239 夫婦は出し物の相談をする
ベルシエラはヴィセンテと一緒に魔法の花火を練習した。
「1色や2色のもシンプルでいいけど、もう少し色があってもいいわね」
「ガヴェンやフランツにも頼めないかな」
「ガヴェンは金の光、フランツは茶色い光ね」
「うちの家紋ができるんじゃない?」
ベルシエラはぱっとヴィセンテの両手を握る。
「出来るわ!エンツォ、素敵な考えね!」
ヴィセンテは褒められて頬を染めた。
「金の花びら、茶色の種、茶色の杖。金のリボンを作って、僕の赤い炎でモットーも書けるよ」
「完璧じゃない!」
「シエリータの青が使えないのは残念だけど」
「地色は紺でしょ?私の炎は空色に近いけど、青の仲間には違いないわ」
「そうだね。それじゃ、シエリータには枠を描いてもらおうかな」
そう言いながら、ヴィセンテは赤い炎で空中に家訓を書いた。
太陽の元に恥づることなく。
どこかでカタリと音がした。
「やだ。杖神様が反応しちゃったわ」
「せっかくだから、杖神様やお母様にも相談しようよ」
「そうね。幽霊は使ってる魔法だけしか見えないけど、魔法さえ見えればいいから問題ないわよね」
「手伝いをお願いする皆んなには説明したほうが良さそうだけど」
ヴィセンテは心配そうに言う。
「突然どこからともなく魔法が現れたら怖いんじゃないかなあ」
ヴィセンテは至極常識的な判断をした。ベルシエラには幽霊が見えているし、自分自身も一度幽霊になった。幽霊に対する忌避感というものがなくなっている。見えているので、突然魔法だけが現れるという感覚も、実のところはよく分からない。
「そんなものかしら?」
「そんなものだよ。シエリータ。姿の見えない魔物が出たかと思われちゃうよ」
ベルシエラははっとする。ギラソル領には魔物が大増殖して1年も経っていないのだ。人々は魔物の出現に神経を尖らせている。警戒を解けないでいるのは村人たちだけではない。専門家である魔物討伐隊も、国内の異変に敏感な巡視隊も、それは同じだ。
「そうね。いらない不安を抱かせたら悪いわね」
「でしょう?」
ふたりは、協力してくれる人が到着したらすぐに説明することにした。
ふたりは城門から前庭を抜けて、車寄せの先へと歩いてゆく。この山城に裏門はなく、そのまま搬入口や厩、洗濯場などのある区域へと繋がっていた。夫婦は最近、毎日城を巡回している。
「花火はお祭りのいつ、どこから上げるつもり?」
熱心に働く黄金の太陽城の人々と軽く挨拶を交わしながら、ふたりは話の続きをしていた。
「山頂からはどうかしら?花火はお祭りの前夜か、最後の夜か、どちらかがいいと思うわ」
搾油祭は3日間続く。
「最終日には片付けもあるから、前夜にするほうが良いかもしれないね」
「そう?でもフィナーレにも何か欲しいわね」
ベルシエラの知る限り、搾油祭の最終日にはこれと言って華やかな締めくくりの催しはなかった。中日には踊りやお芝居があり盛り上がる。初日はギラソルオイル初搾りの無料配布がある。最終日は特に何もない。屋台の数も減る。
「そうだね。最後に盛り上がるのはいいね」
ヴィセンテの目が輝いた。辛気臭い病人暮らしがようやく終わり、明るい雰囲気が嬉しくてたまらないのだ。
「何か案はあるの?シエリータ?」
聞かれたベルシエラも特に案はなく、ふたりは考え込んでしまった。
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