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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第三章 ベルシエラ、美空、再びベルシエラ

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51 美空の現状

 一周目で命を奪われた崖下で先代夫人の幽霊と再会したベルシエラ。前世を思い出して、一周目ベルシエラ死後の経緯も知った。花粉が魔法酔いの薬となる花樹のそばで幽霊と話しているうちに、かなりの時間が過ぎてしまった。


「ちょうど小説を読み終わったタイミングで、こちらの過去に呼び戻したんですね?」


 ベルシエラ=美空は、最後に何気なく質問した。


「出会う前まで戻せば、あの子の運命も変わるかと思ったのよ」

「けど、魂がこちらに戻ってしまったら、美空としての肉体からは魂が抜けたってことですよね?美空、死んでますよね?美空の家族や友達はショックを受けたんじゃないかしら?」


 美空は平凡な人生を歩んでいた。家族は仲良く、少ないが誠実な友達と穏やかに暮らしていた。最近は、地味で真面目な信頼できる男性と良い雰囲気になっていた。彼らは、突然魂が抜けた美空に何を思っただろうか。悲しんでくれたのだろうか。



「あら、ちょっと!まるであたくしが美空さんの命を奪ったみたいに仰らないで」

「え?美空生きてるんですか?やっぱりここは夢?」


 先代夫人が憤慨した。美空が生きているのならば、ここは夢なのか。あるいは美空とベルシエラに分裂したのか。


「やあね。違うわよ。美空さん、熱中症で朦朧となさってたの。ちょうど小説を読み終わって、幽霊サイトが開いたまま寝てらしたから。魂が抜ける瞬間、あたくしの呼びかけが届いて、こちらの過去に戻る魔法の流れに乗れたんですわ」

「え、美空、熱中症で死んだの」


 確かに二度寝した時、暑かった。喉も乾いていたが、眠いので我慢した。すぐ起きるから、とクーラーもつけずに意識を手放そうとしていた。


 そのまま命を失ったという事か。その時魂が抜けて、ベルシエラの肉体へと呼び戻されたのだ。あの朦朧とした意識の中で聞いた名前は、美空ではなくベルシエラだったようだ。


「それじゃあやっぱり、美空は死んでしまったのね。まだ二十歳(はたち)そこそこだったのに。不精しないでクーラーつければ良かった」


 ベルシエラ=美空は涙を流した。自分の不注意と不幸な偶然で、家族や友達を悲しませてしまったなんて。



 ベルシエラ=美空は、はたと気がついた。


「ねえ、お姑様」

「なあに?ベルシエラさん」

「こちらで寿命を全うした後で、あちらの過去に戻れないかしら?記憶を遺したままで?」


 先代夫人は難しい顔をした。


「幽霊サイトが残ってるから、魂を送ることも過去に戻す事も出来るとは思うけど」

「けど?」

「記憶は、今回の美空さんのように、消えてしまうかも知れないわよ」


 美空は考えた。なんとか熱中症による死を回避できないものか、と。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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