8 隊長は逸材をスカウトする
アレックスが途方に暮れているところへ、騎士の1人が助け舟を出す。兜を脱いで、誠実そうな茶色い瞳が現れていた。髪も茶色で、大人しそうな印象だ。
「隊長、ご覧下さい。馬たちは下草や木の実を食べております。飼葉や水は不要かと」
「いや、カッレ。水はたっぷり飲ませたい」
「そうすると、水飲み場が必要ですねぇ」
カッレと呼ばれた茶髪の隊員は、困り笑顔で森番小屋の周辺を見回した。
「川までは遠いですし、家には家畜もおりませんで」
アレックスはいつもの陽気さは何処へやら、おどおどと隊長の顔色を伺う。
「例年は皆様がお泊まりになっている町の宿まで伺ってましたんで、まさかおいでになるとも思わず」
「よい、よい。構わぬ」
隊長は諦めて馬をそのへんに繋ぐ。馬は水分の多いベリー類や青々とした下草をはんでいる。
隊長は手袋を脱いだ。
「それより報告だ」
「はいっ、どうぞお入り下さい」
一行はぞろぞろと森番小屋に入る。暖炉のある入り口の部屋には、椅子が四つしかない。家族の寝室にある椅子を集めてきたが、隊長は片手で制した。
「我々の分はお気遣いなく」
先導役の魔法使いが言ったので、隊長だけが腰を下ろした。アレックスが地図を差し出し、サラが薬湯を供する。薬湯もやはり、お供の隊員からは断られた。
「ほう、これはいい。身も心もすっと解れるようだ」
隊長はいたく気に入ったようだ。配合をサラに聞いてメモしている。この薬湯は、森で取れる薬草や果実を煮出した飲み物である。森番の一家は、疲労回復のために飲むことを許されている。普通は1日の終わりに淹れる習慣だ。
「お客様なんてお見えになりませんので。こんなものしかございませんです」
サラは申し訳なさそうに目を伏せた。
「なんの、素晴らしい飲み物ではないか。本当に、これはいい」
この森は、王国の所有地である。勝手に狩猟採集を行ってはならない。だが森番は、森の管理を任された人間だ。管理の対価として、一家が暮らす上で必要な狩猟採集が許されている。
「ハルキミドリグサは、この森でしか採れませんので」
サラが差し出す布の小袋を受け取って、隊長は嬉しそうに頬を緩めた。
「かたじけない」
隊長は小袋をマントの隠しに仕舞うと、改めてアレックスに顔を向ける。
「さて、森の様子はどうだね?」
アレックスは地図をあちこ指しながら、この一年の森の様子を説明してゆく。隊長は、時々質問しながら静かに聞いていた。一通りの問答を済ませて、騎士の1人が地図を受け取った。
立ち上がりしなに、隊長がベルシエラに声をかける。
「時にベルシエラ、魔法の師匠は誰だね?アレックスは魔法が使えないと思うのだが」
「えっ、はい、誰にも」
突然の質問に、ベルシエラはどうにか応える。隊長は目をまんまるにした。
「なに?なんと!どうだ、王宮で研鑽してみぬか?」
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続きます