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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第四章 白銀の月と黄金の太陽
68/247

68 悪役は無言で立っている

 ホールに残された召使いたちも、水が退くように去ってゆく。ヴィセンテが座っていた椅子も下げられた。広いホールの真ん中で、エンリケ叔父とベルシエラだけが取り残されていた。


(何か言われるのかしら?)


 一向に立ち去らないエンリケを、ベルシエラは訝しんだ。先に立ち去っても良い。だが、エンリケ叔父が何を考えているのか確かめておくのにはいい機会かもしれない。


 エンリケは、朝食に引き続いて見送りでも屈辱を味わったのだ。客人には笑顔を向けていたが、内心は荒れ狂っていることだろう。硬直した微笑みの仮面が張り付いているかのように、エンリケは表情を崩さない。


 昨夜、そして今朝見せた激昂が嘘のように鎮っている。ベルシエラへの憎しみは、その眼を覗き込めば手に取るように判るのだが。



 しばらく睨み合いが続く。エンリケはベルシエラに顔を向けないが、全身で嫌悪を知らせてくる。ベルシエラは目の前にいる初老の紳士を繁々と観察した。


 ヴィセンテも今のところは、エンリケが本家の家紋をつけていることを許したままだ。当主代理も解任していない。ベルシエラは新参者で、ヴィセンテは病床にある。気概だけでどうにかなる段階ではなかった。


(まずは、明日から花粉の採取ね)


 しかし、今回のベルシエラは婚礼の夜から目立ってしまった。放任されていた一周目ほど自由に動けるだろうか?


(もしかしたら、城外に出るのも難しくなるかもしれない)



 1日も早く城の実権を取り戻し、エンリケの背後を洗い出す。それが当面の目標だ。


(セルバンテス家の黄金の太陽騎士団はヴィセンテ派だけど、白銀の月魔法団はエンリケ派だから厄介ね)


 城は小さいが、騎士団と魔法団がある。城には精鋭の魔法団が常駐し、騎士団の全てと残りの魔法団員は麓の砦で生活していた。


(問題は、エンリケ叔父の息がかかった魔法使いたちに見張られるって点よね)


 今、ベルシエラは要注意人物なのだ。おそらくは、城の出入りから城外での活動までエンリケ叔父に事細かに報告されてしまう。


(一周目と小説で集めた知識はあるけど、新しい情報も欲しいんだけど)


 当面は大人しくしていたほうが良さそうだ。花粉の採取だけはどうにか急ぎたいのだが。



 ガヴェンがこの花粉の効能をファージョンの古い記録から見つけ出したのは、今から数年の後である。ファージョン家の権威無くして、敷地内に自生する花樹の花粉を虚弱な城主に供するなんて不可能に近い。


(効能を知らずに偶然勧めたように装うにしても、なかなか難しいわ)


 隊長がいるうちに採取できていたならば、毒性がないことが証明出来たのに。ソフィア王女が贈った魔法の道具があれば、誰もが無毒と認めるだろう。


(どうやって怪しまれずに飲んで貰えるかしら)


 ベルシエラは微動だにしないエンリケ叔父を盗み見た。まるで敵意の塊だ。


(ところでこのおじ、なんでずっとここに居るのかしらね?)


お読みくださりありがとうございます

続きます

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