27 期待と侮辱は半々くらい
岩山の上に聳える堅牢な魔法の城がある。痛いほどに冷たい風が吹く冬の宵、星空を背にして冷徹に平野を見下ろしている。ギラソル魔法公爵セルバンテス本家の館カステリャ・デル・ソル・ドラド、黄金の太陽城だ。
城の脇を更に登ると壁のない建物があり、ステージと長方形の台が設置されている。先程まで行われていた結婚式の列席者たちは、この後の予定について説明を受けていた。冬も半ばの寒い夜だが、屋根の下には魔法の暖房が付いている。
「では、宴席へどうぞ」
我が物顔で案内するエンリケ叔父を不審がる人は誰もいない。にこやかに、穏やかに、エンリケは当主代理を演じている。今日は本物の当主が花嫁を迎えたと言うのに、エンリケは堂々と本家の家紋をつけていた。
森番一家は巡視隊に付き添われ、城の方へと降りてゆく。
「階段が急ですから、足元お気をつけて」
隊長が森番夫婦に声をかける。
「森なら得意なんだがなぁ」
赤毛のアレックスがおぼつかない足つきで階段を辿る。サラもおっかなびっくりだ。村祭りに行くような質素な祭礼着ではあるが、ゲルダに髪を結って貰って華やいでいる。ディエゴも眩い金髪を撫で付けて、靴もピカピカに磨いて来た。なかなかの男振りで、ゲルダが見惚れる程だった。
「やっぱり誰かの式服、借りれば良かったわね」
「揶揄うなよ、ゲルダ。似合うはずないだろ」
「そうかなぁ。いいと思うけどなぁ」
先をゆく隊長は、ソフィア王女に腕を貸す。ソフィア王女は1人でも下りられるのだが、人目があるので隊長のエスコートを受けたのだ。
「ギラソル魔法公爵、今日は一段とお具合が悪そう」
ソフィアは伸び上がって隣の大男に囁く。
「それにしても、花嫁に付き添う者はいないのですかね?」
ベルシエラは、ひとりでヴィセンテと付き人を追っていた。山に刻まれた急な石階段を、誰の手も借りずに下りてゆく。カッレが慌てて追いかけているが、セルバンテス側の人間には見向きもされていない。
黄金の太陽城に勤めている人々にとっては、この婚姻は受け入れ難いものだった。
「恐れ多くも病気のご当主様を、真冬の夜中に立ち歩かせるとは」
「森番の娘ですって?野蛮な」
「おいたわしい」
そう言って恨みを溜めていた。
婚姻の儀式が真冬の夜中であることは、セルバンテス家の伝統である。ベルシエラには関係がない。だが、悪意のある人々は、気に食わないこと全てをベルシエラのせいにした。
一方で、天才魔法使いを歓迎する親戚もいた。
「世紀の大魔法使いだそうじゃないか。これでお家は安泰だな」
「そうですねぇ。お世継ぎはきっと、始祖の杖をお使いになられるでしょうね」
侮蔑と期待とを背中に受けながら、ベルシエラはとうとう玄関ホールに到着した。
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続きます