表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第二章 夢の貴方を救いたい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/247

24 ギラソル領の虚弱な領主

 ギラソルは黄色い花である。真夏になれば、大の男の背丈を越して平野を埋め尽くす。小高い山の上にある小城から見渡せば、さながら黄昏に揺蕩う黄金の海であった。


 紋章にこの黄色い花と杖を添えるのは、魔法公爵セルバンテス家だ。その紋章をでかでかと背中に背負って、今銀髪の若者が紺碧のマントを翻す。細い身体は、マントの重みに耐えかねてよろめく。


「あっ、大丈夫かしら?ですかしら?」


 慌てて言い直す言葉遣いは、血色の良い唇から我知らず漏れたもの。ベルシエラは凍える息を白く吐き、すっきりと鼻筋の通った健康な顔に皺を寄せた。



 花嫁の髪は黒々と艶めき、ふんわりと結い上げてある。発光石で作られた花の形の飾りを髪に散りばめて、銀のヴェールで面を隠す。


 ドレスは袖口の広い中世風の形である。鮮やかな藍色は、ベルシエラの瞳を映したもの。銀のサッシュは花婿の色。星屑から生まれた夜の妖精だと言われても、信じてしまいそうな出たちだった。


 遠路はるばるやってきた森番一家と、特別休暇を賜った巡視隊の面々が息を呑む。普段の活発さを知っているだけに、魔法で幻を見せられているんじゃないかとすら疑った。



 ギラソル領の伝統に従い、新郎新婦は静寂の中を並んで進む。揃いのブーツは銀色の毛皮で出来ている。参列者達の間を練り歩き、ステージにあがる。そこには花嫁のマントが準備されているのだ。


(静かね)


 発光石が乳白色に灯り、明るい黄色のギラソルと銀色の杖が紺碧の布地に映えている。これを花婿が花嫁に着せかける。花婿は最後に、立会人から雪を盛った氷のゴブレットを受け取るのだ。ゴブレットには魔法がかけてある為、皮膚や布地が張り付いて困ることはない。


(ひとりで練習はしたけど、いざとなると恥ずかしいわね)


 2人は互いに手で掬い取った雪を相手の口に運ぶ。これの実践はぶっつけ本番だ。新郎は虚弱なので、真似事の練習すら出来ていない。



「はー、でも、麗しいって言葉は、この人のためにあったのねぇ」


 若きセルバンテスは、癖のない銀髪を高い位置で一つに束ねている。マントに跳ねるその髪は、誇り高い神馬の尻尾にも似て、今冷涼に晴れた冬の月光を浴びていた。


(それにあの瞳といったら)


 瞳を染める薄い灰青色は、暮れ切る前の冬空を思わせる。どこまでも澄んだその(まなこ)には、時折オーロラのような光が揺れる。


(小説の描写そのものだわ!寂しい冬の木立ち、悲しく冴えた冬の宵!)


 そう。彼は、古風な恋愛小説の主人公なのである。小説の中で、その姿は感傷的に歌い上げられていた。


(この日の前に目が覚めなくて良かったぁぁ!)


 美空のテンションは爆上がりである。非常に興奮した、などという表現は相応しくない心理状態だった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ