7 巡視隊は逸材を見いだす
夕闇迫る森の中、背筋を伸ばしたマントの人たちは3人の脇を通り過ぎようとした。鎧を纏った騎士と、光る石を首から下げた武器を持たない者がいる。後者は魔法使いだろう。騎士も魔法使いも、マントの色は森に紛れてしまうような燻んだ緑である。
「あっ!」
ベルシエラは騎馬隊に飛びかかる影に反応してしまった。地図には印のない場所なのに、ノコギリ鳥が3羽、マントの人たちを襲ったのだ。
考えるより先に身体が動いていた。アレックスが肩を掴んでベルシエラに膝をつかせた。だが、間に合わない。青い炎を纏った矢は次々と放たれ、正確にノコギリ鳥へと飛ぶ。
「何事か!」
「無礼な!」
「下がれ!」
マントの団体は、ノコギリ鳥に気づいていない。放っておけば、糸鋸の刃にも似た硬く細長い嘴で刺されてしまう。
「えっ?」
「なんだ?」
馬上の一団が対応できずにいる前で、ベルシエラは正確にノコギリ鳥を射落として行く。矢の周りには、ナイフと同じ青い炎がチラチラと揺れていた。
矢を放った後、ベルシエラは素早く地面に膝をつく。目の前で青く燃え上がり灰になったノコギリ鳥を、馬上の集団は目を見開いて眺めている。
アレックスは、はらはらしていた。いくら命を救ったとは言え、巡視隊に向かっていきなり矢を放ったのだから。ノコギリ鳥が葉陰から飛び出した瞬間に、ベルシエラは狙いを定めた。標的の軌跡を正確に読んで、物も言わずに射落とした。
「貴様、名前は」
隊列の2番目にいた男が、ベルシエラを目下ろしている。硬い口調とどっしり構えた騎乗姿勢には、厳格な性格が滲み出る。この人が隊長なのだろう。
「ベルシエラです」
ベルシエラは下を向いたままで返答した。男は鷹揚に頷く。
「良い腕だ。一層はげめよ」
森番一家はお咎めがなくて胸を撫で下ろした。
隊長は馬の手綱を取り直す。隊列は再び動き出した。
「3人とも楽にせよ。森番小屋で報告を聞こう」
先頭の青年は、光る石を首に掛けている。手綱を持つ手を見れば、革手袋の甲に指環と山をあしらった紋章が染め抜かれていた。先導役なのだろう。その後に位置を取る厳格な騎士が巡視隊長だと予想できる。
鎧に身を固めた騎士たちが数人続き、もう1人の魔法使いは殿を務める。この人の手袋には、一枚の羽根と開いた本が図象化された紋章がある。2人の任された位置から、魔法使いが重要な役割を担うものだと知れた。
森番小屋に到着すると、アレックスがまごまごし始めた。
「あの、あっしら馬には乗りませんもんで、その」
巡視隊が降りた馬の扱いが解らないのだ。
「そうか。それは困ったな」
隊長は顎に手を当てて考える。
「森番、干し草と水はあるか?」
「その、水なら」
「水だけではなあ」
隊長は馬の首を軽く叩いて思案した。
お読みくださりありがとうございます
続きます