99 転生特典
杖神様は、明らかに強力な魔法の力を帯びている。魔法使いではない者たちでさえ、畏怖の念を呼び起こされる程だった。開祖の杖は、単なる魔法の触媒ではないのである。
(エンツォ、そんなに強い魔法を宿している杖を触って大丈夫なの?)
(ああ、大丈夫みたいだ。少し酔うけど、継承式の日程じゃない)
(無理はしないでね?)
(無理はしてない)
(家訓は杖神様の魂に呼びかけて、力を借りる詠唱だと思ってたわ。杖神様を遣い手の元に呼び寄せる呪文だったなんて知らなかったの。ごめんなさい)
(謝ることなんかないよ。おかげでこうして、僕が当主だってことをみんなに認めて貰えたからね)
開祖の道具を遣えること。それは魔法使い一族であるならば、どこでも同じ統率者の条件なのだ。魔法は強大で危険な側面がある力だ。長は、少なくとも自分の一族が引き起こす範囲だけでも、魔法に関するトラブルを全て完璧に鎮静化できなければならない。
ベルシエラが習った知識によると開祖の道具もあくまでも媒体だ。莫大な魔法を注ぎ込んでも壊れる事なく、望んだ魔法を具現化出来る道具に過ぎない。
けれどもセルバンテスの杖神様は違った。それ自身に無尽蔵の魔法が宿っている。ついでに開祖の幽霊も住んでいる。
「おや。そこなる女は我が姿が見えておるな?」
(えっ、ベルシエラ?杖神様が見えるの?僕でさえ声が聞こえるだけなのに)
(あはは、そうみたいねぇ)
一度幽霊になって二回転生したからなのか、今回のベルシエラには幽霊が見える。転生に関わった先代夫人だけではなく、ご先祖様まで見えてしまった。
「ところで子孫よ。そちらの者どもは何故本家の家紋と家訓を帯びているのだ?」
(エンリケ叔父様は、僕が病弱だから当主代理をお引き受け下さいました)
「代理が当主の家紋を?」
当主の家紋は、本家の中でも特別だ。他の家紋は、ギラソルの花びらが黄色一色である。しかし当主の花びらにはグラデーションがかかっているのだ。
(王宮や他の貴族たちに、セルバンテス家が侮られないようにとのご配慮なのです)
「継承儀式もしていない輩に乗っ取られていることを宣伝して歩いているようにしか見えないが?侮られないようにだと?」
杖神様はお冠である。ヴィセンテは必死でエンリケ叔父を庇う。
(乗っ取られているだなんて、とんでもない)
「おい、そこなる者」
(はい?私?私ですか?)
「そうだ。この愚か者に、不届き者どもを成敗するよう口添えせよ」
(なんでベルシエラに取り継がせるんです?僕にだって聞こえてますよ)
「貴様は事態を理解していないからだ」
杖神様はオーロラの漂う灰青の瞳で、不甲斐なく病弱な子孫を見た。ヴィセンテには見えていないのだが。
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続きます