94 エルグランデ王国の礎
一面に広がる黄色い花の中では、どちらに進んでいるのか分からなくなる。濃くなり出した霧の中へと、杖の男は炎を放つ。掲げた杖の先から炎が吹き出す度に、魔物の断末魔が聞こえた。
「なんだ、炎を出したぞ」
「貴様、霧の魔物か」
「慌てるな。渡来人。我らは魔法と呼んでいる。祖先が魔物から偶然に得た力だが、我らはこの地の人間だ」
「信じられるか」
「話は後だ。囲まれるぞ」
「ちっ、今は霧を抜けるのが先だ」
一行は太陽を追う花に助けられて、霧が広野を覆いつくす前に魔物の群から逃げ出した。
「この花、ギラソルと言ったか」
「そうだ」
「我らは仮にヒラソルと呼んでいたぞ。太陽へと回る花と言う意味だ」
杖の男は驚いた。
「海を越えて来たというのに、似ている言葉はあるものなのだな」
「意味は少し違うがな」
「我らは違うが似ているな」
「貴様、やはり魔物なのか?」
警戒する宝石ベルトの男を、金髪の男は笑い飛ばす。
「ククク、魔物ではないぞ。だが、渡来人には魔物の毒を克服した者は現れていないからな。疑われるのも無理はない」
「毒を克服すれば魔物の力を得られるのか?」
「克服すれば、な。渡来人は今のところ皆命を落としたようだぞ」
渡来人の一団が息を呑む。
「ううむ。試してみたい気もするが」
「やめとけ、やめとけ。危ないだけだ」
杖の男に止められて、一行は魔物の毒を試すのをやめた。この土地に生まれ育った人間たちとは体質が違うのだろう、と諦めたのだ。
「時に、お主の仲間は何処におるのだ」
「あの山の禿げてるとこ、見えるだろ?」
「あんな所に?」
「まあな。あんたたちも来てみるかい?歓迎するぞ」
朗らかに招待した杖の男が、急に表情を引き締めた。
「伏せろ!」
その声と共に、周囲の木陰からガサガサという音が聞こえた。倒木や地面に腰を下ろしていた渡来人たちは、弾けるように身体を伏せた。
原住民の男の杖が再び火を吹いた。
「おいっ、森の中で火は」
「なに、魔法の火だから心配するな」
「火事にはならないのか?」
森の中から紫色の棘が降ってきた。男は杖を左右に振って、毒の棘を焼き払う。
「合図したら走れ!道は火の玉が案内する!」
渡来人たちには対抗手段がなかったので、素直に従うことにした。魔法を使う男が、杖の先からポンッと音を立てて小さな火球を生み出した。火球はふわふわと飛んでゆく。それなりのスピードがあった。
「行け!」
宝石ベルトの男を先頭にして、渡来人は森へと走る。杖の男は殿につく。紫色の棘を焼き払い、ガサガサという音に向かって蛇のようにうねる炎を飛ばす。
宝石ベルトの男と仲間たちは斜面も軽々登って行った。
「渡来人にしては身軽じゃないか」
「海の向こうじゃ山ん中に住んでたんでね」
走りながら、話をする余裕まであった。
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続きます