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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第三章 ベルシエラ、美空、再びベルシエラ
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47 民間療法

 ヴィセンテはガヴェンからの手紙を丁寧に読んだ。


「どれどれ、成る程?それで、これが、その薬、湯だと?」

「左様でございます。予防にも使えます。健康な人でも飲めますから、お毒見させていただきましょうか?」

「解毒剤を飲んでいるかもしれませんよ」


 トムは臆面もなくベルシエラを中傷した。


「あら。それならトム、あなたがお毒見なされては?」


 ベルシエラはすかさず提案した。


「たの、めるか?」


 トムの顔が一瞬強張った。


(何かしら?)


 トムはお毒見役も兼ねているのだ。なぜ今回に限って躊躇うのか。


(あらら?あなたこそ、いつもは解毒剤を飲んでるのかしらぁー?)


 ベルシエラは疑いつつ、陶マグをトムに預ける。トムはポケットからお毒見スプーンを取り出すと、恐る恐る薬湯を口にした。しばらく観察していたヴィセンテは、安全だと判断してマグを手にした。



 その日からベルシエラは、野山や村をを駆け巡り始めた。時には数日城を空けることもあった。帰宅後、実験のため部屋に篭ることもあった。


 薬になる鉱物や珍しい草や実を持ち帰ることも多かった。先代夫人の眼には、それが引き籠ったり遊び歩いたり、贅沢に興じたりしているように見えたのだろう。


「ヴィセンテ様、今回訪ねた村で聞いたのですが」

「なんだ、また、新し、い、薬か」


 帰城したベルシエラが報告に行くと、ヴィセンテは決まって煩そうに呟く。


「いえ、魔法を使わないで床ずれ防止をする方法です」

「また、そんな怪しげな民間療法を」


 いちいちトムは邪魔をする。


「いいんだ、トム。なんでも、試して、みようじゃ、ないか」


 ヴィセンテは不機嫌そうな目つきをしながらも、ベルシエラの調査を信頼していた。花粉を配合した薬湯の効果が出始めたからもある。だがそれだけではなく、ベルシエラは詳細な情報を伝えていたからなのだった。


 誰に、いつ、どこで、何を、どんなふうに聞いたのか、ベルシエラは正確に説明した。最初のうちヴィセンテは、使者を送って確認していた。だがそのうち、ベルシエラの言葉だけで試してみるようになった。



 トムはエンリケに都度知らせ、エンリケはしばしば抗議に現れる。ヴィセンテには不用心だと小言を言う。王命で嫁いで来たベルシエラを、既に数年間追い出す事が出来ずに痺れを切らしていた。無視した挙句に、やっと顔を向けたかと思えば暴言、嫌味、侮辱、拒絶に、否定とくる。


 そんな事があっても、既に吹っ切れていたベルシエラは動じなかった。


「お疑いなら、御存分にご調査をなさいまし」

「なんと無礼な。森番の娘風情が」


 悠然と構えたベルシエラに、エンリケは怒りをぶつけるのだった。エンリケはヴィセンテと違って、事実や理性よりも感情や偏見に従う人物であったのだ。そういう人には、真実も証拠も意味をなさない。ただ自分が見たいようにしか見ないのだから。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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