96 セルバンテスという名前
ところが、それからしばらく渡来人たちと過ごすうちに、魔物ハントのノウハウができてきた。剣や弓を使う渡来人たちと魔法使いは、連携して魔物の数を減らしていったのだ。
「来るぞ!魔法を!」
「よし!」
炎や氷を飛ばす魔法使いの攻撃に、魔物の群れが撹乱される。
「弓!放て!」
弓が放たれ、投石が飛ぶ。僅かながら魔物は倒れる。
「援護を!」
倒れた魔物は確実にとどめを刺し、襲いくる生き残りは焼き払ったり凍らせたりする。魔法使いたちの援護を受けて、剣や槍が突進する。
「退け!魔法!」
近接隊が駆け戻ると、再び魔法使いがとどめを刺す。
「今日はここまで!戻るぞ」
レオヴィヒルドは大勢を見る才能があった。皆の疲れを正確に観察し、士気を維持するタイミングで退却する。
ある晩、レウヴァとレオヴィヒルドは氷の洞窟で酒を酌み交わしていた。
「なあ、レオよ」
「なんだ、レウヴァ」
「いつかお主が夢見ていたオウコクとやら、出来るかも知れぬな」
「そうであろ?そうであろう!」
「ククク、お主は大した男よのう」
「嬉しいことを言ってくれるな!これより後はエルグランデと名乗らせて貰おうか!」
「ククク、偉大なる者か!いやはや、たいそうな自信だな!」
ふたりは友となり親友となり義兄弟となった。やがて本当に国が興り、レオヴィヒルドは王となる。王国の名は友情を記念してエルグランデとした。
レウヴァたちの住む地域は、黄色い花の名前からギラソルと呼ばれるようになった。レオヴィヒルドたちは森を越えた地に城を構えた。その建物はこちらの大陸で見たことがないものだった。
「レオよ」
「なんだ」
「この城とやら、かっこいいなあ」
「お主も建ててみるか?」
「そうだな。しかし洞窟を離れるのは嫌だな。あの山の頂上にでも建ててみるか」
「おお、それは良い、是非そうしろ」
こうして築城された城が、今日ヴィセンテ達が住むカステリャ・デル・ソル・ドラド、即ち黄金の太陽城である。
城のお披露目の時、王から贈られたのが淑女の僕という苗字だ。太陽の大地に住む月の民に何故そのような姓を贈ったのか。
「チャラ男だと?ふざけた名前をよこしおって」
「レウヴァほどの男がモテない訳はないからな!」
「ちょっと?」
レウヴァの美しい恋人が、銀色の眉を怒らせて割って入る。
「ははは!ご内儀。わが兄弟を射止めるとは、たいした手腕だ!」
「ククク、調子の良い奴だ」
「ははは!まあ、呑め!」
眼下の草原には、目が痛いほどの黄色いギラソルが一面に咲き誇っていた。
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