3 一家は森番をしている
さりげなく観察しながら、美空は暖かな食事を口に運ぶ。
「サラ、メルメラーダ回してくれ」
「はいよ、アレックス」
「父さん、次俺使う」
食卓の中央付近にあったジャムのようなものは、この地域でメルメラーダど呼ばれる食べ物だと分かった。3人とも、皿代わりにした平たいパンにナイフで器用に塗りつけていた。
先に肉を食べてから、円いパンを食べる。肉汁や脂でふやけ、食べられる硬さになっていた。酸っぱいジャムは、肉の味にとても合う。
肉はこんがりと焼けていて、少し癖のある匂いがした。鹿よりは羊に近いだろうか。家畜の声はしない。森の動物なのだと思われる。食卓に上った肉の量は少ない。だが、室内に生肉は見当たらない。地下室を含む五つある扉のうちのひとつが、貯蔵庫に繋がっているのだろう。
(あるいは、うんと小さな動物なのか)
食後に水を飲みながら、ベルシエラこと美空は今食べた肉に想いを馳せた。
食事が済んで立ち上がると、赤毛男性が今日の予定を発表した。食事中の会話から、この人はアレックスという名前だと知れた。そして推察通り、金髪青年の父親である。
「そろそろノコギリ鳥が孵る季節だ。今日は3人で見回りに行くぞ」
「おや、もうそんな季節?巡視隊もくる頃かねぇ」
「そうだな。もう来る頃だろう。くれぐれも粗相のないようにな?ディエゴもベルシエラも、見かけたらすぐ、地面に両膝をつけて頭を下げるんだぞ?」
巡視隊という集団は、よほど権力を持っているらしい。
「なるべくなら年間報告をする日以外、出くわさないほうがありがたいねぇ」
母サラは心配そうに手を擦り合わせる。巡視は年に一度行われる様子だ。
「ばか、滅多なことを言うもんじゃねぇ。どこで誰に聞かれてるかわかりゃしねぇからな」
父アレックスは慌てて母を嗜める。
「そうだよ母さん。巡視隊には魔法使いたちもいるからね」
「だからこそ心配なんじゃないか。森番のちっちゃな家族なんて、どうにでも出来るだろ?巡視隊なら」
「ほらもう、いいから余計なこと言うな、サラ」
アレックスは迂闊な言葉を次々に繰り出すサラの身を案じているのだ。だが、サラが不用心なおかげでベルシエラこと美空は、この森が今どんな状況に置かれているのか理解できた。
「ディエゴとベルシエラは、早く弓持って来なさい。父さんも支度してくる」
「はーい」
ディエゴは軽やかに答えて、ベルシエラの部屋の隣にある扉を開けた。ベルシエラも急いで部屋に向かう。弓もナイフも身につけたことがない。そこで必死に、昔見た冒険小説の挿絵や活劇映画を思い出す。
(こんなもんかな?まあ、間違ってたらアレックスとディエゴを見て直せばいいんだしね)
ベルシエラは気楽な性分だったので、深く考えずに装備を完成した。
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続きます