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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第四章 白銀の月と黄金の太陽

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69 玄関ホールにて

 一周目のエンリケ叔父が婚礼の翌朝何をしていたか、をベルシエラは知らない。朝食にも見送りにも呼ばれなかったからだ。


 一周目でも小説でも、婚礼の翌朝ベルシエラは部屋に引きこもっていた。誰にも呼ばれずひとりきりだった。早朝にソフィア王女たちとランニングをして、戻ってからは放置された。エンリケ叔父の悪知恵である。


「お熱、早く下がりますように」


 というカードが、朝食後にソフィア王女から届けられた。持って来たのはゲルダだが、扉も開けずに追い払われる声が聞こえた。エンリケ派の魔法使いが、ベルシエラを押し込めた客間とやらの前に陣取っていたのだ。


「ここが当主夫人のお部屋ですって?物置部屋の扉に見えるんですけどー?」


 声を荒げるゲルダの言葉が聞こえた。ベルシエラは、部屋の出入り口に走り寄る。魔法で錠が下されていたが、天才と評されたベルシエラには開けっ放しの扉も同然であった。


 ベルシエラの魔法媒体は武器全般である。拳も爪も武器となる。すなわち、身ひとつで魔法が発動できるのだ。扉を指差せば自然に開き、カードに掌を向ければ手の内に飛び込んでくる。


「ゲルダ!」


 魔法でカードを奪い取り、ゲルダの背中を追いかける。しかし、廊下にはエンリケ派の魔法使いと騎士たちが大量にいた。彼らに阻まれ、ゲルダと話をすることは叶わなかった。


 普段は騎士を見下すエンリケなので、騎士は砦で寝起きする。麓にある砦から、輪番の通いでやってくるのだ。魔法使いたちも、側近以外は同じ待遇である。


 そんなに用心深いエンリケが、ヴィセンテ派まで使って大袈裟な武力配備をしていた。ベルシエラが自由に動き回ることを警戒していたのだろう。威嚇の意味もあったと思われる。当時のエンリケは、ベルシエラを王宮のスパイだと思っていたのだから。



 今回はヴィセンテとの関係が良好な為、ヴィセンテ派がエンリケに付くことはあまり考えられない。


(エンリケも今後のことを考えてんのかしら?)


 エンリケは、じっと玄関の大扉を見て立っているのだ。



(一周目にこの朝何があったのかを知ってるのは、お(かあ)様だけ)


 エンリケが何のためにここに留まっているのかを見届けたい気もする。だが、先代夫人の幽霊が姿を現さないわけも気になる。


(あの崖から動けないのかしら?)


 ベルシエラは逡巡した。ヴィセンテと中庭を散歩する約束もある。ソフィア王女からは、朝食と食後の散歩とは着替えをするものだと教わった。女主人としての権威を示す為には、煩わしい習慣にも従ったほうがいいだろう。


(うーん、とりあえず着替えようかな)


 今回のベルシエラは、女主人の部屋で暮らすことになった。物置部屋に毛が生えた程度の似非客間ではない。ちゃんと召使い部屋に繋がるベルの紐が下がっていた。呼べば着替え係もやってくるだろう。


 その時、ガラガラという車輪の音がした。蹄の音も聞こえてくる。エンリケはピクリと反応し、大股で表に出て行った。ベルシエラは思わず扉の陰に隠れた。


お読みくださりありがとうございます

続きます


閑話

ブリタニカ国際大百科事典によれば

15世紀初頭、紙製の手作り絵入りカードがヨーロッパで交換されるようになった。木版で絵と言葉が印刷されたカードも流行したそうだ。カードの交換は古代エジプトや古代中国で既に行われていたという。

15世紀半ば、グーテンベルグ以降には、次第に印刷されたカードも流通し始めた。

カードは大きく分けて2種類。祝日の挨拶類と、誕生日祝いや友情の気持ち、病気見舞いなどの感情をつげる挨拶類だ。


15世紀後半は、郵便システムや紙の普及が目覚ましかった時期である。紙はそれまでの獣皮紙の他に、古着などから作る麻紙が量産されるようになっていった。

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