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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第三章 ベルシエラ、美空、再びベルシエラ

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48 エンリケ叔父は偏狭な魔法使い

 差別意識で目が曇っていては、ヴィセンテに適切な治療を受けさせることが出来ない。ベルシエラは、なんとか発言権を得ようと考えた。


「ふん、魔法使いは実力社会と、ファージョンの若様から教わりましたわ。エンリケ様、魔法比べでも致しましょうか?」


 魔法使いには、魔法使いのやり方がある。巡視隊でフランツとガヴェンに教わったことだ。


「傲慢な小娘が。教養のない者とは話が通じぬ」

(逃げるのね?情け無いったらないわね!)



 当主夫人への敬意がないエンリケに、ベルシエラも当主代理様などとは言わない。ヴィセンテの病気を良いことに、財政から内装、人事に食事内容まで、エンリケがこの城の実権を握っている。だが、魔法使いとしての実力は、ベルシエラとは比べ物にならない。



 エンリケは権威主義である。セルバンテスと並ぶ建国の功臣ファージョンの名を出されると弱いのだ。直系の孫ガヴェンは王宮直属の巡視隊員であり、隊長の子飼いでもある。洒落者なのでご婦人方の人気も高い。軽すぎない親しみやすさで信頼もされている。


「面白い子ね」

「ふふ、お上手ね」


 などとご年配の貴婦人方からも人気だ。ファージョン特有の躑躅色に煌めく癖のない髪と、お茶目に垂れた金茶色の瞳も称賛の的だった。長髪の似合う背が高い細身のガヴェンは、相棒の魔法使いフランツと好対照だ。



 フランツ・ヘルベルト・フォン・プフォルツは、芦毛馬のような、暗めの灰色と消し炭色とが入り混じった特徴的な髪色だ。剛毛を短く刈り込んで、暗緑色の猫目でひたと前を見つめている。多少気が短くて、ご婦人方には避けられていた。


 声もダミ声なので、子供からは笑われる。


「変な声ー!」

「変な色ー!」

「なんだと?クソガキどもめが」

「ちょっと!フランツ!子供に怖い顔しちゃダメでしょ」


 若くサッパリとした姉、カチア・ソフィア・フォン・プフォルツにとっては、いつまで経ってもヤンチャな弟だ。魔物討伐隊長である父、魔法公爵エドムント・トニオ・フォン・プフォルツの、名実ともに後継と目されるのはカチアである。



 魔法使いコンビに限らず、巡視隊の面々は小説に現れなかった。先代セルバンテス夫人は、彼等にさほど興味がなかったのだろう。


 王宮直属の巡回騎士団に所属している巡視隊。彼等と親しい故に、ベルシエラは益々王宮から送り込まれたスパイだと疑われていたのだ。魔法使いの中には、騎士を見下す者もいる。武器を振り回すのは野蛮で、魔法使いは優雅だと思っているのだ。


 そうした連中は、騎士団所属の魔法使いを堕落した者として蔑んだ。


「蛮族に尻尾をふる犬畜生め」


 エンリケ叔父も、そうした傲慢な魔法使いの典型であった。だがファージョンは歴史ある家柄なので、例外扱いらしかった。フランツのプフォルツ家は四公爵の中では歴史が浅い。だからフランツのことは、気にも留めていないようだ。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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