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貴方は私が読んだ人  作者: 黒森 冬炎
第十二章 貴女は僕を読んだ人

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235 クロウタドリを探して

 ベルシエラはさっと人差し指を振る。道案内の炎が飛び出した。


「シエリータ、鳥は炎が近付いたら逃げちゃうんじゃないの?」

「そういえば、そうね。じゃあどうする?」


 ベルシエラは探し当てる自信がない。


「音を頼りに歩き回ってみればいいよ」

「難しいわよ?」

「シエリータは森番の娘だろ?」

「それはそうだけど、自信がないの」

「見つからなくたっていいじゃないか」


 ヴィセンテはそっとベルシエラの手を取った。


「そうね。お散歩するだけでも気持ちがいいわ」

「トムが緩み始めた雪道は危ないって」

「ええ、溶けたり凍ったりして滑りやすいわね」

「足元に気をつけて行こう」



 ふたりは手を取り合って東屋を出る。ヴィセンテの脚にはうっすらと筋肉がついてきた。銀の髪には艶が出て、頬にも少し丸みが見え始めている。色白だが不健康な青さは消えた。


 ベルシエラは藍色のドレスに濃紺のマントを羽織っている。ヴィセンテとお揃いの、家紋付きのマントである。式典用の宝石刺繍はない。家紋付きではあるものの、普段使いのマントだ。



 上質な革の手袋をした手を繋いだままで城門を出る。変化に富んだ鳥の鳴き声を追って、ふたりは山路に出た。魔法酔いの薬になる花粉が取れる木が見えてきた。


「この木がきっかけだったんだね」


 一周目、ヴィセンテがベルシエラの心に触れて反省したのは、急斜面に生えたこの木を見たからである。ここでベルシエラは早朝に花粉を採取した。この斜面で一周目のベルシエラはエンリケ叔父に撲殺された。



 雪の下から黄色いが顔を出している。やや厳つい感じのする丈の低い花だ。この花は薬にはならない。黄金の太陽城にある「ギラソル植物図絵」によれば、早春に咲く花で、フォルトゥナソウと言う植物だった。


「はなやいだ気持ちになるわね」

「雪の中で黄色が鮮やかだね」


 ふたりはのんびりと道端の花や木々の芽を眺めて歩く。白い冬毛のウサギたちが木々の間を走る。


「弓を持ってくれば良かったわ」

「ウサギ食べたいの?」

「見たら食べたくなったの」

「厨房に伝えておこうか?」

「いいのよ。そこまでじゃないから」


 ヴィセンテは愛情の籠った眼差しを妻に向ける。ベルシエラはなんだかくすぐったいような気持ちになった。



 しばらく降りて瀬音のする方へと馬車道を外れる。


「賑やかに歌っているわね」

「さっきより大きく聞こえてきたよ」

「そうね。近いわ」


 遥か梢では冷たい風が渡ってゆく。常緑樹がざわざわと枝葉を鳴らしていた。


「そこ、気をつけて」

「ありがとう」


 地面に岩が突き出していた。ヴィセンテはベルシエラを優しく気遣って、そっと手を引いた。

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