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黄金物語  作者: ちゆき
第一章 襲撃編
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第3話 せいかつ

〜あらすじ〜


突然少女の目の前に現れた少年

少女は何百年振りかの喧嘩をして、何とか彼を神社から追い返し再び日常が戻ってくる

はずだったが───

黒く鉛のような色をした曇天。

春にしては少し肌寒い風を受けてわたしは目を覚ました。

雨が降ったらまた大量に葉っぱが落ちるんだろうなと

明くる日の掃除を少し憂鬱に思いながら身体を起こす。

昨日の出来事から、久しぶりに大声を出して動き回ったせいか、いつもより深く眠ってしまった。

今何時くらいだろうか。

時計がないのはこういう時少し不便だ。

とりあえず頭を覚ますために顔を洗おうと、立ち上がって社の隣にある井戸の方へ顔を向けた時、妙な音が聞こえた。

その音は聞き覚えのある、ざっ、ざっ、といった

何かを掃くような音だった。

「⋯箒の音⋯?」

まだ少し寝惚けてるのだろうか。

この神社にはわたししか居ないのに、箒の音など聞こえてくるわけがない。

少し不気味に思いながら障子を開けてみると

そこには──


「⋯っ?!な、なんでお前がここに!?」

わたしは驚きと恐怖でおもむろに叫んだ。

視界に入ったのは、わたしの箒で境内を掃いている昨日の男だった。

「ん⋯?おお、邪魔してるぞー。」

こちらを振り向き、気の抜けた声で応答する男。

服装は昨日と同じ学生服のままだ。

「お前、わたしの神社で何をしてる!⋯というかどうやってまたここに入った!」

「相変わらず声がでけぇな⋯。

別に、住まわせて貰う代わりに掃除でもしておこうかと思っただけだよ。」

「す、住まわす!?お前を!?」

そんな約束した覚えがない。

勝手にそんなことを約束つけられても困る。

人間をここに住まわす?何かの冗談だろう?

そもそもここには来るなと昨日言ったはずだ。

「お前、昨日わたしは二度とここへ来るなと言ったはずだぞ!!あの後家に帰ったのではなかったのか!?」

「ああ⋯それがな。」

少し目を伏せて、急に真面目な顔になる男。

「⋯帰れねぇんだよ。なんか、分かんねえけど。」

「⋯帰れない、だと?」

「ここを出ようと昨日階段降りてたら、なんか透明な壁みたいなのにぶつかってな。そこから先に進めねぇんだ。」

眉間に皺を寄せながら、男は続ける。

「後⋯言い忘れてたけど俺はここがどこなのかも分かってない。家の近所なのか遠くなのか、それさえもな。ここを出れたとして、帰り道なんて分かるはずもねえ。」

「⋯じゃあ、昨日は自らの意思でここに来た訳ではないというのか?」

「その通りだ。」

わたしは愕然とした。

この男が言っている事に嘘は見えない。

本当に何も分かっていないのだろう。

「昨日気づいたらここにいて、人の気配もなんもなかったから暇つぶしに今みたいに掃除でも、と思って裏んとこの汚ぇ倉庫から箒を借りてたんだよ。そしたらお前が出てきたって訳。」

わたしに指を指しながら男は言う。

何となく、昨日の全ての事に合点がいった。

「わたしからするとお前の方が出てきた側だがな⋯。

箒を盗んだ理由もそういう事か⋯。」

「おい。盗んでねえ。借りてたんだ。」

訂正しようとする男を無視して、考える。

ここがどこなのか。この場所の意味は。

教えてやれる事はある。

けど、わざわざ人間の手助けをする義理もない。

その辺で野垂れ死にしようと別に興味は無い、が

自分の居場所の中で、たとえ人間であろうと何かが死ぬのは少し縁起が悪い。

深くため息をついて、男の方に居直る。

「⋯ここに住まわせろ、と言ったな。」

「ああ、じゃねえと昨日みたいに階段のところで虫にたかられまくるからな。普通に気持ちわりぃ。」

「聞いても無いことを話すな。⋯先にひとつ、言っておく。」

「⋯?なんだよ。」

「わたしは、人間が嫌いだ。出来る事なら視界にも入れたくないし話もしたくはない。」

「⋯そりゃどうも。」

ぶすっとした顔で男が吐き捨てるように言った。

気にも留めずわたしは続ける。

「しかしどうやら追い出せもできないようだ。

⋯自分の居場所で何かが死ぬのは寝覚めが悪い。

たとえお前のような人間でもな。だから⋯」

少しの沈黙。

できるならそうしたくない。何か打開策が無いかと考えてみるも全然思いつかない。

痺れを切らして、男が問う。

「⋯だから、なんだよ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ここに住まわせてやる。」

「マジ!?!ダメ元でも言ってみるもんだな!!!」

言うやいなや男の顔に光が戻る。鬱陶しい。

「ええい、騒ぐな!住まわせてやるが条件がある!」

「なんだよ?ここの掃き掃除か?それくらい毎日やってやるぜ?」

「それも条件の1つだが⋯そうじゃない。よく聞け。」

すぅっと深く息を吸い、真っ直ぐに男の目を見る。

「1つ、私の居る社には入らない事。お前は裏の倉庫に住め。

2つ、さっきも言ったが毎日の境内の掃き掃除。

3つ、道具は元の場所にちゃんと戻せ。

4つ、わたしのことを詮索するな。

5つ」

「おい待て待て!何個あるんだよ!」

「うるさい。最後まで聞け。これで最後だ。

5つ、わたしから話しかけることは無いと思え。

だから、何かがお前に話しかけても無視しろ。

⋯それだけだ。破るとお前は、永遠に元の場所へ帰れない事になるぞ。」

「⋯はぁ⋯?どういう事だよ?」

「⋯お前はここがどこなのかも分からないと言ったな。

掃除の礼に教えてやる。」


木々がざわざわと揺れる。

まるで男の心を写すかのように。

わたしは淡々と、今ある現実を男に告げる。


「⋯ここは、大昔に存在した神社の成れの果て。

分霊が抜け落ち加護は消え、廃れ果て、挙句の果てに生者と死者が混在するようになり、輪廻の狭間へと成り果てた土地。お前に分かるように言うなら⋯生と死の境界にある場所だ。本来生あるものが辿り着ける場所ではない。」


「⋯は、はぁ?どういう⋯事だよ?」

明らかに困惑した表情で男が問う。

「じゃあ⋯俺、死んでんのか?なんで?昨日ここに来るまでは何も無く元気に⋯」

「狼狽えるな。最後まで聞け。

⋯理由は分からないが、お前は死んでない。

生ある者のままここに辿り着いてる。

だが生あるものは死者に呼ばれる。

死者に呼ばれ応えたが最後、お前はあちら側に攫われていくだろう。⋯何、簡単なことだ。呼びかけられても返事をしなければいい。分かったな。」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

わたしの言葉が信じられないのか、現実を受け止められないのか、はたまた両方なのか。

男は虚空を見つめたまま立ち尽くしていた。


しばらく静寂の後、弱々しい声で男が訊いた。

「俺⋯帰れんのかな⋯?」

「⋯さぁな。だが⋯」

⋯利害が一致しているとはいえ、助け舟を出すのは少し癪だな。と思いながら背に腹は変えられない。

「帰る方法は、わたしも探してやる。

人間にここに居られたのではわたしの気が休まらん。

わたしの平穏を取り戻すためにも、お前を元の場所へ帰してやる。案ずるな。」

我ながら甘すぎるなと思う。自分の甘さに程々嫌気がさす。

その言葉を聞いて男は少し安堵したのか、弱々しい笑顔で応えた。


この口約束が、わたしの退屈な日常を波乱万丈に変えていくのだろう。

これから先のことを考えながらやっとの事で井戸へと向かった。

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