第11話 かみさま
〜あらすじ〜
月夜の下で語らい、まつの気持ちをきいたあきと。
信じてるという言葉を向けられ、まつはまた僅かに心を開いたかのように見えた。
そして夜が開け、1ヶ月後に封印が解かれる鬼に対抗するべく2人の壮絶な1ヶ月が幕を開ける───
部屋に差し込んでくる陽の光に照らされて、眩しさに目をしょぼくれさせながらわたしは目覚めた。
今日は昨日に比べて特に天気がいいらしい。
毎朝のように合唱を繰り広げている雀たちも心無しか意気揚々としているような気がする。
昨日あの後、身体を清めたのちに社に戻ってまたすぐ眠ってしまったらしい。
その時には、あきとはもう自分の寝床(物置)に帰っていたようだった。
「⋯平和な朝だな。これも、あと1ヶ月⋯。」
鬼と再び対峙する日への期限を再確認して、自らを奮い立たせる。
昨日、信じてると言ってくれたあきとの為にも。
わたしが裏切る訳にはいかない。
書斎へ向かおうと身体を起こそうとしたその時、右手にむにゅっとした感覚を覚えた。
「ひっ⋯!?」
恐る恐る隣に目をやると⋯そこには。
わたしの手に踏まれて呻き声を出しながら眠るあきとがいた。
「⋯きゃああああああああ!?!?!」
わたしの叫び声に身体を跳ねさせてあきとが飛び起きた。
「んごぁっ!?な、なんだ!?どうした!?!」
「どうしたじゃない馬鹿者!!!何でわたしの寝床に居るんだ!!さてはわたしに夜這いを!?この助平!!」
「まてまてまてまて!!!違う!そうじゃなくて!」
「早くわたしの布団から出ていけぇ!!!!」
「ぐほぁ!?!?!」
思い切り腹を蹴り飛ばすとごろごろとあきとは転がって行った。
ふーっふーっと息を荒らげながら睨みつけるわたしに怯えた様子も無くあきとはこちらに向き直ってきた。
「おま、手加減ってもん知らねぇのか!?!人間はあんな力で腹蹴られると危ねぇんだぞ!?!」
「馬鹿力みたいにいうな!!!そもそもお前が悪いだろう!!」
「物置が寒かったから布団が欲しくてお前の布団借りてただけだろ!?」
「わたしの横で寝る必要性はないだろう!?!というかそれならば起こして言え!!!布団くらい出してやったのに!!!」
「いや⋯ヨダレ垂らして気持ちよさそうに寝てたからなんか起こすのも申し訳ながぁ!?!?!」
わたしの恥ずかしい事実を忘れさせてやるために思い切り頭を殴ってみた。
流石に痛かったのか頭を押えて蹲るあきと。
「⋯あきと、女の布団には、勝手に入ってはならぬのだ。寝顔も覗き込んではいけない。その辺の常識から教えてやろうか?」
「⋯スミマセンデシタ⋯。」
にっこりと、口元だけで笑って問いかけると流石に怯えたあきとが謝罪してきた。
「そもそも!社に立ち入るなと言ったであろうが!
なぜお前はこうも条件を破っていくのだ⋯。はぁ⋯。」
「ああ、そんなのあったな。忘れてた。」
「しこたま殴れば思い出すか?」
「すみません思い出しましたちゃんと」
にっこりと拳を見せるわたしに土下座で応える。
朝からの一悶着に疲れ、深くため息をつきながらわたしは社を出る。
「おい、どこ行くんだよ。」
まあ当然、こいつも着いてくる訳だが。
「書斎だ。少し試してみる事があるのでな。」
「あー⋯。いや、それはいいんだけど⋯。」
珍しく歯切れが悪い。明らかにわたしから目を逸らしている。
頭にはてなマークを浮かべ怪訝そうな顔をしているわたしを指差し、あきとが言う。
「⋯その格好でうろつかれるのは、ちょっと⋯。」
「は⋯? ⋯⋯⋯⋯⋯っ!?!?!」
自分の格好を再確認して固まった。
わたしが今着ていたのは長襦袢1枚。しかも下着のようなものだから透けそうなくらい生地が薄い。
両手で身体を抱きしめるようにして隠し、恥ずかしさでいても立っても居られずどたどたと社に戻った。
「や⋯やってしまった⋯。」
恥ずかしい気持ちでいっぱいになり火照る顔を静めながら
箪笥の中にしまっている巫女服に袖を通す。
焦っているからなのかいつもより尻尾を抜くのに手間取ってしまった。
先程とは対照的に社から静かに出て、襖の横で待っていたあきとに問う。
「⋯お前は何も見なかった。いいな?」
「⋯はい⋯。」
覚えていたらコロスと殺意の感情を携えて、睨みつけるような目を添えてやる。
あきとは何も見ていないことにしてくれるようだ。
「⋯最後のは、俺悪くねぇだろ⋯。」
微かに呟く声が聞こえた気がしたが、わたしは聞こえてない振りをした。
一連の騒動も終わり、2人も落ち着いた所で気を取り直して書斎の方へ足を向ける。
すたすたと歩くわたしの後ろにあきとが続いてくる。
「⋯つっても、書斎なんかで何すんだ?過去の本でも読んで対処法探すのか?」
「いや、そうでは無い。まあ、出来ることなら使いたくなかった手段だが⋯こういうのは専門的な奴に聴くのが早い。」
「⋯陰陽師に知り合いでもいんの?てかまつは人間と連絡取れんのか?」
怪訝な顔をして尋ねるあきと。
それを窘めるようにしてわたしは続ける。
「最後まで聞け。連絡はしてみるが人間では無い。
そもそも人間などに頼りはせぬ。」
「⋯じゃあ誰だよ?」
答えが分からず眉間に皺を寄せるあきとに、ふふんと得意気に鼻を鳴らして応える。
「そうだな、お前たち人間の言うところで⋯かみさまと言ったところかな?」




