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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十二章 貴女は僕を読んだ人

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241 前夜祭の準備

 搾油祭の前日、黄金の太陽城には親しい仲間が集まっていた。


 巡視隊がこの地を通るのは例年今頃の為、隊長以下6名のフルメンバーが仕事がてら城に滞在してくれていた。今回はソフィア王女も同行している。王家の代表として復興状況の視察に来たのだ。急な招きだったこともあり、プフォルツ領に住む森番一家は来ていない。



「だいたいこんな感じか」


 数回花火擬きの練習をした後、フランツが言った。花火メンバーは山頂の祭礼場に集まっている。午後の風が汗ばんだ肌を優しく拭って吹き過ぎた。


「そうね、まだ明るいから分かりにくいかも知れないけど、かなりいいわ」

「アルトゥール、ありがとう。風の壁を解いていいよ」


 アルトゥールが風の魔法で空を隠したので、予行演習は外から見えない。炎や光の壁では目立ってしまう。風なら怪しむ人もなく自然に遮蔽出来るのだ。



「おやつは中庭で食べる?」

「それもいいね」

「ははっ、ベルシエラもすっかり暴食の民になったなぁ」


 ベルシエラたちが夕食前のおやつについて相談を始めると、ガヴェンが苦笑いした。


「あら、水分や塩、それに甘いものをこまめに摂るのは身体にいいのよ?摂り過ぎなければね?」


 ベルシエラは美空の知識を披露する。最も、美空のいた国では水分を控える文化があり、小さな子供からお年寄りまで熱中症で倒れる事例が後を経たなかったのだが。


「いや、1日5食おやつ3回におめざと晩酌、最後に寝酒だろ?多すぎるぜ」

「いいじゃねぇか。平和な証拠だよ。ガハハ」


 ガヴェンがうんざりした顔をすると、フランツが豪快に笑った。



 前夜祭は初めての試みだ。祭の準備を終えた広野の村々で楽しめるように、ユウヤケコモモで作った酒とジュースが配られた。樽を開けるのは日が暮れてからの予定である。短期間で用意できたのは魔法のお陰である。


 魔物の研究をさせられていた魔法使いたちも、平和な魔法利用に慣れて来た。直接に非道な行いをしていた者は砦の半数くらいだった。彼らは既に斬首されている。


 人体実験に使われた被害者は勿論のこと、実験室で作業の補助をさせられていた魔法使いたちは、恐怖や罪の意識に苛まれていた。彼らは安全な環境に順応できるようにサポートされている。



「砦もそろそろおやつよね」


 先代夫人の幽霊が言った。


「私たちは見ているだけしか出来ないからつまんないわ」

「大昔の方々もこの頃はあちこちで見かけますね」


 ガヴェンたちにも幽霊の説明をしたので、ベルシエラは大っぴらに幽霊と話す。


 洞窟の幽霊たちは、斬首を見届けて大方は自然の中に溶け込んで消えた。砦の3人組も無念を晴らして居なくなった。だが、陰謀のない新しい時代を楽しみたいと言って残った者もいる。彼らは洞窟を離れて、人手は激減したが正常になった砦や城の穏やかな日常を楽しんでいる。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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