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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第四章 白銀の月と黄金の太陽

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79 杖神様の一族

(この地でふたたびわが血族と相見(あいまみ)える日が来ようとは)


 アラリックの心に知らない男性の声が響く。


「え、え、え?」

(落ち着け、わが末裔よ。我らはこの地で魔物により絶滅した。魔物の毒に打ち勝って魔法を発現した我らだが、いかんせん数で負けていたのだ。杖を用いて魔法を強める方法も編み出したのだがなあ。実に残念だった)


 杖は悔しそうに語る。


(ここで出会えたのは奇跡だ。我が一族の秘術、その(ほう)、全て引き継ぐがよい)

「いや、そんな。急に言われても」


 抵抗する(いとま)もなく、一族の歴史と知識がアラリックに流れ込む。忽ち彼は魔法の力を発現した。


(アラリックよ、いま我らが使う心の会話は、一族にしか聞こえない。いずれ妻を迎える日には、秘術にて伝授せよ)

(ありがとう、ご先祖様)


 伝授の方法は、自分の魔法を注いだ食べ物か飲み物を夫婦の誓いと共に贈るというものだった。



「何が起きたの?」


 ルナの問いかけに、アラリックは端的に答えた。


「この杖は、ご先祖様だった」

「ええっ、あなた、杖神様の末裔なの?」

「うん。この杖を使ってた人がご先祖様だったみたい」


 杖を手にしたアラリックに、銀色の眼をした人々が畏敬の念を向けてくる。


「これはこれは、杖神様のご一族であられたとは知らず、とんだご無礼をいたしました」


 リーダーらしき老爺(ろうや)が進み出た。腰を低くして先程迄の非礼を詫びる。


「我ら月の民の祖先はこの洞窟に流れ着き、杖神様がお放ちになる清らかな空気に触れた時より、魔法を得たと伝え聞いております」


 初めは怪しまれたアラリックだったが、ひょんなご縁で大歓迎されることになった。数年後、アラリックがルナを妻として迎えた。心の会話伝授の道具として選んだのは、思い出の氷盃に盛られた銀雪だった。




(こうして出会ったアラリックとルナが、セルバンテスのご先祖なのさ。今では他の地域で記念品を交換するのを真似て、互いに銀雪を交わすことになっている)


 ヴィセンテは締めくくると、花芽茶を口にした。


(冷めてない?)

(心配してくれて嬉しい。でも、魔法の器だから大丈夫)

(便利な道具は使えるのね)

(うん。エンリケ叔父様と相談しながらやってるよ)


 今世のヴィセンテは、エンリケ叔父を疑う前である。ベルシエラに対する態度や席次のことで不満は感じた。だが、エンリケこそがヴィセンテを弱らせている張本人なのだとは、思ってもみないことなのだ。



(それにしてもエンリケ叔父様、よく私にエンツォの魔法を込めた銀雪をくれたわね)

(叔父様は儀式をただの象徴だと思ってるんだよ。始まりの夜に起こった棘の魔物との闘いも、御伽話だと馬鹿にしてるのさ。セルバンテス本家の出身で、しかも分家の入婿だけど、氷盃の儀式はしていないんだ。あのセルバンテス分家は杖神様の末裔じゃないからね)


 エンリケの妻と思しき人の黒髪を思い出す。かつてセルバンテスの名を許された黒髪巻毛のルシア・ヒメネスは、ベルシエラと同じ魔法を使ったと聞く。もしかしたら、遠い血縁かもしれない。だとしたら、ベルシエラが珍しい波打つ黒髪を持って生まれた説明もつく。


(その分家は、元ヒメネス?)

(よく知ってるね!僕の家のこと、勉強してくれたの?)


 ヴィセンテはキラキラと光を撒き散らして、ベルシエラを愛おしそうに見つめた。


お読みくださりありがとうございます

続きます


閑話

王侯貴族の婚姻と宗教の話


婚姻と宗教には密接な関係がある

宗教勢力が殆ど空気なのはイセコイ特有の現象ではないでしょうか

ハイファンナーロッパは神殿つよいよね

史実ヨーロッパの全面土着信仰時代というと、概ね4世期くらいまでです


日本人、お祭りやお詣り大好きなのにイセコイの多くが無宗教ぽいのは不思議だ

夏祭りと初詣は恋愛鉄板イベだろ!

その地域の宗教と暮らしの関わりを見るには、儀礼祭礼の見学が手っ取り早いのにね


ここ5,6年の異世界恋愛ナーロッパは、側妃とか第二妃とか庶子王子とか、確実に韓流のRopan世界ですよね

これは韓国時代劇の婚姻制度に基づくらしい


数年前までは、日本のファンタジー漫画にそういうのはなかった

わりとモデル国家の婚姻制度を再現していました

宗教と国との二重支配については、やはりあまり描かれてなかったですけども


現実のヨーロッパは、8世紀くらいから16世紀の宗教改革まではローマンカトリック一強

厳格な一夫一婦制かつ純潔ならびに純血主義です

別に長男死亡しただけで家が途絶えるわけではないので、実子を増やす必要はさほどない


国や時代によっては公妾という国法で認められた愛人が王宮に住んでいたり、教皇が愛人にプレゼントした邸宅や財産をまるっと取り上げて新しい愛人にあげちゃったり、司祭に子供がいたり、やりたい放題でした

教皇が愛人の子に嫡流承認して私有財産を相続させたりとか、世俗時代の爵位あげちゃったりとか


なろう系では、他国のスパダリと組んで祖国を攻め滅ぼして復讐するのが一時期流行りました

これはアイルランドシステムだね

アイルランドは大昔から、国内分裂→片方が外国にたよる→属国になる→独立戦争→国内分裂、を延々と繰り返している


スパダリが庶子王子だったり、主人公が私生児令嬢だったりとかも流行った

ローマンカトリック一強社会だったら、この人たちが玉座を狙うのは、ほぼ無理


庶子は実子認定はされるものの継承権相続権はない場合が多い

ヘンリー8世唯一の庶子は、健康だったら即位可能だったが、これは聖公会がカトリックから離反してヘンリー自ら作った宗派だから出来たこと

私生児は認知されてない婚外子なので、権利は何もない

贈与は可能


なろう異世界は、少なくともローマンカトリック的な宗教一強ではないといえる


カトリックの婚姻制度はメンドクサイ

宗教的には婚姻は一生に一度。離婚不可なのであらゆる屁理屈で無効にしたり死罪にしたりする

死別の場合も、再婚は最初の婚姻を無効扱いにするので、亡き妻は一度も婚姻しなかったことにされてしまう

子供達は公的に嫡流であれば家督を継げるが、婚姻無効に伴い籍を抜くことも可能

教会は国の上なので、結婚も即位も教会の承認がないと出来ないシステム


宗教的には現代でもおなじ

ただ、無効手続きは複雑なため、普通の現代人は国法上離婚しているが宗教上は最初の配偶者と婚姻継続という状態になる


念のため追記

カトリックの婚姻には秘跡も絡むのですが、これ書いたら4000字超えたので今回は割愛しました

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