?いいんだな?」

「んなっ⋯⋯!?!」

なんと姑息な⋯というか自分の置かれている立場を分かってないのか?

唖然としているわたしになお男が食い下がってくる。

「さぁどうする。一生ここで大嫌いな人間の俺と過ごすか、それとも名前を教えるか、どっちだ!」

「⋯ああ、もう⋯!!こんな事をしている場合では無いというのに⋯!」

得意げにふふんと鼻を鳴らしているこの男の鼻っつらを思い切り殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、名前を知られるより一生こいつと2人きりの方が嫌だ。

何を言っても収拾はつかぬだろうと諦めて、わたしは名乗る事にした。


「⋯わたしは、天津ノ神ノ巫女(あまつのかみのみこ)。かの有名な狐の神、玉藻神の使い神の一人だ。」

「ほー、あまつのかみのみ⋯はぁっ!?かみさま!?」


男は今までで一番と言っていいほど驚きながら上体を少し後ろに逸らした。

「はぁ〜⋯綺麗な奴だなとは思ってたけどまさかかみさまとは⋯。」

「うるさい。いいからさっさとお前も名乗れ。」

イライラと尻尾を揺らつかせてわたしは急かす。

このままだと前のようにこいつのペースになりかねないと思ったからだ。

「まあ待てよ。名乗る前にお前の呼び方決めなきゃ。

えーと何がいいかな⋯⋯。」

「そんなことはどうでもいいだろう!?」

「いや、お前って呼び合うのはいい加減紛らわしいだろ。

第一、神様をお前呼びするのは忍びねえからな。」

「余計な気を遣うな!ああもう⋯なんでこうなる⋯。」

わたしは頭を抱えて座り込んでしまった。

うんうんと唸って考えていた男がふと閃いたのかこちらを見た。

「まつ、だな。長すぎて覚えきれてねえから覚えてる天津の辺りからとって、まつ。」

「⋯省略しすぎではないか⋯?というかせめてそれならば、まつ様と呼べ。呼び捨ては辞めて欲しいのだが⋯。」

「なんか、それは嫌だ。」

「なんなんだお前は!!!!!」

イライラが最高潮に達し地団駄を踏みながら叫ぶ。

「まあまあ、良いじゃねえか。俺の名前だったよな?」

「はぁ⋯⋯。そうだ、お前の名だ。」

ため息をつきながら男に居直る。

次の瞬間、わたしはこの男の名前に戦慄する。

全てが、繋がった瞬間だった。



「俺の名前は、彰人(あきと)

安倍彰人(あべのあきと)だ!」

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