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黄金物語  作者: ちゆき
第一章 襲撃編
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第2話 あさがた

〜あらすじ〜

獣道の奥の神社で過ごす獣耳の少女

無くした箒を探すために神社内を散策中

思わぬ形で人間と遭遇する───

「痛ぇな⋯」

茂みから出てきた人間の男は、わたしの蹴った石が

当たったであろう後頭部をさすりながら表情を歪めていた。

「だ⋯誰⋯っ!この神社にどうやって入ったの⋯!」

本当は言葉を交わすのも嫌だし関わりたくもないのだが

恐怖と困惑で自然と言葉が出てしまった。

わたしの声が届くや否や、男は真っ直ぐにこちらを

見てきた。

背丈はわたしより大きい。

少し茶色がかった髪をぴょんぴょんと跳ねさせ

前髪をかきあげたような髪型。

服は⋯学生服だろうか。

男というには少し幼い感じの人間に見える。


「⋯さっき俺に石ぶつけてきたのお前?」

わたしを視界に捉えると男は不機嫌そうに尋ねてきた。

確かにぶつけたのはわたしだけど⋯。

勝手に神社に入ってきてこそこそ隠れてるような人間なんかに謝る気ない。わたしは悪くない。

「だ⋯だったら何。そんな事よりわたしの質問に答えて。」

「あ⋯?」

男の眉間に皺が寄るのが見えた。

「そんな事ってなんだそんな事って。

こちとら怪我してんだぞ。一言謝るかなんかし⋯?」

男の抗議の言葉が終わりかけのところで

目を見開くようにこちらを見てくる。

⋯おおよその理由は分かっているが。


「⋯何。」

目を伏せながら、何度も何度も向けられた事のある視線に嫌悪感を覚えつつ、問う。

「お前⋯なんだ⋯?コスプレじゃねえよな⋯?

人間なのか⋯?」

「⋯どうだっていいでしょ。お前に関係ない。」

苛立ちを含めた強い語調で、吐き捨てるように言った。

どうせ、この男も同じだ。

人間はみんな同じなんだから。

見上げるように睨みつけながら男を見る。

さっさと居なくなれ。もうどう入ってきたかなんて

どうでもいい。この場から立ち去れ。


わたしの言葉に、はぁ⋯とため息をついた男は

先程とは打って変わって、怒りを込めたような目でわたしを見つめてきた。

その目のまま、ただ真っ直ぐ、

わたしの願いとは真逆にわたしに近寄ってくる。

「⋯まあ確かにどうでもいいな。問題は⋯」

「な⋯なにっ⋯?!近寄ってこな⋯ぎゃ!?!」



耳を掴まれた。なんで?



「お前が石を俺にぶつけたかどうかだよ。

痛かったんだけど。なぁ。聞こえますかぁ?」

「痛い痛い痛い痛い!!!ひっぱるな!!!やめろ!!

離せ!!!やめろおお!!!!」

「うるせぇ。俺も痛かったんだよ。謝れ。

怪我させた相手に謝るのは礼儀だぞ。」

「なんでお前なんかに詫びなきゃいけなあああああ!!

ひっぱるな!!ひっぱるな!!とれる!!いたい!!

やめろおおおおぉ!!!!」

わたしの抗議も虚しく、手は離れない。

逆にこの男に礼儀などは存在しないのだろうか。

初対面の者の耳を掴んでくる奴に礼儀を語られるとは。

じたばたと両手足を振り回して暴れていると

ようやく耳から手が離れた。

「一言謝ったらこんなことしねぇのに⋯頑固だなお前。」

また1つ、ため息をつきながら男は言った。

「う、うるさい!いきなり耳を掴みあげるお前こそ無礼者だろうが!第一わたしがなぜ人間なんかに詫びなければならなああああああああ!いたい!!いたい!!!」

わたしが言い終わるより早く、また耳を掴みあげてきた。

本当に痛い。取れるかもしれない。

「ごめんな、ごめんなさい!!!いたい!!!

石ぶつけてごめんなさい!!!!!」

痛みに耐えかねてつい謝罪してしまった。

その言葉を聞き、ようやく耳から手が離れる。

「よし。許す。」

ニヤニヤと笑いながら、見下すような目を向けてくる。

痛い。本当に取れてしまうかと思った。

思わず泣きそうになりながら耳をさすってしまう。

わたしに奇異の目や嫌悪の目を向けてくる輩はごまんといたが、こんな屈辱を味あわせてくる奴には出会った事が無い。

こんな人間は過去には居なかった。

なんなんだ、こいつは⋯。

涙目ながらに、男を睨みつけようと目を向けたその瞬間。

さっきは気づかなかったけど、男の足元に箒が落ちてあるのが見えた。

「そ、その箒⋯っ!返せ!それはわたしのだ!」

痛みが残った耳をさすりながら、少し怯えながらも叫ぶ。

「あ?あ⋯この箒お前のなのか。それは悪かったな。

ちょっと借りてた。」

本当に悪いと思っているのか定かではないが

箒を拾い上げながらぶっきらぼうに男は答えた。

「盗んだの間違いではないか!返せ!」

なお叫ぶわたしに苦笑いを浮かべながら男が

箒を差し出してきた。

「悪かったって⋯。ほら。」

また耳を掴まれるか、次は尻尾か⋯?と警戒しつつ

恐る恐る箒を手に取る。

そんな警戒も杞憂に終わり、普通に男は箒を返してくれた。

大事な掃除道具がようやく戻ってきた。



「なぁ、お前⋯ここに住んでるのか?」

両手で大事に箒を掴むわたしに、男が問いかける。

「⋯何度も言うがお前には関係ない。

ここで見た事は全て忘れて自分の居場所に帰れ。」

今度こそ、睨みつけながら答える。

憎悪と嫌悪が詰まったその目に男は一瞬眉をひそめるが、

何を問うわけでもなく背を向けた。

「⋯ま、いいけど。箒盗って悪かったな。」

手を挙げながら、境内を歩いていく男。

やがて鳥居をくぐり、その姿は見えなくなった。


「⋯なんだったんだ、あいつは⋯。」

500余年振りの人間との再会。

その再会はわたしの人間への想いを幾らも変える事無く

ただの一幕のように終わった。

ただ、1つ。

以前と違うことと言えば。

「⋯まだ耳痛い⋯。絶対許さない⋯。」

じんじんと痛む両耳に不快感を覚えつつ。

いつか絶対呪ってやると心に決めた。


少し水分を含んだ竹箒が

ぴしっと音を立てて鳴った。

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