表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第五章 太陽の大地と魔法の民
94/247

94 エルグランデ王国の礎

 一面に広がる黄色い花の中では、どちらに進んでいるのか分からなくなる。濃くなり出した霧の中へと、杖の男は炎を放つ。掲げた杖の先から炎が吹き出す度に、魔物の断末魔が聞こえた。


「なんだ、炎を出したぞ」

「貴様、霧の魔物か」

「慌てるな。渡来人。我らは魔法と呼んでいる。祖先が魔物から偶然に得た力だが、我らはこの地の人間だ」

「信じられるか」

「話は後だ。囲まれるぞ」

「ちっ、今は霧を抜けるのが先だ」



 一行は太陽を追う花に助けられて、霧が広野を覆いつくす前に魔物の群から逃げ出した。


「この花、ギラソルと言ったか」

「そうだ」

「我らは仮にヒラソルと呼んでいたぞ。太陽(ソル)へと回る(ヒラール)花と言う意味だ」


 杖の男は驚いた。


「海を越えて来たというのに、似ている言葉はあるものなのだな」

「意味は少し違うがな」

「我らは違うが似ているな」

「貴様、やはり魔物なのか?」


 警戒する宝石ベルトの男を、金髪の男は笑い飛ばす。


「ククク、魔物ではないぞ。だが、渡来人には魔物の毒を克服した者は現れていないからな。疑われるのも無理はない」

「毒を克服すれば魔物の力を得られるのか?」

「克服すれば、な。渡来人は今のところ皆命を落としたようだぞ」


 渡来人の一団が息を呑む。



「ううむ。試してみたい気もするが」

「やめとけ、やめとけ。危ないだけだ」


 杖の男に止められて、一行は魔物の毒を試すのをやめた。この土地に生まれ育った人間たちとは体質が違うのだろう、と諦めたのだ。


「時に、お(ぬし)の仲間は何処におるのだ」

「あの山の禿げてるとこ、見えるだろ?」

「あんな所に?」

「まあな。あんたたちも来てみるかい?歓迎するぞ」


 朗らかに招待した杖の男が、急に表情を引き締めた。


「伏せろ!」


 その声と共に、周囲の木陰からガサガサという音が聞こえた。倒木や地面に腰を下ろしていた渡来人たちは、弾けるように身体を伏せた。



 原住民の男の杖が再び火を吹いた。


「おいっ、森の中で火は」

「なに、魔法の火だから心配するな」

「火事にはならないのか?」


 森の中から紫色の棘が降ってきた。男は杖を左右に振って、毒の棘を焼き払う。


「合図したら走れ!道は火の玉が案内する!」


 渡来人たちには対抗手段がなかったので、素直に従うことにした。魔法を使う男が、杖の先からポンッと音を立てて小さな火球を生み出した。火球はふわふわと飛んでゆく。それなりのスピードがあった。


「行け!」


 宝石ベルトの男を先頭にして、渡来人は森へと走る。杖の男は殿(しんがり)につく。紫色の棘を焼き払い、ガサガサという音に向かって蛇のようにうねる炎を飛ばす。


 宝石ベルトの男と仲間たちは斜面も軽々登って行った。


「渡来人にしては身軽じゃないか」

「海の向こうじゃ山ん中に住んでたんでね」


 走りながら、話をする余裕まであった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ