第13話 てんかい
〜あらすじ〜
神界という神々の世界に助けを求めるまつ。
対応してくれたのはまつの昔からの知り合いのようで、なんとか目当ての神に取り次いでもらえる約束が出来た。
その瞬間、声の主が急に2人の前に現れて───
長い黒髪、黒い耳やしっぽ、黒い巫女服を身に纏う少女。
少女と言うが身の丈は170cmを超える程に高い。
そして服や髪の色に相反して肌の色は透き通るような肌色をしている。
大きな八重歯を見せて笑う彼女は積まれていた本から飛び降りるとわたしの方に近づいてきた。
「⋯変わってないな、貴様は。見た目も性格も。」
「そりゃこっちのセリフだな。相変わらずちっちぇえ体してんな虎珀。」
そういうと彼女はわたしの頭に手を置いてわしわしと撫でた。
「なっ⋯余計なお世話だ!!貴様が大きすぎるだけだろう!後、旧名で呼ぶな!!」
「まぁまぁ、そう怒んなって。久しぶりに会ったんだからよ。」
わたしの抗議も虚しく撫でられ続ける。
暖かい手とにっと笑った笑顔に少し安心感を覚えた。
昔懐かしい感覚。当時はよく撫でられていた気がする。
彼女は少しの間わたしを撫で回していたが満足したようで、わたしの頭から手が離れた。
「いやぁ〜懐かしいなぁ!もう会えるとは思ってなかったんだけどな!」
「まあ⋯そうだな。わたしも、もう一度会えるとは思ってなかった。⋯すまぬ、昔話もしたいのだが先ずは⋯。」
「ああ、分かってんよ。でもその前に⋯。」
彼女の顔から笑顔が消えた。
鋭い眼光であきとの方を睨み、殺気の籠った声で問いかける。
「⋯なんで人間が居やがんだ?ここには入れねぇ筈だろ?」
「ま、待ってくれ!あいつは今回の件で」
「虎珀には訊いてねぇよ。お前に聞いてんだ、男。
口くらいあんだろ?喋れねぇのか?」
急に明らかな敵意を向けられ、戸惑っている様子のあきとだったが、なんとか彼女に向き直って言葉を紡いだ。
「⋯俺は、人攫鬼に攫われて、ここに閉じ込められた人間だ。まつには、命を助けて貰った。」
「あ?鬼に閉じ込められた?⋯そのまつって誰の事だよ。」
「まつはまつだよ。そこに居るだろ。」
「⋯虎珀の事言ってんのか?随分と馴れ馴れしいな、人間。自分の立場分かってんのか?」
鋭く睨みながら低い声で威嚇をし、彼女はあきとに近づいていきなり胸倉を掴みあげた。
「ぐっ⋯!?!」
「⋯虎珀の過去は知ってんのかお前。」
「な、にを⋯!!!」
「⋯知ってんだな。知ってて虎珀に近づいてんのか。」
わたしはあきとに向けられている彼女の殺気に耐えられなくなり、あきとの胸倉を掴み上げている腕にしがみついた。
「やめろ!!!手を離せ!!!こいつの言う通り、わたしがこいつの事を助けたんだ!!」
「⋯虎珀、お前過去の事忘れてる訳じゃねえだろ。何で人間を助けんだ。」
じろり、と彼女の目がこちらを向いた。
変わらず、手には力が入ったままだ。
「⋯それも全部追って話すから⋯頼む、手を離してくれ⋯!」
「⋯チッ。泣きそうな顔してんじゃねえよ。」
そう言うと彼女はやっとの事で手を離してくれた。
げほげほっとあきとが咳き込み、その場で蹲ってしまった。
「大丈夫か⋯?!ゆっくり息をしろ、あきと⋯。」
蹲ったあきとの背中をさすり、息を整えさせる。
幸いにも咳は直ぐに収まり、あきとがゆっくりと身体を起こした。
「はぁ、はぁ⋯。いきなり何なんだよテメェ⋯!」
睨みつけるように視線を彼女にやるあきと。
その目を見てまた一段と彼女の目が鋭くなった。
「あぁ⋯?」
「初対面でアブねぇ事しやがって⋯!お前は誰なんだよ!」
「⋯威勢がいいな、人間。⋯ウチの事は虎珀から聞け。自己紹介が面倒臭い。」
はぁ、とため息をつき、どかっとあぐらをかいて彼女は座ってしまった。
わたしに全部丸投げしたな、こいつ⋯。
わたしはまだ彼女に敵意を抱いてるであろうあきとの前に居直り、彼女の説明をする。
「⋯彼女は神界における伝令通信社の最上位の神。神界から出ていく通信、及び伝令、そして他界から入ってくる通信、伝令を全て管理している神だ。名を《月詠大神》と言ってな。わたしはヨミと呼んでる。が⋯まあ、あきとは呼ばない方がいいな。」
「へぇ⋯名前も仰々しいけどその役職みたいなのは何なんだ?すげぇのか?」
「まあ見ての通り荒っぽい奴だけど⋯かなりの上級神だよ。」
「あー⋯つまり、神様の世界のお偉いさんってこと?」
「まあ、端的に言うとそうなるな。権限もかなり持ってる。」
「⋯虎珀に比べたら大した事ねえけどな。」
ゆっくりと腰を上げ、話を聞いていたヨミがこちらに近づく。
「虎珀が自ら助けた人間ってのが信じられねぇが⋯どうやら事の中心はお前にあるみたいだな。安倍晴明の子孫。」
「⋯!?知ってたのか⋯!?」
「中見りゃ分かる。辛うじてお前に残ってる陰陽師としての力も安倍晴明のもんだしな。」
そういうと、ヨミは次にこちらを見てわたしに問うてきた。
「⋯助けんのか。」
「⋯ああ。約束したからな。」
ヨミの問いに、わたしは力強く返事をした。
ふっとヨミが笑って、次はまたあきとの方に向き直った。
「⋯虎珀に免じてお前を鬼から守るのを手伝ってやる。
感謝しろよクソガキ。」
「言い方が腹立つな⋯。⋯でも、まあ⋯ありがとうな。」
「素直に礼が言えるのは褒めてやるぜ。そんじゃまあ、2人ともこっち来いよ。」
ヨミが背を向けて書斎から出ていった。
少し遅れて書斎から出ると、ヨミは境内の方に歩いていっていた。
2人で追いかけて、境内でヨミに追いつく。
「⋯人間、特別にお前も連れてってやるよ。ウチらの世界にな。」
「⋯え?それって⋯。」
あきとの呟きはヨミには届かず、ヨミが腕を縦に振り下ろすと、そこにあった空間が裂け、眩い光に包まれた。
眩しさに思わず目を瞑ってしまいそうになる。
光が徐々に収まり、気づくと空間の裂け目は過去に見た懐かしい場所に繋がった。
「⋯神界には久しく入るな。何事もなければいいのだが⋯。」
「まあ大丈夫だろ。今の下級神達は虎珀の事あんま知らねぇしよ。」
「寂しい話だがな⋯。⋯さて、行くぞあきと。」
「お、おお。そんなあっさり行くんだな⋯。」
突然の事に戸惑ってるあきとを尻目に、ヨミが最初に亀裂を潜り、次いでわたしがあきとの手を引いて潜った。
繋がっていた場所は、神界の少し奥にある宮殿の目の前。
玉藻大神様の像と数多の狐の像が織り成す主道の入口。
わたしがよく出入りしていた、守護塔の目の前だった。




