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黄金物語  作者: ちゆき
第一章 襲撃編
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第1話 はるのひ

山の中にある舗装された道路から外れた

獣道を奥深くに進んだ先に

古びた、しかしどこか奥ゆかしさを感じる神社がぽつんと建っている。


生暖かい空気と木の合間を縫って降る木漏れ日の光。

囁くような雀の声に反応するように耳をぴくんと

動かして、神社の縁側で寝ていたわたしはむくりと上半身を上げた。

見た目は少女、だが人間のそれとは違う。

大きな獣耳と、大人用の抱き枕程に見える

大きなしっぽが腰から伸びている。

狐のような様相だが、狐では無い。

誰も少女が何者かを知る由もない。

神社には、もう参拝客は1人も来やしないから。


木漏れ日に目を細めながら、閑散とした境内を

ゆっくりと見渡す。

「⋯変わらないな、本当に。」

木の上で歌う雀たち。

風に揺れてアンコールを送る木々たち。

雀を照らす木漏れ日のスポットライト。

500余年、この季節には毎度見慣れた景色。

いつもと変わらない日常に、安堵のようなそうでも無いような複雑な気持ちを抱えつつ

とりあえず着替えるために中に入る。

桐で出来たタンスをごそごそと漁り

少しよれた黄金色の巫女服に袖を通す。

500余年、いつもと同じルーティン。

退屈な、毎日。

刺激が欲しいとか、そんな訳じゃない。

非日常を味わいたい訳でもない。

ただ、この退屈から逃れたい。

そんなことを思いながら境内に再び舞い戻る。


雀の合唱は終わったようで

カサカサと風に揺れる木々が拍手をしてた。

「そんなに揺れたらまた葉っぱが散らかるじゃん⋯

誰が掃除すると思ってんの。」

毎日掃いても掃いてもきりがない。

無限に葉っぱは落ちてくる。

掃除してるわたしをおちょくるかのように

こいつらは毎日毎朝大量の葉っぱを落としてくる。

「ほんと⋯人間みたいに陰湿。」

眉間に皺を寄せながら、ぽつりと呟く。

木々はそんな私を見て笑うかのように

また葉っぱを1つ落とした。


愚痴っていても仕方ないからとりあえず箒を取りに裏手の倉庫の方に向かった。

この神社、廃れてる割には色んな道具が置いてあって

割と生活には重宝してる。

人間の置いていった物と考えると少し使うのは嫌な気もするが新たに道具を手に入れる術もないので我慢してる。

錆びて重くなった引き戸を

ギシギシと揺らしながら開けた。

「⋯あれ?」

箒がない。

昨日確かに開けたすぐそばの壁に立てかけておいたはずなんだけど。

立てかけてあった場所には何も無く新しく上から降った埃がちらちらと積もってた。

盗られた?箒を?なぜ?

⋯というか、一体、誰が?

500余年ここに居続けているが

物が消えたのは初めての事だった。

「⋯いやいや⋯確かに退屈なのは嫌だと思ってたけど⋯」

いざいつもと違う何かが起きると怖くなるのは何かの心理なのだろうか。

とりあえず箒のことは置いておいて、誰かがこの近くに来た形跡を調べることにした。

とりあえず、倉庫の周りをぐるっと回ってみる。

だが、最近晴れの日が続いたせいか地面は乾いており

降り積もった葉っぱのせいで足跡らしきものは見つからなかった。倉庫周りの掃除をしていなかった事を後悔しそうになった時、ふと地面の葉っぱに気になることを見つけた。

「⋯葉っぱが割れてる。」

不自然に割れた葉っぱたち。

自然に割れたような感じではない。

間違いない。誰かがここを通ってる。

でも一体どこから来たのだろう。

境内から来たのであれば騒ぎ立てる鳥たちの音や

足音ですぐ気づくはずだ。

かと言って倉庫から裏はとても何かが通れる道は無い。

ましてや、人間なんかには絶対に無理だ。

獣⋯という訳でも無い。

獣は箒を盗ったりしない。

行き着く答えは自ずと人間が来た、ということに⋯。

謎が深まるばかりで頭がぐるぐるしながら

とりあえず境内に戻る事にした。

パキパキと小粋な音を奏でつつ

分からない答えに苛々して尻尾がゆらゆらと動く。

境内の方に戻ってくるまでに割れた葉っぱはなかった。

という事はつまり⋯。

「裏手から⋯?どうやってあんなところ⋯

というかなんで箒泥棒⋯?」

どんどんと深まっていく謎に限界が来て

考えを投げ飛ばすが如くちょうどいい小石を蹴飛ばした。

ガサッと茂みの中に小石が吸い込まれたと思った瞬間。

コッ

「って!!」

⋯信じられない音が耳を襲った。

何かに当たった。石が。

わたし以外に、誰も居ないはずの境内で。

有り得ない。有り得るはずがない。

「っ⋯誰!」

恐怖と困惑で震えそうになる喉を何とか抑えて

わたしは茂みへと叫んだ。

ガサッと茂みが動く。

茂みの中から動く何かに身構えると共に

全身の毛が逆立つのを感じた。

見た事はある。

聞いた事もある。

関わった事も、無いことは無い。

消したい記憶を呼び戻されるような不快感。

嫌悪感。憎悪。

あらゆる負の感情が一気に駆け巡るのが分かった。


茂みから立ち上がった「それ」は

人間の男だった。

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