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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第一章 魔法を使える夢を見た
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9 この夢には場面転換が無い

 魔法を師匠無しで使えるようになるのは、稀代の天才であるようだ。ただベルシエラは、美空が知らない期間に誰かから習ったかも知れない。


(まあ、夢だし。分かんないけど、大丈夫でしょ)


 呑気なベルシエラと違って、森番一家は色めきたった。


「えっ、王宮」


 アレックスは絶句した。ディエゴはヒュッと息を呑んで動きを止めた。サラは腰を抜かして倒れそうになり、アレックスに支えられた。


「その実力なら、名前を賜るほどの魔法使いになれるかも知れないぞ」


 隊長はほくほく顔である。少し息さえ弾んでいた。


「よきかな、よきかな」


 厳つい顔立ちに風格を添えるカイゼル髭を捻り上げ、隊長はウンウンとひとり満足気だ。


「カッレとゲルダもなかなかだったが、ベルシエラほどの才能が森で眠っていたとはな」


 どうやらこの御仁、逸材をスカウトすることが生き甲斐であるらしい。


「して、返答は?」



 もうすぐ森に夜が来る。いくら魔法の灯りがあるとは言え、夜の森は危険である。夜には獰猛な獣物が徘徊するのだ。陰に潜んだ毒蛇や毒針を持つ虫たちも動き出す。巡視隊の滞在時間は短い。


 ベルシエラはアレックスたちに視線を投げた。自分では判断が出来なかったからである。決断するには、情報が少な過ぎる。夢で暮らして数週間。毎日の活動は、春の狩場を検分して回るだけ。その他のことも場所も、何一つ知らない。


「どうする?ベルシエラ」


 アレックスが聞いてくれた。


「どうしたい?」


 サラもベルシエラの気持ちを尊重してくれる。ディエゴは黙って頷いた。そして励ますように、にこっと笑う。



 隊長も忍耐強くベルシエラの返答を待っている。


(ええー。どうしたらいいかなぁ?)


 ベルシエラは迷った。ようやく森の暮らしに慣れて来たところなのだ。ここの暮らしは変化が少なく、しかし刻一刻と森の表情は変わる。そんな環境が美空にはあっていた。田舎暮らしの経験がなかったので、自分にそんな一面があるとはまるで知らなかったのだけれども。


(ここを離れるのは嫌だけど、魔法を習うのは楽しそうだしなあ)


 美空は、いっそ夢らしく急に場面が変わってくれたらいいのに、と思った。



「あの、恐れながら」


 サラが慎重に口を開く。


「申してみよ」


 隊長が厳かに促した。


「はい。少しだけ、家族で相談してもようございますか?ベルシエラはまだほんの小女(こむすめ)ですから」

「分かった。だが、長くは待てぬぞ?夜になるからな」


 隊長は拍子抜けするほどあっさりと、家族の申し出を受け入れてくれた。


「一旦出るぞ」


 隊長に引き連れられて、巡視隊は扉の外に出る。残された家族は急いで話し合うのだった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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